2026年10月7日
道なきクラウド移行に、次の標準をつくる。データ活用基盤を未来へつないだ、ファーストチャレンジ
長年、企業のデータ活用を支えてきたオンプレミス環境を、クラウドへ移す。言葉にすればシンプルですが、その道のりは決して平坦ではありません。安定稼働を守りながら、既存資産を活かし、将来の変化に強い基盤へとつなげていく。そこには、技術力だけでなく、顧客の業務を理解し、課題に伴走し続ける力が求められます。三菱電機デジタルイノベーションは、長年培ってきた知見を活かし、製造業と金融業の2社におけるデータ連携基盤のクラウド移行を支援しました。現場では仕様差異や想定外の挙動、手戻りの発生など、前例のない課題に、技術者たちは一つひとつ向き合い、挑戦し続けました。
道なき移行に、どう道筋をつけたのか。プロジェクトを支えた提案力、技術力、伴走力、そして地道な現場力に迫ります。
クラウドモダナイゼーションに向けたプロジェクト始動
Salesforce社製品の一つであるオンプレミス向けデータ統合プラットフォーム「Informatica PowerCenter※」(以下、PowerCenter)は、データ統合領域で豊富な実績を持つことで知られている。機能の高さ・豊富さはもちろんのこと、多様なシステムとの連携が可能であるため、とりわけ大規模なシステム環境を持つ企業にとっては有力なデータ活用基盤として利用されてきた。一方、クラウドモダナイゼーションの流れがある中で、クラウドネイティブなプラットフォーム「Informatica Intelligent Data Management Cloud」(以下、IDMC)の登場により、PowerCenterからIDMCへの移行を検討する企業も増えている。
Informatica Intelligent Data Management Cloud (IDMC)ではデータをビジネスに利活用するためのデータマネジメント基盤を提供する
長年にわたり技術支援をしてきた製造業企業(以下、B社)では、PowerCenterからIDMCへの移行を考えた。同社のクラウド移行プロジェクトを取りまとめる立場にあった後藤宇史がこう説明する。
「関連システムでもクラウド化が進んでいました。データ連携の利便性や将来的な拡張性を考えると、基盤そのものをクラウドへ移行する意義が大きかったのです」(後藤)。
この企業では2005年にPowerCenterを導入し、約20年にわたって基幹系システムと情報系システムのデータ連携に活用していた。今回のクラウド移行支援を当社が担うことになったのは、PowerCenter導入時からデータ連携システムの導入・構築・開発・技術サポートを手掛けてきた実績があること。また、2000年からInformatica製品を取り扱ってきた知見を評価されてのことである。
実は、PowerCenterからIDMCへの移行については、先行して動き始めていたプロジェクトがあった。生命保険を扱う金融業企業(以下、A社)におけるクラウド移行である。こちらに関しても、当社はPowerCenterの導入・運用を支援してきた経緯がある。このプロジェクトを牽引した三田村諭が振り返る。
「このお客様も同じくクラウド移行に乗り出しました。ご要望としては、現行のオンプレミス環境と同等の動きをIDMC移行後も安定的に実現することが最大のポイントになっていました」(三田村)。
- Informatica PowerCenter : Salesforce, Inc.が提供するデータ統合ソリューション。各種オンプレミスデータ、クラウドの統合やデータウェアハウスの迅速な構築をサポートする。なお、PowerCenterの新規販売は既に終了しており、後継のクラウドサービスとしてIntelligent Data Management CloudのCloud Data Integrationが提供されている。
“移行できる”だけでは足りない。運用まで見据えた実装力
こうしてスタートした2社のプロジェクト。実際の移行作業では、同じくInformaticaの移行ツールが採用された。
まずは2024年3月、金融業A社のプロジェクトが先行始動し、PoC(概念実証)を開始。続いて同年7月から製造業B社のプロジェクトも始まった。移行は両社とも、PowerCenter環境をIDMC上にほぼそのままクラウド化する「リフト」のフェーズ、データ変換も含めクラウドに最適化していく「シフト」のフェーズの2段階で実施された。現行環境のシステムを稼働させながら、細かなシステム単位で移行作業を一つひとつ丁寧に進めていった。
「当時、移行ツールはリリースから間がなく、Informaticaと双方で実践的なナレッジを積み上げながら慎重に検証を進めていく必要がありました」(三田村)。
三田村らのチームはPowerCenterでの処理と移行後のIDMCで動く処理を細分化して比較し、出力結果に違いがないか確認するコンペア作業を行っていった。
その過程で、PowerCenterからIDMCへのデータ連携において、双方の環境設定に合わせた文字コードの最適化が必要となるケースが確認された。
「PowerCenterとIDMCそれぞれでサーバーの初期設定値に違いがあったためです。双方に用意されている設定オプションを活用してきめ細やかに調整を施し、システムごとにひとつずつ確認を重ねながら着実に統合を進めていきました」(三田村)。
マニュアルのない道を、現場の知恵で切り拓く
金融業A社のプロジェクト開始から3カ月後の2024年7月、製造業B社のクラウド移行もスタートした。こちらについては情報系システムの移行から始めたが、「PowerCenter時代にシステムをかなり作り込んでおり、IDMCの標準機能でその部分をいかに実現するかで苦労しました」と後藤が回顧する。
B社のプロジェクトで各種機能の実装を担当した高野成矢が、その苦労の中身を語る。
「IDMC自体が新しいサービスであり、当社にとってもPowerCenterからIDMCへの移行はこの2社が初めてのケースでした。移行ツールもリリースされたばかりで不明点をすぐに解消しづらい状況がありました。
技術的に難度の高い事象については、Informaticaチームと連携し、詳細な検討を重ねる必要がありました。
そこで、先行するA社のプロジェクトで得られた知見を参考にしつつ、Informaticaのサポート部門に問い合わせるとともに、自分たちでも検証を重ねて一つひとつ解決していきました」(高野)。
先行事例もない手探り状態の中、顧客企業にとって最大のニーズである安定的なクラウド移行をいかに実現するか。高野をはじめとする現場技術者たちが奮闘を繰り返した。
Informatica海外拠点の技術者と1日数時間に及ぶオンラインミーティングを重ね、密に連携しながら、時間をかけて根本解決とノウハウを蓄積していった。Informaticaにとってもこのプロジェクトで得られた知見は新ツールの重要なナレッジとなるため、課題解決に向けた対応は協力的であった。
ともかく、同社の調査を待つべき問題が生じた場合はスムーズに進められる別の作業を前倒しで手掛け、両プロジェクト全体の進行を止めないよう後藤も三田村も心を砕いた。進行中にIDMCのアップデート予定が判明し、事前検証用環境を別途構築する必要もたびたび生じたという。それでもチームは、部内・関係者間での密なコミュニケーションをとりながら、そこから生まれた解決の糸口を現実に適用する地道な粘りで対応していった。
変えるべきものと、守るべきもの。その境界を探し続けた
金融業A社、製造業B社ともに段階的な移行を経て、現在、両プロジェクトは運用フェーズへと進んでいる。
プロジェクトを通じ“最も難しかった点”を後藤が語る。
「オンプレミスからクラウドへの移行にあたり、既存環境と同等の運用を再現することが最も苦労した点でした。 その過程では高度な技術的対応が求められる場面もありましたが、Informatica担当者と密に連携し、高野による詳細な技術検証を重ねることで乗り越えていきました。お客様の実運用のニーズに応じた柔軟な代替ツールを用意したり、APIを活用した手法を導入したりなど、力を合わせて最適な環境を構築・提案し、プロジェクトを無事に成功へ導くことができました」(後藤)。
高野も同じく、カスタマイズが進んだ既存環境をそのままクラウドで再現する点で苦労したと振り返る。
「クラウド化の大きな意義としては、やはり標準化があります。オンプレミスと同等の環境を実現しつつ最大限標準化するため、本来は一つひとつ細かく設定しなければならないところも、共通利用できる部分は一括設定を適用することで解決していきました」(高野)。
高野は想定外のトラブルにスムーズに対処するため、公式ドキュメントを熟読したり、自社の開発環境で実際に動かしてみたりなど、事前調査に時間をかけたという。
「事前に、問題をある程度つぶしておけば、やはり手戻りを減らせるので、そこは入念に行いました」(高野)。
三田村も「PowerCenterとIDMCは、オンプレミスとクラウドという異なるアーキテクチャに基づいて設計されたシステムです。環境ごとの特性があるからこそ、その違いをいかに考慮しながら既存の運用になじませていくかが重要なテーマでした。後藤や高野と同じ答えになってしまいますが、その差異をいかに埋め、旧環境を新環境に落とし込むかが最も苦労した点です。ただ、その解決には後藤や高野など別プロジェクトや他課のメンバーも協力してくれたので、困ったときは部全体で取り組んでいったイメージですね」と話す。
1人では越えられない壁を、集合知で越えていく
IDMCへの移行の成果として、両社におけるデータ連携処理はPowerCenter時代と同等以上の処理性能を目指し、安定したデータ連携処理を実現している。とりわけ製造業B社では移行時に習得したスキルを活かし、データ連携に必要な追加開発の内製を実現しているといい、まさにクラウドモダナイゼーションによるDX推進にもつながっている。
プロジェクト全体を振り返り、高野は「これはぜひ行いたいという検証を自由に行える環境が社内に整っていたことが、プロジェクト成功に大きく寄与したと思います」と話す。
これを受け後藤は「当社には“まずはやってみよう”というチャレンジを後押しする企業風土があることを改めて実感しました」と高野の想いに言葉をつなぐ。
三田村も、他社で行われていないような取り組みに先行して挑戦するチャレンジ精神が会社全体に浸透しているとしたうえで、次のように語った。
「自分にはない知識や技術を有するスペシャリストが身近にいて、議論をしたり、ヒントをもらったりできるのはとても心強いですね。そのスペシャリストたちが意見を出し合い協力することで、どのような難題でも答えに近づける。今回のプロジェクトでそのことを学びました」(三田村)。
技術の先にある、顧客とともに進む力
今後について三田村は「多くのお客様と接し、要望を伺って、さまざまな提案を実現できたこの経験を、データ分析をベースとしたコンサルティング的な業務につなげていきたいですね」と将来展望を話す。
高野も「次々と出てくる問題に対し、お客様や関係者と調整しながら落としどころを決めていく経験ができ、今後のプロジェクトマネジメントに自信がつきました」と今後への手応えを語った。
顧客からは、情報共有や課題対応のスピード感、迅速な報告・提案を評価する声も寄せられた。機能面での大きな追加要望は多くなかった一方で、課題に対して素早く動き、状況を共有しながら前に進める姿勢が、信頼につながった。
後藤は、プロジェクトを振り返り、こう語る。
「両プロジェクトは、当社にとっても新しいサービスの道筋を、お客様に伴走しながらゼロから作っていった貴重な経験でした。部内にはクラウド移行のナレッジが蓄積されました。同様の事例でよりスムーズにご支援できるのはもちろん、前例の少ない課題に対してもゼロから作り上げていける。専門集団としての当社の知見と経験をお客様の課題解決に役立てていけると思います」
今回得られたものは、IDMCへの移行手順にとどまらない。仕様差異の見極め方、検証環境の整え方、ベンダーとの確認ポイント、顧客との合意形成、課題が発生した際の優先順位付け。そうした実践知が、次のクラウド移行を支えるナレッジとして蓄積された。
三菱電機デジタルイノベーションには、Informatica製品に長年関わってきた知見がある。加えて、今回は新しい技術に対して「まずはやってみる」姿勢と、専門性を持つメンバーが知恵を出し合う文化が強みとして発揮されたプロジェクトだった。
クラウド移行は、ゴールではない。変化に強いデータ活用基盤をつくり、顧客の事業成長を支えていくための起点である。道なき挑戦に道筋をつけた今回の経験は、三菱電機デジタルイノベーションが、クラウド移行を実現するだけでなく、お客様の未来を見据えて提案できる存在へ。その進化に向けた確かな一歩となった。
この記事のポイント
- PowerCenterからIDMCへの初の移行ケースに、長年の知見と地道な現場力で対応
- 前例の少ない取り組みに、社内外の密な連携と調整で道筋をつけた
- 挑戦を後押しする環境のもと、クラウド化による拡張性と運用の可能性を広げた
後藤 宇史
三菱電機デジタルイノベーション
エンジニアリング本部 AI・クラウド領域 データソリューション部 技術第一課
学生時代から情報分野を専攻し、情報系一筋でキャリアを重ねる。今回のプロジェクトでは、大規模案件におけるプロジェクトリーダーを担当。趣味は小学2年生の娘と過ごすこと。
高野 成矢
三菱電機デジタルイノベーション
エンジニアリング本部 AI・クラウド領域 データソリューション部 技術第一課
大学では数学を専攻。ITには入社後に本格的に触れたが、数学で培った知識がデータ分析にも活きているという。趣味は愛犬であるポメラニアンの散歩。