2026年10月5日

データを“守る”から“活かす”へ。DX加速を支える「データガバナンス」

三菱電機グループでは、部門や会社ごとに蓄積されてきたデータをつなぎ、事業DX・業務DX・ものづくりDXの新たな価値につなげる取り組みを進めています。その土台となるのが、データを安全に管理しながら活用へ導く「データガバナンス」です。三菱電機デジタルイノベーションは、データ活用のためのルールや基盤づくりを通じて、グループの変革を担っています。この取り組みが評価され、三菱電機は2026年データマネジメント賞の「データガバナンス賞」を受賞しました。今回は、取り組みを牽引してきた4人のメンバーに、その歩みとこれからの展望を聞きました。

スモールスタートで始まった三菱電機グループ横断の取り組み

三菱電機グループでは「事業DX」「業務DX」「ものづくりDX」の3つのデジタル変革を進めている。DXのベースとなるのがデータ活用だが、ビジネスをめぐるデータ量の激増、加えて生成AIをはじめとする高度なデータ活用が広がる中、データを適切に管理し、安全かつ効果的に活用するための仕組みであるデータガバナンスの重要性は一段と高まっている。

データガバナンスというと、データを“守る”視点が強調されがちだ。しかし単純に守るだけでは部門ごとにサイロ化し、全社を横断したデータ活用は進まない。三菱電機グループは幅広い事業領域を有しているが、その領域を超えた新たな価値の創出が阻害されてしまう可能性もあるわけだ。

そこで必要なのが、“守る”と“活かす”の両立である。
「元をたどると、三菱電機が掲げる“循環型 デジタル・エンジニアリング企業”への変革を担う組織として2023年に設立されたのがDXイノベーションセンター(DIC)です。三菱電機グループ全体のデータ活用を促進するため、2024年からDICメンバーを中心に全社横断のデータガバナンスの取り組みが始まりました」
そう語るのは、DICで価値共創のためのデジタル基盤「Serendie®」におけるデータ分析基盤の開発を2024年から担当している古跡進だ。

今までの三菱電機では、各事業部門が個別にデータを“守って”きたため、各々がデータ管理のため異なるフォーマットやルールを採用してサイロ化していたと古跡は指摘する。
「それだけでなく、データやAIの活用は必須という認識は広がっても、いざ推進するにはどこから手をつけ、どう進めればいいのかわからないという声が各部門から出ていました。そこで全社のデータ活用を後押しするため、みんなが同じように使うことができるデータ環境を整理する必要が出てきたのです」(古跡)。

この流れで2024年、古跡の言う“DIC中心のスモールスタート”から“三菱電機横断”の活動にまで発展したバーチャル組織「データガバナンスオフィス(DGO)」となり、同年9月、経営側のコミットメントを得て、取り組みが本格的に始動した。2025年5月には三菱電機グループのデータ活用宣言が発表され、活動に拍車が掛かった。

“守る”だけでは価値は生まれない。壁を越えるための共通言語づくり

DGOが掲げたデータガバナンスのコンセプトは、「データ活用に際し、スピードを上げて取り組んでも道を外れることがないようにガードレールをつくる」ことである。

循環型 デジタル・エンジニアリング企業を目指す三菱電機で“ガードレールづくり”の課題はどういったものであったのだろうか。同じくDGOでデータガバナンスのルール作りや法規制対応を手掛ける武田明希子は、当時の課題をこう整理する。

「1つ目は、データを社内で循環させる基盤がないという技術面の課題。2つ目は現状の社内ルールがデータ利活用に配慮されていないという制度面の課題。そして3つ目は、事業本部や会社を超えてデータを共有・活用しようというメンタリティや風土が築かれていない文化面の課題です」(武田)。

データガバナンスの重要性を各部門へ説明し、取り組みを後押しするにあたって、まずは「データガバナンス」や「データマネジメント」といった言葉の定義を明確化。そのうえで「経営トップから『データガバナンスは全社一丸で取り組むべきこと』という強いメッセージを出してもらい、それを基にデータ連携・活用に向けた意識変化と文化醸成を促していきました」と武田は振り返る。

この取り組みはDGOに事業・業務・ものづくりの各領域でDXを推進する組織が参画し、横通し連携して進められている。データ活用を通じ新たな顧客価値を生む製品・サービスの創出を目指す事業DXについて、データの共有・ガバナンスの重要性をどう伝えていくかが最大の苦労だと古跡は語る。

「理解にはやはり具体的なユースケースを提示することが必要です。例えば、あるお客様に対して、電力消費に関するデータ分析を行い、その分析結果をご紹介したことがありました。お客様のシステムで電力がこれくらい無駄になってしまっていますよという定量的な価値を示すことで、課題への納得感が生まれ、新たなビジネスに繋がっていったことがありました。こうしたユースケースを社内で紹介することで、データの持つビジネスの価値への理解が進みやすかったですね。」(古跡)。

個別最適を越え、データが循環する基盤へ

一方、業務プロセスやシステムを変革する業務DXの領域でデータガバナンスを担ったのが、三菱電機デジタルイノベーションが主導する、三菱電機全体の業務DXプロジェクト「M-X(エムクロス)」のメンバー、寺崎佳世と野口涼だ。
三菱電機グループには事業本部ごとそれぞれに個別最適化してきた5000を超える情報システムが存在する。これらのシステムは異なるコード体系・データ形式や命名ルールで運用されているため、全社横断のデータ活用が難しくなっていた。DGO活動の中でM-Xはシステムや部門に分散している業務データを標準化・整流化して統合管理する基盤を構築して、三菱電機のデータドリブン経営を牽引する役割を担っている。

業務DXのデータガバナンス活動を担ってきた寺崎は、こう語る。
「もともとM-Xにはデータガバナンス組織が存在しており、M-Xでの方針書を作っていました。その後同様の活動をしているDGOよりお声かけいただき、本活動に参画しました。取り組みを始めた頃は標準化の必要性を訴えても、すでに事本内で運用できているからその必要はないとよく言われました。ですがグループとして最大限の利益を生むには、部門や会社を越えて、データを横断的に活用する必要があると説明し、理解と納得を得ながら進めていきました」(寺崎)。

一方、データ基盤の構築を担う野口は、より実装に近い場所で課題に向き合っている。
「社員番号一つとっても、会社をまたげば同じ番号が存在することがあります。顧客IDや部品コードも製作所や会社によってまちまちです。M-Xでは、データのコード体系や形式を統一する方針を出し、データ基盤の構築を進めています」(野口)。

「データの共有・循環や利活用は誰もが総論賛成ですが、いざ自分の環境で実行するとなると現行の業務プロセスやシステムを変えなければならず、反対の声が多くなります」と寺崎。そこで、説明に際してはメリットを的確に提示することを心がけていると語る。

データドリブン経営を後押しする基盤構築と実装の現在地

データガバナンスの取り組みが本格的に動き始めて3年近く経過している。このプロジェクトの進め方について、武田は「関係する当事者が多いため、合意を可能な限り早く取りまとめることをとくに意識しています。三大DXそれぞれが同じゴールを向きながら議論できるよう、データガバナンス活動の目的や用語の定義から、関係者全員で認識統一を心掛けました」と話す。

一方、古跡はデータ分析基盤の構築において「設計思想として、作り込みすぎないことを大切にしてきました」と言う。
「基盤というと、多くのユースケースに共通する大きな仕組みをつくるのが定石です。しかし、ユースケースがそろっていない状態で大きな基盤を作るのではなく、まずはどのユースケースでも使われる共通項に絞った最小限の構成にし、少しずつアップデートしていくことを意識しました」(古跡)

データガバナンスを実現するためにはデータ分析基盤を使ってもらわなければいけない。共通の仕組みを用意するだけでなく、利用を促進するためにそのうえで、基盤を活用のメリットや他部門の成功事例を紹介、データ分析者がいない部門であればDICのデータサイエンティストによる分析支援をするなど、実際の活用促進の後押しに力を入れているという。
データガバナンスの取り組み自体はまだまだスタート地点。「ただ、データ活用に向けて社内の意識が変わってきたことは感じています」と、古跡はこれからの展開に期待を示した。

業務DXに関しては、いま野口が全社横断のデータ連携基盤を構築しているところだ。
「新しいデータ連携の仕組みをPoC(概念実証)で試してもらい、データ可視化やコスト削減といった効果の実感を促して、小さな成功を積み重ねている段階です。データ基盤が整備できることにより部門横断でデータが見えるようになり、個別最適から全体最適に変わるという考えを伝えながら進めています」と野口。

寺崎も「複数部門を横断してPoCを行うと共通化できる部分がさらに見えてくるので、いまはグループ全体で共通化できる部分を探しながらPoCに取り組んでいます」と、その現在地を教えてくれた。

「やはりゼロから一歩を踏み出すところが最も苦労します。『なぜそんなことをするのか』と反論されがちなので、データドリブン経営を進めるにはデータの標準化が必要であることを、分散していたデータを横通しで見られるようになったなど、PoCの成功事例を交えて地道に説得してまわっています」(野口)。

寺崎は、三菱電機デジタルイノベーションには情報システム部門以外の知見もあり、独自のノウハウを集結してM-Xのデータ基盤構築を進められる優位性を強調する。DGOの横連携も実施し、どちらかで成果の出たソリューションは他方でも採用している。例えば連携に用いるプラットフォームは業務DXと事業DXで同じソリューションを採用し、連携を取りながら進めている。最終的にはどの仕組みも全社のデータマネジメントで共通化していくことを目指しているとのことだ。

まだ序盤。だからこそ、変革の余白は大きい

事業DX、業務DX、ものづくりDX。3つのDXは、それぞれ領域は異なるが目指すゴールは同じだ。データを活用し、顧客や社会の課題解決につながる価値を生み出すこと。そのための共通土台として、データガバナンスはある。

武田は、三菱電機デジタルイノベーションが担う業務DXについて、「循環型 デジタル・エンジニアリングの基礎中の基礎」と位置づける。業務DXの推進は、事業DXやものづくりDXの進展を早める要素にもなる。三菱電機デジタルイノベーションは、システムやエンジニアリングの面で、なくてはならないパートナーだという。

今後、生成AIをはじめとする高度なデータ活用が広がる中で、データの品質、権限、責任範囲を適切に管理する重要性はさらに高まっていく。AI活用の前提にも、信頼できるデータと、それを安全に活かすガバナンスが必要になる。

「データガバナンスは地味な活動に見えるかもしれません。しかし、AIの普及によって、その重要性がますます強調されてきています。取り組み自体はまだ序盤かもしれませんが、伸びしろは大きい。文化醸成につながる成功体験も、着実に積み上がっています」(武田)

データを過剰に守るとDXは進まない。必要なのは、安心して挑戦できるガードレールをつくることだ。部門や会社の壁を越え、データが循環し、事業を変え、社会課題の解決へとつながっていく。その未来を支える取り組みは、すでに始まっている。
受賞はゴールではない。三菱電機グループがデータを「人」「もの」「カネ」に続く第四の資産として活かしていくための、次なる変革への通過点である。

この記事のポイント

  • 部門・会社ごとにサイロ化していたデータを標準化・整流化して統合管理標準化する施策
  • 活用に向けて全社最適のガードレールも整備する
  • 循環型 デジタル・エンジニアリング企業を目指すビジョンの上で事業・業務・ものづくり3領域のDXと連携して進める
  • 全社横断のデータ基盤を構築し、グループ全体でのデータ共有・活用で顧客と社会の課題を解決する価値を生み出す

古跡 進

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター プラットフォーム設計開発部 主席技師

情報技術総合研究所からDICに合流し、事業DX領域で「Serendie」関連のデータ分析基盤構築・活用推進を担当する中でデータガバナンスの取り組みに参加。

武田 明希子

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 戦略企画部

もともと知的財産法を専門とし、2024年9月にデータガバナンスのプロジェクトに加わった。ルール作りやデータ活用に関わる法令・コンプライアンスの対応支援などを担う。

寺崎 佳世

三菱電機デジタルイノベーション株式会社 情報システム本部 EA統括部 エンタープライズアーキテクチャ課 課長

2023年から業務DXプロジェクト「M-X」に関わり、エンタープライズアーキテクチャ(EA)のシステム標準化・整流化の実働部隊として活動。2024年にDGOに参画。

野口 涼

三菱電機デジタルイノベーション株式会社 情報システム本部 システム統括部 データ基盤運用サービス部

業務DXを支えるデータ連携基盤の構築に携わる。全グループで5000超の情報システムのデータを標準化・整流化し、部門・会社を超えた連携を実現する仕組みづくりの屋台骨として活躍。

  • Serendie®は、三菱電機株式会社の登録商標です。

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