設計変更の情報が正確に伝わらず、製造現場では様々なトラブルが発生するリスクがあります。
例えば、
- 仕様変更の情報が製造部門に伝わらず、組み立て段階で部品が合わないと発覚
- 変更連絡が遅れて旧仕様の部品を大量に発注し、そのまま製造してしまう
- 変更履歴が曖昧なまま放置され、どの設計が最新なのか現場担当者が把握できていない
など、情報共有が行き届かない状況に直面した方もいるのではないでしょうか。
2026年3月18日
設計変更の情報が正確に伝わらず、製造現場では様々なトラブルが発生するリスクがあります。
例えば、
など、情報共有が行き届かない状況に直面した方もいるのではないでしょうか。
こうした情報の伝達ミスは、不良品の発生・手戻り作業・生産ラインの停止・納期遅延といった直接的な損失を招きかねません。その結果、クレーム対応によるコストの増加や現場担当者の疲弊など、各所で悪影響が発生してしまいます。顧客との信頼関係も損なってしまうでしょう。
また、こうしたトラブルは一度きりで終わらない可能性があります。トラブルの原因を突き止めないままにその場しのぎで対処しても、同じ問題が繰り返されてしまうでしょう。
トラブルを解決するには、情報を伝達する仕組みそのものを見直す必要があります。
なぜ、設計変更の情報が現場に届かないのでしょうか。先述したトラブルは、単なる伝達ミスだけが原因ではありません。
トラブルが発生する背景には、組織や業務における仕組みに問題が潜んでいます。
例えば、設計部門はCADや設計管理システム、製造部門はExcelベースの独自帳票や生産管理システムといったように、部門ごとに異なるツールで情報を管理していることは珍しくありません。
部門間でシステムが分断されている場合、手作業による情報の受け渡しが必要です。手作業では転記ミスが起こりやすく、情報の伝達漏れを招く原因となります。
設計を変更する際、現場に「いつ」「誰により」「どのような理由で行われたか」が明確に記録・共有されていないと、大きな問題に発展する恐れがあります。
複数のバージョンが混在した状態では、製造現場が「どの設計が最新か」を判断しにくく、混乱を招く可能性があります。そのため、設計変更の経緯を時系列でたどり、変更前の仕様を随時参照できる仕組みが必要です。
設計部門は「変更を通知した」と認識していても、製造部門に届いていない、あるいは届いていても設計変更の重要性が現場に伝わっていないことがあります。
情報を送る側と受け取る側の認識の齟齬が、トラブルを引き起こす原因となります。コミュニケーションの問題は、担当者個人の努力や、簡易的なルールだけではなかなか解決できません。仕組みそのものを見直す必要があります。
「部門間で異なるフォーマットを利用しており、変更履歴の管理が不十分」「部門間のコミュニケーションが不足している」といった「設計・製造部門間のすれ違い」を解消するには、各部門が持つ部品表の連携が王道かつ効果的なアプローチです。
部品表は大きく分類してE-BOMとM-BOMの2種類があります。
設計部門が作成する部品表です。製品の機能や構造を定義するために用いられます。
製造部門が使用する部品表です。実際の製造工程や調達の視点により構成されています。
同製品であっても、設計者と製造現場が見る構成は異なります。例えば、E-BOMでは機能単位でまとめられている部品が、M-BOMでは組み立ての順序や工程ごとに再編成される場合があります。
2つの部品表が分断されたままでは、設計の変更がE-BOMに反映されていても、M-BOMに反映されない、もしくは正しく反映されない、反映が遅れるといった事態が起こりやすくなります。
この状況こそが、先述した不良品の発生や納期遅延といったトラブルの直接的な原因です。
E-BOMとM-BOMの連携により、設計の変更が自動的に製造側に伝わり、変更履歴を一元的に追跡できるようになります。部門間における認識の齟齬がなくなることで、情報伝達に要する手間も大幅に削減可能です。
また、「A製品にはチタンの5mmネジを使用し、出荷予約も同時に行う」といった数量や種類の変更時にも、関連するM-BOMへの仕様更新や必要部品数の再計算をシステムが自動処理します。
E-BOMとM-BOMの連携には、運用ルールの整備と並行してシステムの活用を進めていく必要があります。
その際の重要なポイントを詳しく解説します。
一元管理の有効なシステム面のアプローチとして、PLM(製品ライフサイクル管理)システムの導入が挙げられます。
PLMの活用により、設計データと製造データを共通のプラットフォーム上で管理でき、設計変更時には関係各部門に自動通知される仕組みを構築できます。
手作業による転記や伝達漏れのリスクを大幅に低減できることも、大きなメリットと言えます。
システムの導入と並行して、運用ルールの整備を進めましょう。
例えば、変更発生時における承認フロー、変更履歴の記録方法、M-BOMへの反映タイミング、原価への反映方法といった運用ルールの整備が欠かせません。
明確なルールを設定することで、システムを形骸化せず有効に活用できます。
システムを導入する際には、はじめから全社展開を目指すのではなく、段階的に進めることが現実的です。
まずは、特定の製品ラインや部門でパイロット運用を行い、課題を洗い出しながら改善を重ねるなど、徐々に範囲を広げていきましょう。
以前、筆者が関与したPLM導入プロジェクトでは、まずM-BOMを含む原価管理・生産管理システムから着手し、E-BOMは後追いで導入するアプローチを採りました。
仕組みやルールの定着には、現場担当者への教育(入力操作方法、E-BOM・M-BOMのマスタ更新手順など)や、部門間のコミュニケーション強化も重要です。
設計情報の一元管理と部門間連携の仕組み作りは、日頃の業務改善だけにとどまらず、企業全体の競争力を高める戦略的な取り組みでもあります。
どのような効果が期待できるかを、具体的に解説します。
設計の変更が製造現場へ迅速かつ正確に届くようになることで、不良品発生率の減少が期待できます。
手戻り作業や廃棄コストも減少し、品質向上とコスト削減による利益率の改善も可能です。
システムの導入により、情報伝達の遅れや確認作業に費やしていた時間を削減し、設計から製造、出荷までのリードタイムが短縮できます。
その結果、市場の変化に素早く対応できる体制が整い、顧客の要望にも柔軟に応えられるようになります。納期遵守率の向上は、顧客満足度と信頼度の向上に寄与するでしょう。
設計変更の情報が製造現場に届かない問題の原因として、設計部門のE-BOM(設計部品表)と製造部門のM-BOM(製造部品表)の分断が挙げられます。
部門ごとに異なるシステムやフォーマットを使用し、手作業で情報を受け渡している限り、転記ミスや伝達漏れなどのリスクは避けられません。
こうした課題を解決するには、PLMなどのシステム基盤を整備し、E-BOMとM-BOMを連携させる仕組みの構築が重要です。同時に、部品表の変更時の承認フローや履歴管理の方法など、運用ルールの確立も欠かせません。
システムを活用した取り組みにより、不良品の削減や手戻り作業の減少といった直接的な効果だけでなく、生産リードタイムの短縮や部門間の信頼関係構築などを通じて、企業全体の競争力強化が期待できます。
まずは自社の情報伝達の現状を可視化し、部門間での部品表の分断が生じていないかをチェックしてみてください。
原田 正和
ITコンサルタント/エンジニア
東京大学卒業後、多彩なキャリアを通じてIT・DX分野の知見を蓄積。Big4コンサルティングファーム(監査法人)でのITコンサルタント、ITスタートアップでのエンジニア、エネルギーファンドでのシステム部長を歴任。SaaS導入支援やデータ基盤構築のコンサルティングを手がける。Microsoft365/Azure/Power Platformのエンジニアとしても活動中。マニュアル動画視聴システムの個人開発・販売実績を持ち、各種SaaS導入支援やDX伴走支援を通じて、企業のデジタル化を支援している。