• DSPACEトップページ
  • DSPACEコンテンツメニュー

星空の散歩道

2011年9月26日 vol.70

10月りゅう座流星群

 10月りゅう座流星群? かなりの天文ファンでも、聞き慣れない名前だなぁ、と思われるだろう。それもそのはず、実は、あの有名なジャコビニ流星群のことである。これまでは、流星群の名前には公式な学名がなく、研究論文でも一般紙でも複数の名前が使われていた。たとえば、ジャコビニ流星群というのは、母親のジャコビニ・ジンナー彗星から呼ばれていたが、放射点の場所としてはりゅう座にあるので、りゅう座ガンマ星流星群とも呼ばれていたのである。

 こうした混乱を避けるために、国際天文学連合第22委員会では、学名付与方針の議論と、その策定を行ってきた。基本的には、母親の彗星の名前は使わなず、あくまで放射点の場所の近傍の恒星や星座名を基本とすることが決まり、2009年のリオデジャネイロにおける国際天文学連合で、60あまりの流星群に関する学名は統一されたのである。(ちなみに、現在の第22委員会の委員長は私である。)

札幌での第2ピーク極大一時間前の北の空。10月りゅう座流星群の放射点は、ほぼ真北の地平線近くにある(10月9日04時30分、札幌)。ステラナビゲータ/アストロアーツで作成しました。

札幌での第2ピーク極大一時間前の北の空。10月りゅう座流星群の放射点は、ほぼ真北の地平線近くにある(10月9日04時30分、札幌)。ステラナビゲータ/アストロアーツで作成しました。

 

 こうして、ジャコビニ流星群は、10月りゅう座流星群となった。りゅう座に放射点を持つ流星群がいくつかあるので、10月に出現するものとして「10月」をつけ、区別したのである。

 しかし、この学名決定に関わった私でさえ、ジャコビニ流星群という名称には 愛着がある。というのも、この流星群は、私が天文学を本格的に目指すきっかけだったからである。忘れもしない1972年10月8日。その夜、「流星が雨のように出現する」「空を覆い尽くすほどの流れ星が現れる」と事前に報道されていた。この流星群は1933年と1946年には、一時間当たり数千から数万という大出現を起こしているため、否が応でも期待は高まっていた。いわゆる天文少年だった私は、絶対に見なくては、と思って、視界が開けて比較的自宅から近かった自分が通っている小学校の校庭を観測地に選んだ。そして、星好きのクラスの友人を誘い、見よう見まねで即席の流星観測チームを組織した。まだ寛容な時代で、担任の先生は親同伴という条件で許可を出してくれた。

 われわれの即席観測チームは、深夜まで多くの見物客と共に星空を眺めていた。しかしながら、待っても待っても流星はほとんど現れなかった。翌日の朝刊には、「天文台は星占いは苦手?」「流星雨、空振り」という見出しが並んだ。この空振り事件は、後に「ジャコビニ彗星の日」という松任谷由美の歌にもなっている。

 当時の東京天文台の信用は失墜したものの、逆に私にとっては天文の不可思議さに興味を引かれるきっかけになった。どうして予測通りに出現しなかったのか。私の疑問は、同様に大騒ぎされたのにもかかわらず、全く明るくならなかった1973年のコホーテク彗星や、誰も予想しないうちに大彗星になった1976年のウエスト彗星などを経るうちに、「どうして今の天文学で予測できないのか」という疑問に変わり、本格的に天文学に進む動機になったのである。

 私事は、これくらいにして、実は今年の10月りゅう座流星群は出現が期待されている。当時とは違い、研究も進んでいて、流星群の出現は、母親さえ特定できていれば、かなりの確率で予測が可能になっている。それによれば、今年の出現のピークは、日本時間10月9日午前2時過ぎ、および午前5時半頃過ぎの2回予想されている。前者は、1887年、後者が1900年に母彗星から放出された塵によるもので、計算上の塵の帯の広がり具合から予測すると、(放射点が天頂にあると仮定し、理想的な星空での)一時間当たりの出現数は、それぞれ70個、520個と予測されている。

 ただ残念ながら、今回は日本での観測条件は悪い。最初のピークでは月齢11の月がまだ沈んでいないので、明かりが邪魔になる。放射点の高さから言えば、北ほど条件は良くなるものの、この流星群の流星は対地速度が遅いせいもあって、微光流星が多いために、月明かりにかき消されてしまうだろう。また、二番目のピークの頃には日本のほとんどで夜が明けている。夜明け前の時間帯に、北日本では少し出現するかも知れないが、関東よりも南では放射点が北の地平線に沈んでいるので、出現は期待できない。ただ、週末でもあるし、久しぶりの出現予想である。できれば空のきれいないところで、眺めてみてほしい。

 特に2番目のピークは、中央アジアやヨーロッパでは観測条件が良くなるので、現在、航空機観測や、遠征観測が計画されている。われわれもウズベキスタンに観測に行くことになっているが、果たして結果はどうなる事だろうか。