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第3回 「移動」するのは自分かモノかサービスか
〜MaaSと自動運転がもたらす未来〜

尾原和啓氏の連載コラムDigital Ship - Vol.3-
~明日のために今こそデジタルの大海原へ~

今回のテーマは「移動」だ。「モビリティ」はDXが最も進んでいる分野で、デジタルによって人の移動がどう変わるかを見ていく。

2021年4月30日公開

自動車の生産台数はすでにピークアウトしている

タクシー大国・日本にいると気づきにくいかもしれないが、いまや米国や中国、インド、東南アジアではライドシェアサービスによる移動がごく当たり前の風景になっている。

いつでも好きなときにスマホで車を呼ぶだけで、目的地まで連れて行ってくれるから、わざわざ自家用車を持つ必要はない。コロナによる移動制限がなかったとしても、運転するのは週末だけというドライバーにとって、高いお金を払って車を買い、駐車場代やガソリン代、税金などを負担し続ける意味が本当にあるのかが問われているのだ。

事実、自動車の生産台数はコロナ前の2019年の時点で、すでに世界的に減少傾向にある。たとえば、コロナ前の経済成長を牽引した中国でさえ、2017年から2019年のわずか2年間で、11%以上も減った。米国やインドもすでにピークアウトして数を減らしている。これは、車を持つということがステイタスシンボルではなくなりつつあることを意味している。

国別新車登録・販売台数(上位5カ国)

  • 「主要国の自動車生産・販売動向」ジェトロをもとに作成
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/f2067f867d465ba0/20200011.pdf

ライドシェアサービスが登場して10年以上の時が経ち、自動車は保有する対象から利用する対象へと様変わりしてきた。コロナによる移動制限や脱炭素(カーボンニュートラル)の世界的な盛り上がりもこの流れを加速するので、車を必要なときに必要なだけ利用するサービス(MaaS = Mobility as a Service)へのシフトがいよいよ鮮明になってきたのだ。

空き時間に勝手に稼いでくれるロボタクシー

車社会の米国では、通勤で毎日往復数時間車に乗るという人は少なくない。どうせ車を出すのだから、ライドシェアサービスでついでに誰かを乗せていけば、通勤時間に稼ぐことができる。たとえば、いつもより少し早めの7時半に自宅を出発して、10時にオフィスに着くように設定しておけば、途中で乗客を拾ったり降ろしたりしながら、時間内にオフィスに到着するように、サービス側が自動で最適なルートを選択してくれる。ドライバーはアプリの指示に従うだけでいい。

車には運転席の他に助手席や後席がある。自分1人が乗るだけなら、助手席などは空いたままだが、誰かを乗せれば、その分稼働率が上がる。目的地に向けて運転している最中に、AIがこの席をできるだけ埋めるようにリアルタイムで調整してくれるので、ドライバーは「より多くの人を運べる=より多くの報酬が得られる」し、乗る人にとっても、複数人が相乗りすれば、その分料金が下がる。しかも、1台で複数の人を運んだほうがエネルギー的にも無駄が省けて、地球環境にもやさしくなる。

ライドシェアに自動運転が組み合わされれば、さらに大きな変化が起きるだろう。米国では自動運転によるロボタクシーが本格稼働しつつある。自動運転がさらに進化すると、人間が車に乗らない時間に、車が自動でアルバイトをしてくれる日がやってくるかもしれない。

イーロン・マスク氏率いるテスラの試算によると、1日20時間以上乗らずに放置されている車をロボタクシーとして1日16時間稼働させれば、年間最大3万ドルの収益が得られるはずだという(※注)。テスラの量販機種モデル3の価格が約500万円〜ということを考えれば、2、3年で元が取れる計算だ。

自分が移動するという前提をまず疑ってみる

移動をDXするというと、自分が動くことを前提に考えがちだが、実は、モノやサービスが向こうから勝手にやってくるというDXのほうがポテンシャルが高い。たとえば、散髪したい、マッサージを受けたいと思ったら、自分が美容室やマッサージ店に赴くのではなく、アプリで予約するだけで、美容師やマッサージ師が自動運転車に乗ってやってきたほうが便利なはずだ。コロナによる引きこもり需要で、オンラインショッピングやフードデリバリーサービスが一気に普及したが、運んでくるのはモノや料理に限らないのだ。

さらに想像をたくましくすれば、自動運転車でエステを受けている間に車が観光地へ移動してくれて、施術が終わったら、目の前に絶景のリゾートレストランが待っている、という未来もあり得るわけだ。

ところで、飛行機や新幹線のライバルは何だろうか。移動というのはあくまで手段だと考えれば、真のライバルはスマホやオンライン会議システムとなる。実際、オンライン会議によって出張や取引先への訪問がなくなった、という人は多いはずだ。

つまり、イノベーションを深堀りするときに、自動車というプロダクトレベルで考えてしまうと、本当の脅威を見落とすことになる。インターネットやVR(仮想現実)空間でつながれば、そもそも移動しなくていい、というのが究極の答えだとすれば、そこから逆算して、いま求められるサービスは何かを考える必要がある。

とはいえ、移動が自動化して、いま以上に自由気ままに場所を移動できるようになれば、出かけることに対する面倒臭さは間違いなく減る。その結果、リアルな体験の価値がこれまで以上に上がることも予測できる。

朝起きて、自動運転車に乗ってVRのヘッドセットを装着すれば、そこにオフィスがあって、いきなり仕事モードに突入する。ひと仕事終えて、ヘッドセットを外すと、リアルでしか行けない極上の波のサーフィンスポットが目の前に広がっている。サーフィン仲間もそれぞれ自動運転車に乗り、三々五々集まってきて、一緒にサーフィンを楽しむ。終わったら、みんなでパーティだ。会がお開きになれば、帰りの車の中はスーパー安眠モードになっていて熟睡できる。そんな夢のような未来が実現するかもしれない。

デジタル化、自動化によって、移動の「よっこらしょ感」が減れば、むしろ、最高のリアルを体験できる。そういう視点で移動のDXをとらえ直せば、未来をありありと想像できるはずだ。それが次のイノベーションにつながっていくのである。

  • ロボタクシー、テスラも開発に名乗り: 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44094390T20C19A4TJ1000

IT批評家/フューチャリスト尾原和啓(おばら・かずひろ)

1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用システム専攻人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経産省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー等を歴任。 現在はシンガポール・バリ島をベースに人・事業を紡ぐカタリスト。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に「ネットビジネス進化論」(NHK出版)、「あえて数字からおりる働き方」(SBクリエイティブ)、「モチベーション革命」(幻冬舎)、「ITビジネスの原理」(NHK出版)、「ザ・プラットフォーム」(NHK出版)、「ディープテック」(NHK出版)、「アフターデジタル」(日経BP)など話題作多数。