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2026年4月22日

「どんぶり勘定」から脱却する商品管理の基本
酒販店のためのABC分析実践ガイド

経営・マネジメント 酒類流通 経営戦略 具体例紹介 飲食店・旅館・料亭などへの卸売を行う酒販店において、取引先管理と商品管理は経営の両輪となる重要な課題です。その中でもABC分析は、売上貢献度を可視化する代表的な手法となります。

本記事では、小~中規模の酒販店経営者の方に向けて、取引先や商品でABC分析を行い、それぞれをランク分けして管理する方法を、基礎から実践的な活用方法まで解説します。

また、多くの酒販店が抱えている「どんぶり勘定」や、非効率な配送・在庫管理などの課題への対応、データに基づく経営判断の重要性などについて、具体例を交えながら紹介していきます。勘や経験だけに頼る卸売管理からの脱却を目指しましょう。

目次

酒販店が抱える商品管理の課題

日々の業務に追われる酒販店では、店頭販売に加えて飲食店・旅館・料亭などへの卸売業務も重要な収益源となっています。

しかし、この卸売業務の管理がどうしても後回しになりがちです。「あの居酒屋さんは長年の付き合いだから」「日本酒は利益率が高い」「ビールは売上が大きい」といった感覚だけで取引先や商品を管理しているケースは少なくありません。

こうした「なんとなく」の管理は、いわゆる「どんぶり勘定」になりやすく、放置すると経営を左右する問題にもなりかねないことから、酒販店が取り組むべき大きな課題と言えます。

酒販店が抱える商品管理の課題

よくある「どんぶり勘定」の実態

経験則だけで商品管理や取引先管理を行うと、「実は売上貢献度が低いのに棚や倉庫の良い場所を占有している商品」「思い入れはあるが利益を圧迫している商品」「実は利益率が低いのに配送頻度が高い取引先」など、マイナス要因に気づかないまま店舗運営を続けることになり、いずれ店舗経営に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、人間が関わることで単純に「好き嫌い」で判断してしまったり、忙しければデータを見ずに発注してしまったりといった事態は日常的に起こります。「どんぶり勘定」の原因は人為的な判断ミスと言えるでしょう。

データに基づく経営判断の重要性

「人口減少による市場の縮小」「EC市場の拡大」「人件費や物流費の上昇」など、酒販店の経営環境は厳しくなる一方です。その中で、限られた経営資源の小~中規模の酒販店が利益を確保するためには、効率的な商品管理や取引先管理が求められます。

こうした商品管理や取引先管理における課題を解決するためには、経営者の経験則だけに頼らず、データでの検証による客観的な視点から管理することが重要です。

その第一歩として有効なのが、「ABC分析」という手法です。ABC分析を用いることで人為的な判断ミスを減らし、「どんぶり勘定」からの脱却に近づきます。

ABC分析とは何か 基礎知識

「ABC分析」とは、取引先や商品を売上高や販売数量、粗利益額などの順番で並べ、その貢献度に応じてA・B・Cの3つのグループに分類して分析、管理する手法です。

この分析により、「どの取引先が」「どの商品が」「どのカテゴリーが」自店の売上や利益を支えているのかを明確に把握することができます。

ABC分析の目的

ABC分析の背景には、「パレートの法則」(別名「2:8」の法則)があります。これは、「売上の8割は、全体の2割の商品によってもたらされている」という考え方です。

例えば、1,000種類の商品を取扱っている場合、200種類の商品で売上の80%をカバーしているということです。実際に酒販店の売場をイメージすると分かりますが、お客様のほとんどは店内で取扱う多くの商品の中から、売れ筋の商品を手に取り購入しています。

そうしたことから、全ての商品や取引先を同じように管理するのではなく、売上や利益の貢献度が高い商品や取引先には重点的にリソースを配分して効率的に管理する、つまり「メリハリのある管理」を実現することがABC分析の目的です。

ABC分析の分類基準

ABC分析では、一般的に以下のような基準で商品を分類します。

Aランク商品(重点管理商品)

売上高や粗利益の累計構成比で上位約70~80%を占める商品群です。商品数では全体の約20%程度ですが、店舗の売上や利益を支える「稼ぎ頭」となる商品です。

Aランク商品の品切れは即座に売上や利益の減少につながるため、最も重点的な管理が必要です。

Bランク商品(通常管理商品)

売上高や粗利益の累計構成比で約15~20%を占める商品群です。商品数では全体の約30%を占めます。

Bランク商品は安定的な売上や利益を生み出す商品であり、適切な在庫管理を行うことで、Aランクへの育成も期待できます。

Cランク商品(効率的管理商品)

売上高や粗利益の累計構成比で約5~10%を占める商品群です。商品数では全体の約50%を占めることもあり「商品数は多いが個々の売上は小さい」のが特徴です。

Cランク商品には、在庫削減や取扱い中止の検討対象となる商品が含まれます。

ただし、これらの分類比率は業種や店舗の特性によって異なるため、自店に合った基準を設定することが大切です。

ABC分析で分かること

ABC分析を行うことで、自店の売上や利益を支えている取引先・商品が客観的に分かります。データを通じた分析結果は、経営者の感覚や思い入れと異なる結果が出ることもあるでしょう。

また、在庫の適正管理も可視化できます。忙しく酒販店経営を行う中、数多くある全ての商品を一つひとつ把握することは難しいのが実状です。

ABC分析により、限られた時間とリソースをどの商品に配分すべきかデータに基づいた判断が可能となり、効果的な経営の実現につなげることができます。

ABC分析を活用した実践的な管理手法例

ここからは、ABC分析による管理手法について具体的に解説しましょう。

例えば、地方都市にある酒販店A店では日本酒、焼酎、ワイン、ビール類など約800アイテムを取扱っています。A店の店主は、長年の経験から「地酒や季節限定商品が自店の特色」と考え、これらの商品に力を入れてきました。

しかし、近年は売上が伸び悩み、倉庫には動きの悪い在庫が積み上がっている状態に。責任者は「どの商品を減らし、どの商品に注力すべきか」という判断に迷っていました。

まずは現状を正確に把握するため、A店は売上高のABC分析を実施します。

ステップ1:データ収集

まず、過去6ヶ月間の販売実績データをPOSシステムから抽出しました。期間が短すぎると季節変動の影響を受けます。そのため、最低でも3ヶ月以上、できれば6ヶ月~1年のデータを使うことを推奨します。

ステップ2:売上貢献度の算出と商品のランク付け

Excelを使い、商品を売上高の大きい順に並べ替えます。そして、各商品の売上高、累計売上高、構成比、累計構成比を計算します。A店の場合、分析結果はこのようになりました。

【ABCランク算出表(単位:円)】

なお、累計構成比が70%未満の商品をAランク、70%以上~90%未満をBランク、90%以上をCランクと分類しました。

結果的に、全800アイテムのうち約240アイテム(全商品の30%)がAランクに分類されました。

ステップ3:結果の可視化

分析結果をグラフ化することで、より理解しやすくなります。また、横軸に商品別の売上高・縦軸に累計売上高をとったグラフ(パレート図)を作成すると、アイテム数で30%程度の商品が売上の70%程度を占めている様子が視覚的に分かります。

※今回の事例ではアイテム数が800と多く、実際のグラフを作成することができませんが、別のデータで以下のデータとグラフを作成してみました。形だけでも参考にしてみてください。

【ABCランク算出表(単位:円)】

【パレート図(単位:円)】

ステップ4:各ランクの管理方針の策定

分析結果を基に、各ランクの商品にどのような管理方針を適用するかを決定します。管理方針については後ほど、解説します。

<分析結果から見えてきたこと>

A店の分析結果からは、以下のような事実が明らかになりました。

まず、売上の上位30%の商品が全体売上の70%を占めていました。 Aランク商品の多くは、定番のビールや大手メーカーの焼酎・日本酒です。店主が力を入れていた地酒は、一部の人気銘柄がAランクに入ったものの、その他の多くはBランクやCランクに分類されました。

店主が「看板商品」と考えていた地元の地酒は、全体売上から見れば貢献度が低く、在庫回転率も低迷している状態でした。

一方で、「何気なく置いている」と思っていた定番のチューハイやビールは、Aランクの上位に位置していました。これらの商品は、単価は高くないものの、在庫回転率が高く、確実に売上を支えていたのです。

また、Cランク商品の中には1年以上動きがない商品や、賞味期限が迫っている商品が多数含まれており、倉庫スペースと資金を圧迫している実態が明確になりました。

ABC分析により、上位30%の商品に経営資源を集中させることで、効率的な店舗運営が期待できると結論が出ました。

ランク別の管理方針を決定

この店舗ではABC分析の結果を踏まえ、各ランクに応じた管理方針を以下の通り設定して取り組むことにしました。

●Aランク商品の管理方針

Aランク商品は店舗の売上を支える柱であり、絶対に欠品させてはいけません。そこで以下のような対策を実施しました。

  • 適正在庫の設定と定期的な発注の自動化
  • 売場の最も目立つ位置(ゴールデンゾーン)への配置
  • 季節やイベントに応じたプロモーションの強化
  • 仕入先との関係強化による安定供給の確保

例えば、Aランク上位のビールは週末や連休前に必ず在庫を増やすようにすれば、欠品による機会損失を防ぐことが可能です。

●Bランク商品の管理方針

Bランク商品は、適切に管理することでAランクに育成できる可能性を秘めています。

  • 過剰在庫を避けつつ、安定的な在庫を確保
  • 試飲会や店頭POPを活用した認知度向上施策の実施
  • 季節やトレンドに応じた売場展開

例えば、Bランクの地酒は蔵元と協力して試飲イベントを実施するなど、ファンづくりに取り組むことで、一部の商品がAランクに成長するかもしれません。

●Cランク商品の管理方針

Cランク商品は、在庫削減と取扱いの見直しが基本方針です。

  • 思い切った在庫削減の検討
  • 取扱い中止も視野に入れた商品評価の見直し
  • 代替商品への切り替え検討

Cランク商品の場合、中には顧客満足度の観点で必要と考えられる商品があります。

例えば、売上は少なくても特定の常連客が定期的に購入する商品や、品揃えの充実度を示すための商品は、一定数残すことがポイントです。

ランク別に管理方針を決めた後は、商品ランクごとに適正な在庫日数のルールを決めるなど、発注基準を明確化しましょう。

在庫管理・配送計画への活用

ABC分析は、日々の発注業務や在庫管理、販売体制、配送体制の検討にも活用できます。

発注業務や在庫管理への活用

Aランク商品は発注頻度を高め、欠品リスクを最小化することを目指します。一方、Cランク商品は発注量を減らすか、受注発注に切り替えることで在庫を圧縮できます。

例えば、Aランク商品の適正在庫日数を7日分、Bランクを14日分、Cランクを30日分(または在庫を持たない)と設定するなど、発注基準を明確化する方法があります。

販売体制や配送体制への活用

Aランク商品は、入口近くや目線の高さなど最も目立つ場所に配置しましょう。例として、店舗入口のエンドコーナーに定番のビールやチューハイを大量に陳列し、お客様の購買意欲を刺激して「確実に売れる」売場を作る方法が考えられます。

また、Bランク商品はAランク商品の近くに配置することで、ついで買いを促進する工夫も効果的です。

配送体制では、売上実績に基づいて配送頻度や配送量を最適化していきます。例えば、Aランク商品は週2回の配送で鮮度と在庫を保ち、Bランク商品は週1回、Cランク商品は月1回または注文時のみとするような体制を整備することで、配送コストを削減しながら必要な商品を確実に届けることが可能です。

ABC分析を行う際の注意点

ABC分析は販売実績に基づいた分析手法で、客観的な判断を行う材料になります。しかし、それだけで判断するには足りない要素があります。

陥りがちな落とし穴

売上高が高くても、利益率が低ければ経営への貢献度は限定的です。可能であれば、粗利益額でもABC分析を行い、「利益を生む商品」を把握することが重要です。

また、季節商品は分析期間によってランクが大きく変動します。例えば、冬季限定の日本酒は夏を含む期間で分析するとCランクになりますが、冬季だけで見ればAランクになるかもしれません。

こうした季節性のある商品は、該当シーズンのみを対象に別途分析する必要があります。その他、新商品は導入から一定期間経過後に評価するようにしましょう。

Cランク商品については、ランクが低いからといって全て切り捨てることは危険です。先述した通り、売上は少なくても特定のお客様にとって欠かせない商品や、品揃えの幅を示すために必要な商品もあります。

そして、商品や販売先の将来性も考慮した取扱いが必要です。高級ワインは在庫回転率が低くCランクになりやすいですが、「専門店」としてのブランドイメージを高め、他の商品の購入にもつながることがあります。

また、新規オープンの飲食店に卸す場合、当初は売上が小さくても成長の可能性があるかもしれません。

分析の精度を高めるポイント

ABC分析を効果的に活用するには、いくつかのポイントに留意する必要があります。まず、適切な分析期間の設定が重要です。短すぎる期間では偶発的な要因に左右されやすく、長すぎると市場環境の変化を見逃してしまいます。

通常は3ヶ月から1年程度が適切ですが、季節変動が大きい業種では、通年のデータで分析することが望ましいでしょう。

次に、定期的な見直しの必要性です。ABC分析は一度実施して終わりではありません。市場トレンドやお客様のニーズは常に変化しているため、四半期ごと、あるいは半年ごとに定期的に分析を更新し、商品構成を見直すことが重要です。

さらに、現場スタッフの意見も積極的に取り入れましょう。データだけでなく、日々お客様と接している現場スタッフの気づきやお客様の声も貴重な情報源です。

「最近この商品の問い合わせが増えている」「この商品は高齢者に人気がある」といった定性的な情報と、ABC分析のデータを組み合わせることで、より精度の高い経営判断ができます。

管理システムやツールの活用

ここまでABC分析の手法と実践例を紹介してきましたが、重要なことは「データに基づいた管理」をすぐにスタートさせることです。

一方で、「データの集計や分析に時間がかかりそう」「継続的に実施できるか不安」と感じた方も多いと思います。そのような方には販売管理や利益管理、在庫管理に活用できる管理システムを導入する方法もあります。

管理システムの活用

メーカー各社が販売する管理システムには、ABC分析を始めとする様々な経営分析機能を搭載しています。取引先別や商品別での売上や粗利分析、受注管理、配送ルートの最適化、取引先別の在庫管理、請求や入金管理などを行えるシステムもあります。

利益管理システム「SIPMEISTER」

管理システムとして、三菱電機デジタルイノベーションが販売する「SIPMEISTER」を紹介します。

「SIPMEISTER」は、販売分析として取引先や商品ごとの売上高や利益額などからランク付けができるほか、時系列での分析や複雑なリベート計算、請求書発行業務の自動化により、管理業務の効率を高めることができます。

▼利益管理システム「SIPMEISTER

小規模店舗で始めるには?

小規模店舗で始めるコツとしては、できるだけコストを抑えて取り組むこと、次に続けられる方法を考えることがあります。

コストを抑えて取り組む方法としては、まずはExcelでの簡易的なABC分析から始め、その効果を実感してからシステム導入を検討するという段階的なアプローチが有効です。

多くのアイテムがある商品でABC分析をするのが大変であれば、取引先別のABC分析から始める方法もあります。慣れてきたら商品別のABC分析を始めて、実際に効果が見えてきたら管理システムを導入するという流れで進めても良いでしょう。

まとめ「どんぶり勘定」からデータ経営へ

ABC分析は、決して難しい手法ではありません。必要なのは、取引先別・商品別の販売データと、それを分析しようとする意欲です。

「あの取引先は重要」「この商品は売れている」という感覚をデータで裏付けることで、確信を持って経営判断ができるようになり、思い込みや先入観から解放され、客観的な視点で商品構成を見直すきっかけにもなるでしょう。

酒販店の卸売部門では、取引先や商品単品でABC分析を行うことで、より多面的に経営状況を把握できます。それぞれの分析結果を組み合わせることで、「重要な取引先に」「売れる商品を」「適切なタイミングで」届けるという、卸売業務の基本を確実に実行できます。

まずは、過去数ヶ月の取引先別・商品別販売データを抽出して、自店の「売上を支えている上位取引先と上位商品」をリストアップすることから始めてみてください。Excelでの手作業でも、システムを活用しても構いません。そこから見えてくる事実が、経営を変える第一歩となるはずです。

売上の向上、配送効率の改善、在庫の適正化、キャッシュフローの改善など、小さな一歩が、やがて大きな経営改善につながります。従来の勘と経験に「データ」という武器を加え、より強く、より柔軟な店舗経営を実現して「どんぶり勘定」からの脱却に取り組みましょう。


著者プロフィール

渡貫 久

株式会社ユーミックプロデュース 代表

渡貫 久 渡貫 久

中小企業診断士として、経営全般の相談や中長期経営計画の策定支援を専門に経営支援を行う。食料品小売業の経験が長いことから、食品系のマーケティング・販売促進・販路開拓・商品開発が得意分野。2006年から現在まで、公的機関や大学、民間企業において「マーチャンダイジング」「情報化」「ビジネスプラン作成」「商圏分析」「営業管理者研修」などの研修講師を務めている。


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