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2026年6月16日
中堅・中小製造業の原価管理のポイント - 労務費・製造経費の原価計算を中心に
経営・マネジメント
製造業
経営戦略
受注生産、あるいは多種類の見込生産を行う製造業の場合、製品別の労務費・製造経費を把握するために、賃率・製造間接費レートの設定が必要です。
また、製造原価に占める労務費・製造経費の割合が高い製造業の場合、賃率・製造間接費の配賦基準の設定が適切に行われないと、製品ごとの製造原価が製造活動の実態を反映できず、販売価格の設定や利益管理を適切に行うことができなくなる恐れがあります。
本記事では、中堅・中小製造業が労務費・製造経費の原価管理や原価見積を適切に行うための、賃率・製造間接費レートの計算方法を中心に解説します。
目次
賃率・製造間接費レートの設定が必要な生産方式
製造業が利益を確保するためには、製品別の販売価格を設定する際に、
- 材料費
- 外注費
- 固定費(労務費・製造経費・販管費)
を回収し、さらに目標利益を上乗せした金額とする必要があります。労務費や製造経費は材料費と異なり、製品別の使用数量や消費量が明確ではありません。そのため、製品別の生産数量や作業時間などに応じて割り振る必要があります。
また、顧客の仕様に基づいて様々な製品を受注生産する場合や、仕様の異なる多種類の製品を見込んだ大量生産を並行して行う場合、製品別の作業時間が異なることが多くなります。よって、作業時間に応じて労務費や製造経費を割り振ることが合理的です。
この場合、労務費や製造経費の時間あたり単価が必要となるため、賃率・製造間接費レートの設定が必要となります。
賃率・製造間接費レートの計算方法のポイント
賃率・製造間接費レートの計算には、労務費や製造経費、作業工数などの生産データが必要です。
ここでは、賃率・製造間接費レートの計算方法のポイントについて解説します。
賃率の計算方法のポイント
賃率とは、「製造作業に直接従事する直接工の労務費の総額」を「直接工が製造作業に従事した作業時間(直接作業時間)の総数」で割り、「1時間あたりまたは1分あたりの単価」として計算したものです。
計算のポイントは、直接工及び直接作業時間の定義付けと、直接工の労務費及び直接作業時間の集計です。直接作業時間を把握するためには、作業日報の作成が必要となります。
作業日報を作成していない場合、直接作業時間と間接作業時間の定義付けが必要です。製造担当者を対象に、日々の業務内容についてアンケートやヒアリングを事前に行いましょう。アンケートやヒアリングを通じて、思いがけない業務改善の糸口が掴めることもあります。
製造間接費レートの計算方法のポイント
製造間接費レートとは、「製造間接費の総額」を「直接作業時間」「機械装置の稼働時間」「生産数量」など生産活動に関わる一定の基準(配賦基準)で割り、「作業時間1時間あたりの単価」や「製品1個あたりの単価」として計算したものです。
製造間接費は、労務費のうち間接工に関わる金額と、製造経費のうち特定の案件や製品に関連する外注費などを除いた合計額となります。製造間接費を案件・製品ごとに適切に割り振るには、工場の生産活動の実態を反映した配賦基準の選択が重要です。
適切な配賦基準を選定するためには、原価計算の担当者が製造工程と工場内で発生するコストの状況を正しく理解する必要があります。
製品別の労務費・製造経費の計算方法のポイント
製品別の直接労務費・製造間接費の原価計算は、次の手順で進めます。
【1】直接労務費・製造間接費の集計
【2】直接作業工数などの集計(製品別、工場全体)
【3】賃率・製造間接費レートの計算
【4】製品別の直接労務費・製造間接費の配賦額計算
これらの手順を進める際には、製品別の工数データの集計を正確に行うことが重要です。
試算表・計算書データとの整合性を確保する
労務費や製造経費の原価計算を正確に行うには、決算書や月次試算表の製造原価報告書に記載された労務費や製造経費と一致させる必要があります。
賃率を設定している場合は、労務費を直接労務費と間接労務費に区別する必要があるため、給与計算ソフトの部門設定や会計ソフトの部門別集計機能を利用して、直接工に対する給与・賞与などの労務費を集計しましょう。
Excelによる原価計算のメリット
Excelで原価計算を行うメリットは、機械装置別のレート設定など詳細な原価計算や、売れ筋製品などに絞った簡易的な原価計算など、企業の実情に沿った原価計算方法を自由に構築しやすいことです。
販売管理システムにExcelで計算した製品別の原価データを入力することで、製品別の利益管理や、月末在庫高の計算による在庫管理を行うことも可能です。ただし、原価計算の担当者が原価計算やパソコン操作について詳細な知識を持っている必要があります。
Excelによる原価計算のデメリット
Excelで原価計算を行うデメリットとして、ファイルを誤って消去してしまうリスクや、パスワード管理をしていない場合、誰でもファイルを開くことができてしまうことなどが挙げられます。また、原価計算に必要な複数のデータを組み合わせる必要があるため、作業手順が複雑となってしまい、計算ミスの発生が想定されます。
また、原価計算業務が特定の担当者に属人化していると、担当者の退職時に業務の引き継ぎが不十分なこともあります。賃率・製造間接費レートの定期的な見直しが行われず、原価見積の際に過去の賃率・製造間接費レートが使われてしまうケースがあります。さらに、製造工程や設備の変化に対応した製造間接費の配賦方法の見直しが行われず、生産活動の実態に合わないまま原価計算を続けてしまうケースもあります。
結果的に、製品別の価格設定や採算性の判断を誤り、正しい経営判断ができなくなる恐れがあります。経営に関わるリスクの回避には、原価管理システムの導入が有効です。システムの導入により、原価計算作業の自動化や在庫管理業務の省力化など、業務効率の改善が期待できます。
中堅・中小製造業の実情に沿った製造間接費レートの設定
NC(数値制御)やMC(マシニングセンタ)などの工作機械を導入する中堅・中小製造業の場合、材料の切断・加工作業は主に工作機械が担い、作業の段取りや仕上げ、最終検査を作業員が行います。こうした生産工程の場合は、製造間接費については複数の配賦基準を設定することにより、製品別原価をより正確に計算できます。
ここでは、製造間接費の配賦基準について、直接工の直接作業時間と機械装置の稼働時間を組み合わせた場合の適切な製造間接費レートを計算するためのポイントを解説します。
機械装置に関連する製造経費の把握
製造経費の勘定項目ごとに、機械装置に関連するものと関連しないものに分けましょう。機械装置に関連する製造経費は、減価償却費・リース料・電力費・修繕費・消耗品費などが該当します。
このうち、減価償却費については、固定資産管理システムの部門設定を活用する方法があります。
修繕費や消耗品費など、機械装置の運転以外の用途にも使用される製造経費は、発注・検収の際に機械装置に関連するものを区別するための工夫が必要です。
一例として、会計ソフトに部門別集計機能がある場合には「機械加工部門」などダミー部門の設定や、補助科目の設定により機械装置に関連する製造経費を集計する方法などがあります。
機械装置レートの計算方法
機械装置レートは「機械装置別」「ライン別」「種類別」などに設定し、設定単位ごとの製造経費の合計を「機械装置の稼働時間の合計」で割って計算します。機械装置レートの設定単位を小さくすればするほど、より正確な原価計算が可能となりますが、その反面、製造経費の集計作業が複雑になります。
また、機械装置レートの設定に伴い、機械装置の稼働時間の定期的・継続的な把握が必要になることで、機械の稼働状況や稼働率を把握できます。機械装置の稼働率を上げることにより、減価償却費などの固定費を早期に回収することができ、利益改善や新たな設備投資につながります。
賃率・製造間接費レートを用いた原価見積の精度向上
販売価格を設定する際には、製品の原価見積を行います。原価計算を実施していない製造業の場合、製品別に独自性の強い労務費・製造経費の計算方法となることが多く、工場全体の労務費・製造経費の発生金額との整合性が確保されていないケースが散見されます。
原価見積を行う際に、原価計算に基づいた製品別の実績原価や賃率・製造間接費レートを用いることにより、原価見積の精度が向上し、利益確保に役立ちます。
原価計算を実施していない場合の原価見積方法
原価計算を実施していない場合、営業担当者や製造担当者が製品ごとに原価見積の計算ロジックを設定することが多くあります。
労務費や製造経費については、製品別の製造方法に沿って精密な計算ロジックを組んでいる一方で、一般的な原価計算方法を意識していない場合があるため、製造原価報告書に記載された会社全体の労務費・製造経費の合計額と整合性が取れない場合があります。
製造原価報告書の製造原価や一般的な原価計算方法を考慮せずに原価見積を行うと、製品ごとの原価見積では利益が出ているが、会社全体では利益が出ていない、またはその逆の場合もあり、販売価格の設定や受注判断の妥当性に疑問が生じてしまいます。
原価計算結果に基づく原価見積方法
原価計算による製品別の実績原価に基づいて原価見積を行うことにより、原価を下回る価格での受注や、実際の原価よりも高すぎる価格設定による失注を抑えることができます。
また、顧客の仕様に基づく受注生産品や新規製品の原価見積を行う際にも、原価計算に基づく賃率・製造間接費レートを用いることにより、原価見積の精度を向上できます。
ただし、賃率・製造間接費レートは、会社全体の生産数量が減ると稼働時間が減少するため、賃金や物価の上昇がなくても単価が上昇することがあります。その場合、営業サイドからすれば、「社内事情で原価が高くなっても、顧客に値上げを要請するための説明ができない」ことになります。
その際には、「品質の維持や安定供給のため」など、顧客が納得できる理由で説明することや原価上昇分の一部を価格転嫁するなどの対応を検討する必要があります。
予定賃率・予定間接費レートに基づいた原価管理
月次試算表の労務費・製造経費に基づいて賃率・製造間接費レートを計算すると、月ごとにレートが変動するため、同じ作業工数でも月によって原価が変動します。
そのため、原価管理を行う際に、目標原価の範囲内で製造作業を行うことができたか否かの判断を誤る恐れがあります。
予定賃率・予定間接費レートの設定方法
年度予算を編成する際には、予定賃率・予定間接費レートを設定します。その際に、労務費・製造経費は工場の労務費・製造経費の予算値を使用できますが、労務費については直接労務費・製造労務費に区別する必要があります。
また、作業工数や機械工数についても予算数値の設定が必要です。作業工数の予算は、「直接工の予定総出勤時間」×「予定稼働率」などの計算方法があります。稼働率や機械工数は、過去3年間程度の稼働率や稼働工数の実績値を基に、需要予測や生産量の見通しによって補正することにより、実績値との乖離を防ぐことができます。
予定賃率・予定間接費レートによる原価管理方法
受注案件別や製品別に原価管理を行う際に、製造原価の計画値及び実績値の双方が予定賃率・予定間接費レートで計算されることにより、原価の変動要素が製造担当者の工数の増減に限定されます。製造担当者は、工場全体のコストや操業度の変動など、自分でコントロールできない原価の変動要因から解放されるとともに、原価管理における責任の範囲が明確になります。
一方で、予定賃率・予定間接費レートを使用して原価計算を行う場合、予定値と実績値との差額が必ず発生します。そのため、年度決算においてはこの差額を売上原価と棚卸高に按分する必要があります。原価差額の全額を売上原価に計上してしまうと、金額によっては、税務調査の際に「在庫高計上もれ」を指摘され、追徴課税されるリスクがあります。
また、製品数が多い場合や製造間接費の配賦基準が複雑な場合、原価差額の各製品への配賦処理に時間が掛かり、原価計算担当者の作業負担の増加や決算スケジュールの遅延を招いてしまいます。
原価計算担当者の負担を減らすために
経理部門の原価計算担当者は、様々な経理業務を担当している場合が多く、長時間勤務が続いているケースも見られます。経理業務の効率化を行わず、長時間勤務を放置していると、ワークライフバランスを重視する経理人材の離職を招き、経営管理業務に支障が出る恐れがあります。
原価計算業務に時間を要している場合、原価計算システムを導入して業務効率化を図るなど、経理部門の労働時間を短縮する取り組みが欠かせません。
まとめ
労務費・製造経費の原価管理や原価見積を適切に行うためには、原価計算のルールに従って、賃率・製造間接費レートを計算することが重要です。
原価計算や原価管理を行う際には、原価計算ソフトや原価管理機能を備えた生産管理システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。計算精度の向上はもちろん、業務の属人化防止や業務時間の削減が期待できます。
なお、製造間接費の配賦基準を複数設定する場合は、配賦計算機能が充実した原価計算ソフトの利用が望ましいです。
著者プロフィール
伊藤 隆雄
ものづくり税理士事務所 代表 / 合同会社原価計算 代表社員
税理士
東証プライム上場2社の工場経理部門で20年にわたり、月次・年次決算、原価管理・予算管理・収支予想などの管理会計、経営層への予算・実績差異報告資料の作成に携わる。また、経理システム・生産管理システムの更新プロジェクトや、J-SOX(内部統制報告制度)の構築・運用にも従事し、管理職としてマネジメントも経験。2019年に独立し、税理士事務所を開業。2022年に「合同会社原価計算」を設立し、主に中小製造業を対象とした原価計算導入・改善プロジェクト支援を開始する。また、2021年より公的支援機関の経営相談員業務を務め、中小製造業を中心に、原価計算方法の見直し・改善などの管理会計分野の経営改善支援を行っている。