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2026年6月30日

2026年施行 厚生年金保険制度改正-適用拡大と報酬上限引き上げのポイント

業務改善 人事労務向け 就業・労務管理 法改正 少子高齢化による人手不足が深刻化する中、年金財政の安定と多様な働き方の推進に向けた厚生年金保険制度の改正が2026年4月より順次施行されました。

在職老齢年金の見直しによるシニア社員の就労促進や、短時間労働者の社会保険の適用拡大、私的年金の拡充、標準報酬月額上限の引き上げなど、実務への影響は多岐にわたります。

本記事では、2026年に施行された厚生年金保険制度の改正内容と、企業への影響や対策のポイントを分かりやすく解説します。

目次

厚生年金保険制度改正の全体像

少子高齢化が進む中、年金財政の安定と多様な働き方に対応するため、政府は段階的に厚生年金保険制度の改正を進めています。

以下は、2026年以降に企業実務へ影響する主な改正内容です。

  1. 在職老齢年金の見直し
  2. 社会保険適用拡大(企業規模要件の撤廃)
  3. 私的年金制度の拡充
  4. 標準報酬月額上限の段階的引き上げ

改正法の施行時期や概要など具体的な全体スケジュールは以下のとおりです。

厚生年金保険制度改正の全体像
施行時期 改正概要 改正内容
2026年4月 在職老齢年金の見直し 支給停止の基準額が「月額50万円」から「月額65万円」に引き上げ
私的年金制度の拡充 マッチング拠出における加入者掛金額の制限を撤廃
10月 「年収106万円の壁」撤廃 賃金要件(月額8.8万円)の撤廃
12月 私的年金制度の拡充 個人型確定拠出年金(iDeCo)加入可能年齢の引き上げ
2027年9月 標準報酬月額上限の段階的引き上げ(1) 厚生年金の算定上限を65万円から68万円へ引き上げ
10月 社会保険適用拡大(1) 企業規模要件を「従業員数51人以上」から「従業員数36人以上」へ引き下げ
2028年9月 標準報酬月額上限の段階的引き上げ(2) 算定上限を71万円へ引き上げ
2029年9月 標準報酬月額上限の段階的引き上げ(3) 算定上限を75万円へ引き上げ(最終段階)
10月 社会保険適用拡大(2) 企業規模要件を「従業員数21人以上」へ引き下げ
個人事業所の適用拡大 常時5人以上を使用する個人事業所が対象となる(既存事業所は経過措置あり)
2032年10月 社会保険適用拡大(3) 企業規模要件を「従業員数11人以上」へ引き下げ
2035年10月 社会保険適用拡大(完了) 企業規模要件が撤廃、要件を満たす全ての事業所が対象

このように、2026年4月以降に順次施行される厚生年金保険制度の改正は、在職老齢年金の見直しや社会保険の適用拡大など多岐にわたります。企業は、シニア層や短時間労働者の柔軟な働き方を後押しできる一方で、社会保険の加入手続きや労務管理の事務負担が増えるでしょう。

また、私的年金制度の改正として、企業型確定拠出年金の導入企業で事業主の掛金に加えて、従業員自身が任意で掛金を上乗せして拠出できるマッチング拠出の制限撤廃など、従業員の資産形成を支援するための制度変更も進んでいます。

次項から、改正内容の詳細や企業における影響を解説します。

在職老齢年金の見直し

「在職老齢年金」は、働きながら老齢厚生年金を受け取る際に賃金と年金の合計額が一定基準を超えると、年金の一部または全額が支給停止される制度です。

今回の改正では、賃金と年金の合計額(支給停止基準額)が50万円から65万円に引き上げられます。

改正内容

在職老齢年金制度は、これまで「賃金+年金」が月額50万円を超えた場合に年金額が減額されていましたが、2026年4月1日より支給停止基準額が「65万円」へ引き上げられました。

シニア社員が高い給与を得ても年金が減額されにくくなり、企業にとっては経験豊富なベテラン層に活躍の場を提供しやすくなるメリットがあります。

企業への影響

シニア社員の多くは、給与と年金の合計額が基準を超えることで年金が減額される「働き控え」を避けるため、就業時間や日数をあえて抑える傾向にありました。

今回の支給停止基準額引き上げにより、これまでよりもシニア社員が年金の支給停止を気にすることなくフルタイムで働きやすくなるため、企業が抱える深刻な人手不足の解消につながるメリットがあります。

また、対象者に改正点を説明したうえで労働条件を見直すことで活躍できる場を提供できれば、従業員のモチベーション向上につながるでしょう。

社会保険適用拡大(賃金要件・企業規模要件の撤廃)

短時間労働者が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する基準は、勤務先の企業規模によって異なります。2024年10月の法改正により、従業員数(厚生年金の被保険者数)が51人以上の企業で働く短時間労働者が加入対象となっています。

今回の改正では、短時間労働者が社会保険に加入する基準の一つである賃金要件と企業規模要件の将来的な撤廃が決定されました。

改正内容

今回の改正による社会保険の適用拡大のポイントは、主に以下の3つです。

  • 短時間労働者の賃金要件の撤廃
  • 短時間労働者の企業規模要件の縮小・撤廃
  • 個人事業所の適用拡大

短時間労働者の賃金要件の撤廃

これまで加入の条件の一つとして、「月額8.8万円以上(年収106万円の壁)」という賃金要件がありましたが、この要件は撤廃される予定です。

厚生労働省によると、公布から3年以内に「全都道府県の最低賃金が1,016円以上になることを見極めた後に撤廃する」とされていますが、2026年3月31日時点で全都道府県の最低賃金が1,016円以上になったことから、2026年10月から月額8.8万円以上の賃金要件が撤廃される予定です。

ただし、最低賃金法では一定の場合に最低賃金の減額を認める特例があります。この特例の対象となる短時間労働者のうち、月額8.8万円未満である場合は、原則社会保険に加入しないこととなります(申出により任意で加入することは可能です)。

短時間労働者の企業規模要件の縮小・撤廃

現行の法制度では、パート・アルバイトなどの短時間労働者が社会保険に加入するためには、勤務先の従業員数(厚生年金の被保険者数)が51人以上という企業規模要件があります。

今回の改正により、2027年10月から企業規模要件が現在の「従業員数51人以上」から「従業員数36人以上」へ引き下げられ、適用対象がさらに拡大します。最終的には2035年10月に企業規模要件は撤廃される予定です。

具体的なスケジュールは以下のとおりです。

施行月 従業員数
2027年10月 36人以上
2029年10月 21人以上
2032年10月 11人以上
2035年10月 撤廃(1人以上)

企業規模要件の撤廃後(2035年10月以降)は、従業員数に関わらず「週の所定労働時間が20時間以上」である場合は、社会保険の加入対象となります。

個人事業所の適用対象を拡大

2029年10月から、個人事業所の社会保険の適用対象が全業種に拡大されます。

現行法では、個人事業所の社会保険加入について、従業員(常時使用する者)が5人以上であっても「法定17業種(製造、土木、販売、医療、士業など)」に該当する事業所が強制加入の対象で、飲食店や美容業などの一部のサービス業は対象外です。

2029年10月以降は法定17業種の制限が撤廃され、「常時5人以上の従業員を使用する全業種」に適用対象を拡大します。

ただし、急激な負担増に配慮して、施行日(2029年10月)の時点で「既に存在している事業所」については、当分の間は適用対象外とする経過措置が設けられる予定です。

企業への影響

2026年10月以降に賃金要件が撤廃されることで、これまで月額8.8万円未満に抑えながら働いていたパート・アルバイトなどの短時間労働者が社会保険の加入対象となる可能性があります。

また、2027年10月から企業規模要件(従業員数)が段階的に縮小されることで、中小企業もパート・アルバイトなどの短時間労働者を新たに社会保険へ加入させる義務が生じるでしょう。

短時間労働者が社会保険に加入する際には、事業主の保険料負担や人事労務担当者の負担増を招きます。企業は改正に備え、短時間労働者への説明や適切な事務処理を行えるように準備を進めておく必要があります。

私的年金制度の拡充

少子高齢化や働き方の多様化により「人生100年時代」を迎える中、公的年金を補完する「私的年金制度」の役割がますます重要になります。

今回の改正では、従業員が自身のライフプランに合わせてより柔軟に老後の資産形成を行えるように、企業型確定拠出年金(企業型DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo)の制度拡充が図られています。

掛金の拠出要件の緩和や加入可能年齢の引き上げを通じて、個人の長期的な自助努力を国が後押しする内容です。

改正内容

私的年金については、2026年4月1日にマッチング拠出の加入者掛金額の制限が撤廃されました。

マッチング拠出とは、事業主が拠出する掛金に上乗せして、従業員自身が給与から掛金を拠出できる制度です。これまで、従業員が拠出する掛金は「事業主掛金の額を超えてはならない」という制限が設けられていました。

改正後は、勤務先の事業主掛金が少額でも、従業員は法定の拠出限度額(他の企業年金がない場合は月額5.5万円、ある場合は月額2.75万円)の範囲内であれば、自身のライフステージに合わせて掛金を設定できるようになります。

また、2026年12月1日からは個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の上限が、現在の65歳未満から70歳未満へと引き上げられます。60歳以降も働きながら、非課税のメリットを生かして老後の資産形成を継続することが可能です。

企業への影響

企業が受ける影響としては、制度運用に関わる実務対応と従業員への周知が挙げられます。

まずは、就業規則や企業型確定拠出年金(企業型DC)規約の変更対応が求められるため、改正に備えた準備が必要です。また、マッチング拠出の導入企業では、従業員が事業主掛金を超える額を拠出可能になることに伴い、従業員への周知と拠出額の変更の手続きが発生します。

2026年12月1日以降は、60歳で企業型確定拠出年金(企業型DC)の加入資格を喪失した従業員の運用資産を個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換し、70歳まで掛金の拠出も続けていくことを希望する従業員への対応が考えられます。

標準報酬月額の上限が「75万円」まで引き上げ

厚生年金保険料の計算基準となる標準報酬月額には上限が設定されており、これまで一定以上の高所得層は一定の給与額から保険料が定額になっていました。

今回の改正により、標準報酬月額の上限が現行の65万円から75万円へ段階的に引き上げられます。なお、厚生年金保険料率に変更の予定はありません。

改正内容

現行では厚生年金の標準報酬月額の上限は「65万円(32等級)」でしたが、2027年9月に予定されている改正により、標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられ、最終的に「75万円(35等級)」まで引き上げられます。

急激な負担増を避けるため、以下のスケジュールで引き上げが予定されています。

改定月 上限
現行 65万円(32等級)
2027年(令和9年)9月 68万円(33等級を新設)
2028年(令和10年)9月 上限71万円(34等級を新設)
2029年(令和11年)9月 75万円(35等級を新設)

企業への影響

標準報酬月額の上限が75万円に引き上げられた場合、報酬月額が66.5万円以上の従業員や役員は、厚生年金保険料の負担が増加します。

厚生年金保険料は労使折半(企業と従業員で半分ずつ負担)のため、企業のコスト負担に加え、従業員を社会保険に加入させるための手続きなど、人事労務担当者の業務負荷が増えるでしょう。

また、対象となる従業員にとっては「手取り額の減少」となるため、将来受け取る年金額が増えるメリットと併せて、丁寧な説明が求められます。

厚生年金保険制度改正に備えて人事労務担当者がやるべきこと

今後順次改正される厚生年金保険制度に備え、人事労務担当者は準備をしておきましょう。

  • 働き控えの解消による雇用契約の見直し
  • 改正内容の社内周知と事務手続きの効率化
  • 私的年金制度の規程見直しと案内資料の最新化

働き控えの解消による雇用契約の見直し

2026年4月に施行された在職老齢年金の見直しにより、支給停止基準額が従来の50万円から65万円に引き上げられます。

これに伴い、「年金が減額されない範囲で給与を抑えて働く」というシニア社員の意識が変化することが予想されます。また、短時間労働者の社会保険における賃金要件撤廃により、「扶養の範囲内で働きたい」という理由で就業時間を調整する「働き控え」の解消も期待できます。

企業の人事労務担当者は改正内容を社内に伝えるとともに、シニア社員や短時間労働者など対象者向けに就労時間の変更について、本人と話し合いの機会を設けることが求められます。

従業員と話し合う際には、社会保険加入や年金支給額への影響をシミュレーションするなど、働き方の選択肢を提示し、個々の希望と会社のニーズをすり合わせる必要があります。

シニア社員や短時間労働者と労働条件が合意できれば雇用契約を見直し、契約の再締結を行いましょう。

改正内容の社内周知と事務手続きの効率化

短時間労働者の社会保険における賃金要件撤廃や企業規模要件の縮小・撤廃により、企業は新たに社会保険へと加入する短時間労働者の加入手続きと社会保険料の計算・管理業務への対応が求められます。また、2027年9月から厚生年金保険の標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられるため、厚生年金保険の見直しが適宜必要です。

一連の改正に備え、人事労務部門は徹底した社内周知と新たに社会保険に加入する短時間労働者に向けて丁寧な説明が求められます。短時間労働者には社会保険に加入することにより将来の年金が増えることや、月額賃金を意識せず働けることなどのメリットを伝えましょう。

加えて、人事労務担当者の事務負担の増加に伴い、業務効率化を推し進めることも大切です。事務手続きのシステム化や担当者の属人化解消など、改正に備えた業務の見直しも検討しましょう。

私的年金制度の規程見直しと案内資料の最新化

2026年4月から施行される私的年金制度の拡充により、企業は社内規程の改定や個別手続きが増加する可能性があります。具体的には、マッチング拠出における制限撤廃による就業規則や企業型確定拠出年金(企業型DC)規約の変更に加え、従業員からの問い合わせ対応が求められます。

退職時や継続雇用への移行時に改正後のルールを説明できるよう、案内資料を最新の状態にアップデートしておきましょう。

まとめ

2026年以降に順次施行される厚生年金保険制度の改正は、在職老齢年金の見直しや社会保険の適用拡大など多岐にわたります。これにより、企業はシニア社員や短時間労働者の柔軟な働き方を後押しできる一方で、社会保険の加入手続きや労務管理の事務負担が増加するでしょう。

人事労務部門は、社内規程の見直しや従業員への丁寧な周知を行うとともに、実務対応に向けた業務の効率化やシステム化といった早期の備えが求められます。

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制度改正に伴う業務増大を防ぎ、人事労務担当者が本来注力すべきコア業務に集中できる環境づくりを進めましょう。

ぜひ、この機会に「ARDIO C1」の導入をご検討ください。


著者プロフィール

北 光太郎

社会保険労務士

中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。勤務社労士として計10年の労務経験を経て「きた社労士事務所」を設立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わずWebメディアの記事執筆・監修を行いながら、自身でも労務情報サイトを運営している。


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