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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「ミニ宇宙ステーション」や「宇宙タクシー」—HTV-Xに仕込まれた将来構想とは①

2025年10月29日、ISS(国際宇宙ステーション)に接近するHTV-X1号機。(提供:NASA)

2026年4月、約5か月間の宇宙滞在を終えた油井亀美也宇宙飛行士の会見で、HTV-X(新型宇宙ステーション補給機)の未来について尋ねたときのことだ。油井飛行士はHTV-Xには将来構想を見据えた様々な設計が仕込まれていると明かし、「ミニ宇宙ステーション」という言葉まで飛び出した。油井飛行士の発言を抜粋・要約すると以下のようになる。

「HTV-Xはかなり発展性があり、色々なところを変更して様々な形態ができる設計になっています。ISS(国際宇宙ステーション)や商業宇宙ステーションに物を運ぶならこういう形態、月周辺に運ぶならこういう形態など。さらに、HTV-X同士がドッキングして小型の宇宙ステーションになるような構想も見据えた上での設計になっているんです。

(HTV-Xには宇宙飛行士が中に入って作業する)与圧モジュールがありますが、窓がついている形態があってもおかしくない。(JAXAは)生命維持装置も開発しているし太陽電池もありますから、HTV-Xが2台ドッキングすれば宇宙実験ができるとか、(今はできないが)宇宙飛行士が滞在できる『ミニ宇宙ステーション』とか。かなり夢のある設計になっているので、調べてみてください」

ISSに接近するHTV-X1を撮影する油井飛行士(左)、カードマン飛行士(右)。(提供:JAXA/NASA)

私がそんな質問をした背景には、NASAが3月末にアルテミス計画等について新たな工程を発表、月の周回軌道を飛行する基地ゲートウェイの開発が停止となり、将来ゲートウェイへの補給が期待されていたHTV-Xの将来像への影響を聞きたいという意図があった。だが、このような計画変更を見越したような設計がなされていたとは。これは是非、詳しく知りたい! そこでHTV(こうのとり)の頃からDSPACEでたびたび取材させて頂いた内山崇さんに取材を申し込んだ。

HTVからHTV-X、そして有人宇宙船までじっくりお聞きした内容を2回に分けて紹介します。

内山崇さん。JAXAファンクションマネージャ。自動ドッキング技術実証プロジェクトチーム、有人宇宙船検討チーム、宇宙戦略基金事業部技術マネジメントグループなどを兼任。HTV(こうのとり)では3号機と7号機のリードフライトディレクタを務めた。

100点越えのHTV-X1。打ち上げ後は、地政学的な影響で軌道計画変更も

まずはHTV-X1の大成功おめでとうございます!ISSへの物資補給のあと、3つの技術実証も終えて5月26日に大気圏再突入を成し遂げましたね。どう評価されていますか?
内山崇さん(以下、内山):

素晴らしかったですね。100点超えていると思います。

平坦な道ではなかったそうですね。
内山:

そうですね。当初予定された打ち上げが悪天候に延期になりました。打ち上げ日がまだ定まらない時から、運用チームは毎日打ち上げの可能性のある日の緻密な軌道計算を繰り返していました。実は打ち上げ後も軌道計画を変更しないといけないことがあって。

打ち上げ後も? なぜですか?
内山:

やっぱり初めて宇宙に飛ばすものなので、細かいことって色々起きるんですよね。ハードウェアの不具合もあれば外的要因もある。地上からの電波干渉(GPSの電波妨害)があったんです。HTV(こうのとり)の最終号機だった9号機から5~6年経って、結構変わった点でした。

GPSの電波妨害の影響は大きかったのでしょうか?
内山:

そうですね。宇宙機をリアルタイムで運用するときに、ある区域の上空ではGPSの電波がうまく受からない。すると自分の飛ぶ正確な位置がわからなくなり、飛行に非常に影響が出る。HTV-X1を飛ばす前にNASAからも事前に聞いていたんですが、実際に飛ばしてみると、ミッション中に電波を受けられる区域が少し変わったりしました。すると予定していたことを、予定していた場所でできないことがある。例えば予定していたマヌーバ(エンジン噴射)を遅らせないといけなくなる。それでもISSに同じ時刻に到着できるように、新しい軌道計画を急遽、準備しました。

5月26日、HTV-X1の再突入を見守る管制室の様子。(提供:JAXA)
それはめちゃくちゃ大変ですね。
内山:

新しい世代の人たちがそういった苦労をすることはすごく大事です。今回の運用チームの中心はHTV後半の安定して飛んでいる時にフライトディレクタになった中堅たち。初号機や2号機の苦労を知らないのが、ベテラン組からいうと心配の種でした。要は失敗の経験が少ない。技術継承って、実際に飛ばしてトラブルを経験してこそ、暗黙知みたいなものをしっかり自分の中に取り込むことができる。一歩間違えればミッションを失う可能性も含めて、実際に肌身で知ったのはすごく大きな意味があると思いますね。

10以上並べた将来構想。その筆頭は「ミニ宇宙ステーション」だった!?

HTV-X1の成功を踏まえて、これからの話を聞かせてください。HTV-X1は物資を届けたあとに「宙飛ぶ実験室(技術実証プラットフォーム)」として様々な実証実験も行いました。他国と比べても珍しい宇宙機と思いますが、なぜそんな発想が生まれたんでしょう?
内山:

そもそもISSに物資を届ける信頼性・安全性が高いビークル(乗り物)を作って、数か月間で大気圏に突入させてしまうのは、通常の人工衛星の感覚でいうとすごくもったいない話ですよね。性能としては、数年間運用できるポテンシャルが十分にあるので。ISSに物を運ぶというNASAとの約束をしっかり果たすと同時に、プラスαで日本の将来の技術獲得のための実証ができるようなプラットフォームにするのは、すごくいいアイデアだねっていう議論は、HTV-X立ち上げの頃にJAXA内で十分に実施しました。その上で、複数の実証実験ができるプラットフォーム機能を、最初の設計に織り込んだんです。

2025年10月30日、HTV-X1のハッチを開けたときの様子。HTV-X1の与圧モジュールは空気が満たされ、宇宙飛行士が内部に入って作業できる。(提供:JAXA/NASA)
HTV-Xがプロジェクトとして発足したのは2017年10月ですね。検討が始まったのはいつ頃ですか?
内山:

初期検討が2013年12月から始まって、2016年からプリプロジェクトになりました。僕は初期検討の頃から関わりましたが、まず次のHTV-Xをどうするかという議論から始まりました。2015年8月の宇宙政策委員会の資料に、新型宇宙ステーション補給機の検討については、輸送手段としてだけでなく、軌道上の技術実証プラットフォームの機能など技術的波及効果を検討することなどと明言され、検討がさらに具体化されていきました。

なるほど。油井さんが会見で言われた「ミニ宇宙ステーション」みたいな発展形については、いつ頃から議論が?
内山:

2015年~2016年です。

その頃は、油井飛行士や大西卓哉飛行士がISSで「こうのとり(HTV)」5号機、6号機をキャプチャした頃ですね。
内山:

そうですね。「こうのとり」が軌道に乗り始めると同時に終わりが見えてきて、ISSをもう少し延長するという話が出てきたときです。日本としてまず有人宇宙基地であるISSに物資を輸送する宇宙船(HTV)を作るのはすごく大事だったと思いますが、2代目を作るなら、同じじゃつまんないよねと。

もちろん、コストはリーズナブルにする。さらに発展性をもつ。例えばISSに行くだけじゃなくて、月に行けるような機体にしたいし、独自の宇宙ステーションみたいな将来構想の中で使えるような機体にしていきたい。発展形態みたいなものを十何個並べて、どうやったらHTV-Xの設計の中に、そういった発展形の要素を取り込めるか。あまり高額になりすぎてもプロジェクトとして成り立たない。将来構想が固まっていない中でも、どこでも使えるようにする仕込みを一生懸命やっていました。

2017年12月6日、第39回宇宙開発利用部会「新型宇宙ステーション補給機(HTV-X(仮称))プロジェクト移行審査の結果について」資料より。図中⑦に「独自の地球低軌道ステーションを想定し、複数HTV-Xの間を行き来できるようなサービスモジュールの貫通トンネルが実装…」と明記されていることに注目。(出典:文部科学省)
十数個の発展形とはすごいですね。ISS後の商業宇宙ステーションの話はその頃、出ていましたか?
内山:

当時は商業宇宙ステーションの話はまだあまりなかったです。ただ、ISSが運用を終了した後どうするかっていう議論はやっぱりあったんですよね。その中で日本だけで宇宙ステーションを作る案はシナリオとしてあって、どういう形であれば実現可能か、様々な発展化シナリオを検討しました。

HTV-X内部のCG。左から与圧モジュール、真ん中がサービスモジュール、右端が曝露カーゴ搭載部。サービスモジュール内のトンネル構造がちらっと見える。(提供:JAXA)
油井さんが例に出された「ミニ宇宙ステーション」ですね。具体的にどうやって?
内山:

HTV-Xは人が入って作業ができる「与圧モジュール」と通信や航法誘導制御、電力、熱制御、推進系などを集約した「サービスモジュール」がありますが、サービスモジュールの中にトンネル構造を持たせてあるんです。それを使えばHTV-Xを数珠つなぎに繋いでいくことができる。

そのトンネルを宇宙飛行士が通って、与圧モジュールから与圧モジュールへと移動していくことができるということですね?
内山:

はい。普通だったら、HTV-Xの機体をコンパクトに軽く作るためにこういうスペース(トンネル構造)は逆に邪魔になる。でも後から追加しようと思うと、大幅な設計変更になってしまうから、最初からできるようにしておこうとトンネルのスペースを確保した。HTV-Xをベースに将来、日本が独自に宇宙ステーションを作る時に備えて、見えない発展性や仕込みがいくつかあるんです。

「宇宙タクシー」

他にはどんな仕込みがあったんでしょう?
内山:

人が入る与圧モジュールとサービスモジュールを明確に分離させたんです。例えばサービスモジュールは宇宙に置いておいて、再利用できます。「宇宙タクシー」のような働きをすることができるんです。

え、宇宙タクシーとは初めて聞きました。具体的に教えてください!

(続きは次回)

ISSに接近するHTV-X1(CG)。(提供:JAXA)
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