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2026年9月1日

AI時代でもデータ分析は不要にならない ― 意思決定につながる「人が考える分析」の本質とは

経営・マネジメント セキュリティー AI 近年、DX推進の流れに加えてAIの劇的な普及により、データ分析はこれまで以上に身近なものとなりました。多くの企業でダッシュボードや分析ツールの導入が進み、データに基づいた意思決定への期待がさらに高まっています。

少し別の見方をすると、実務担当者がデータ分析を専門家に依頼するだけでなく、自走化や内製化に対する期待も高まったともいえます。

一方、「なかなかデータ活用の文化が浸透しない」「必要な活用基盤が整わない」「分析結果が実際の業務改善や意思決定に十分に活かされていない」という声も少なくありません。その背景には、単にツールの問題だけではなく、業務の捉え方やデータの扱い方に起因することが関係しているようです。

本コラムでは、データ活用が現場で機能しない理由を整理するとともに、実務で活かすための考え方と環境整備のポイントについて解説します。

目次

データ活用が進まない現場で起きていること

現在、多くの企業でBIツールや分析ツールの導入が進んでいます。営業、生産、マーケティング、バックオフィスなど、さまざまな部門でデータを可視化し、状況を把握しようとする取り組みが行われています。生成AIの普及もあり、分析対象のデータを読み込ませれば一定の集計や示唆出しができるようになったことで、データ分析を行うハードルは以前よりも下がったように思います。

データ活用が進まない現場で起きていること

しかし、データを扱う手段が増えたからといって、必ずしもデータ活用が進むわけではありません。例えば、見栄えの良いダッシュボードは作成されたものの、実際には会議資料の一部として眺められるだけで、意思決定には結びついていないケースがあります。分析専門の担当者がモデルやレポートを作っても、その後の運用や更新が属人化し、しばらくすると使われなくなることもあります。

また、機能が豊富であるがゆえに、それらを使いこなすための学習コストが必要になることも見逃せないポイントの一つです。

「誰でも分析できる環境を整えよう」としてツールを導入しても、初期の学習やケースワークに時間がかかり、現場が使い始める前に疲れてしまうこともあります。その結果、限られた担当者だけが使う状態になり、当初期待していた「データ活用の民主化」には至らないことも少なくありません。

このような状況で起きているのは、単にツールの操作が難しいという問題だけではないように思えます。むしろ、「何を判断するために、どのデータから、どのようなアウトプットを用意すべきか」が十分に整理されないまま、先に可視化や分析が始まってしまうことに大きな問題があります。

データは見えるようになった。しかし、何を決めるべきかが明確でない。ここに、データ活用が進まない現場の難しさがあります。

データ活用が機能しない本当の原因とは何か

データ活用がうまく進まない原因として、「分析人材が不足している」「データが整っていない」「現場のリテラシーが足りない」といった点が挙げられます。

もちろん、これらは実際に起きている問題だと思います。ただし、それらは一側面的に見えやすい問題であって、それだけを解決できたからといって、データ活用がすぐに機能するとは限りません。

業務プロセスの構造理解が不足している

より根本的な原因は、自社のビジネスや業務プロセスを構造的に捉えられていないことにあります。

現場の担当者は当然、自分の業務内容をよく把握しています。生産現場であれば工程上の注意点、マーケティングであれば施策ごとの反応、営業であれば顧客対応の感覚など、日々の実務経験から得られた知見を持っています。

しかし、その経験を業務プロセスとして整理し、「どこで何が起きていて、どこを変えれば成果につながるのか」という形で表現できているかというと、おそらく多くの場合において表現しきれていないのが実態ではないでしょうか。

KPIと業務が紐づいていない

業務を構造化できていないと、KPIも十分に機能しません。生産現場での歩留まり、マーケティングにおける問合せ件数、営業が担う売上や利益などの指標を置いたとしても、それがどの業務活動と結びついているのかが曖昧なことがよくあります。

このままでは、数字を見ても具体的な改善につながりません。重要なのはKPIを見える化することではなく、「この指標を動かすために、どの業務を、どの程度変えられるのか」が分かるようにすることなのです。

問題設定が曖昧なまま分析が行われている

この前提がないまま分析を行うと、結果が出ても意思決定にはつながりにくくなります。例えば、売上が下がっていることが分かっても、それが顧客接点の不足によるものなのか、提案内容の問題なのか、価格の問題なのか、既存顧客の離反なのかによって、取るべきアクションは異なります。

分析結果は「状況を説明する材料」にはなりますが、業務の構造と結びついていなければ、「では何を変えるのか」という問いには答えられません。

つまりデータ活用の失敗は、分析そのものの失敗というよりも、分析前の問題設定の不足から生じていることが多いということです。

「ビジネスは分かっているが、分析は分からない」という認識から、まずツールやデータ収集に向かうケースもあります。しかし実際には、ビジネスを分かっている人ほど、分析の前段階である問題設定に関与する必要があります。

データ活用は、分析担当者だけの仕事ではなく、業務を知る人が自分の仕事を捉え直すプロセスでもあるということを認識しなければなりません。

データ活用において重要な業務理解と問題設定

データ分析という言葉を聞くと、集計、可視化、予測モデル、AI活用といった作業を思い浮かべる方も多いかもしれません。もちろん、それらはデータ分析の重要な要素です。ただし、実務で成果につながる分析を行うためには、その前に「何を明らかにしたいのか」「何を決めたいのか」を明文化する必要があります。

例えば、製造現場であれば「不良率を下げたい」のか、「停止時間を減らしたい」のか、「作業負荷の偏りを減らしたい」のかによって、必要なデータや分析アプローチが異なります。

営業活動を改善したい場合でも、「受注率を上げたい」のか、「商談化率を上げたい」のか、「既存顧客の継続率を高めたい」のかによって、さまざまな分析アウトプットを出す余地があります。同じ“分析”でも、問いが変わればアウトプットも変わるということです。

この問いを立てるためには、業務を一定の抽象度で捉えることがポイントになってきます。日々の作業をただ経験として語るのではなく、業務の流れ、関係者、判断ポイント、制約条件、KPIとの関係を整理していく必要があります。少し言い換えると、分析とはデータを扱う作業であると同時に、自分たちの仕事を見直しながら抽象化して整理する作業でもあります。

分析を通じて業務の解像度を上げることがポイントに

ここで重要なのは、AIや分析ツールの導入や可視化を否定することではありません。むしろ、AIや分析ツールは仮説の整理や肉付け、基礎データの集計補助、分析観点の洗い出しなどに対して非常に有効な武器になります。

ただし、「AIに何を聞くのか」「分析ツールで何を分析するのか」「出た結果をどの業務文脈で解釈するのか」など、最終的にアクションを選ぶのは人です。AIや分析ツールが便利になるほど、人が考えるべき領域は消えるのではなく、むしろ明確になります。

データ活用において大切なのは、分析を通じて業務の解像度を上げていくことです。どの業務がボトルネックになっているのか。どの指標を改善すれば、どの成果につながるのか。それを判断するために今足りない情報は何か。こうした問いを持ちながらデータを見ることで、分析は単なるレポート作成ではなく、意思決定のためのプロセスにすることができるのです。

分析を業務に組み込むための環境とツールの条件

データ活用を現場に定着させるためには、考え方だけでなく、日常業務の中で使える環境も必要になります。どれだけ重要性を理解していても、データを取り出すのに時間がかかる、加工に手間がかかる、必要な粒度で見られないといった状態では、継続的な活用は難しくなるでしょう。

この点を考慮できないと、数回の実験(PoC)での成功は得られても、長期的に継続して売上を伸ばしていくような持続力は得られないのです。

学習コストが低く、現場で使い続けられること

そこでまず重要なのは、学習コストが過度に高くないことです。多機能なツールは魅力的に見えますが、現場で使い続けるには、必ずしも機能が多ければよいわけではありません。高度な分析機能を使いこなせる人であれば、RやPythonなどを使って柔軟に分析する選択肢もあります。

一方で、組織として広くデータ活用を進める場合には、必要な操作が分かりやすく、日々の業務の中で無理なく使えるという点が重要です。

業務との親和性が高いこと

次に、既存の業務やシステムとの親和性も欠かせません。現場の担当者は、既に多くの業務システムや帳票、Excelファイルを使いながら仕事をしています。新しい分析環境が、これらの業務の流れから大きく離れていると、活用は定着しにくくなります。

逆に、普段見ているデータや業務フローに近い形で分析できれば、データ活用は特別な取り組みではなく、日常業務の一部として組み込みやすくなります。

意思決定に必要な粒度でデータが取得できること

さらに重要なのは、意思決定に必要な粒度でアウトプットが得られることです。経営層が見るべき粒度、部門長が見るべき粒度、現場担当者が見るべき粒度はそれぞれ異なります。企業全体の売上推移を見るだけでは、現場の改善にはつながらないことがあります。

一方で、あまりに細かいデータだけを見ても、全体の判断はできません。誰が、何を決めるために、どの粒度の情報を必要としているのかを整理した上で、必要な形でデータを取り出せることが求められるのです。

また、試行錯誤のしやすさも欠かすことができない重要なポイントです。データ分析では、最初から正しい答えにたどり着けることは、まずありません。仮説を立て、データを見て、違和感を確認しながら、別の切り口で分析を見直す。その繰り返しによって、業務理解を深めることで、データが持つ真の意味が分かっていきます。

トライ&エラーを進めるには、データ取得や加工のたびに大きな負荷がかかる環境ではなく、必要なデータに素早くアクセスし、検証を繰り返せる環境が必要というわけです。

データを中心とした基盤整備がもたらす価値

ここまで見てきたように、データ活用を実務に根づかせるには業務理解や問題設定が重要です。ただし、それを人の努力だけに依存してしまうと、継続的な活用には限界があります。業務を理解し、問いを立て、分析し、意思決定につなげるためには、その前提となるデータ活用基盤が整っている必要があります。

データが部門やシステムごとに分断されていることは、決して珍しくありません。生産管理、在庫管理、販売管理、顧客管理、会計、Webログ、Excel帳票など、必要なデータは存在していても、それぞれが別々の場所にあり、形式も粒度も異なるものです。このような状態では、分析を始めるたびにデータ収集や加工に時間がかかり、本来考えるべき業務課題や意思決定に十分な時間を使えません。

また、データの定義が部門ごとに異なることもあります。同じ「売上」や「顧客」という言葉でも、集計対象やタイミング、含まれる範囲が異なれば、部門間で数字が合わなくなります。そのため、分析結果を見ても「どの数字が正しいのか」という議論と確認に時間を取られ、具体的なアクションにまで進みにくくなります。

したがって、分析環境の導入と合わせて、データを中心に業務やシステムをつなぐ基盤整備が重要になります。データを集約し、品質を整え、必要な人が必要な形で利用できるようにすることで、分析の準備にかかる負荷を減らし、業務改善や意思決定に向けた試行錯誤を進めやすくなります。

データセントリックな基盤整備を進めてデータを活用しよう

こうした考え方を実現するアプローチの一つが、データセントリックな基盤整備です。例えば、三菱電機デジタルイノベーションの「データセントリックソリューション」は、企業のさまざまな部門や場所に散在するデータを集約し、データの生成から統合、連携、分析、活用までを効果的に実現するためのデータ活用基盤として提供されています。

同ソリューションでは、データ連携・統合、データ統合ハブ、データ品質管理、データカタログ、データ分析などの領域を組み合わせ、企業のデータ活用を支援します。

具体的には、部門ごとに分かれたシステムを連携しやすくする、データ品質を高める、データ資産を探しやすくする、大容量データを高速に検索・集計できるようにする、といった支援が想定されます。

ただ重要なのは、これらを単なる技術要素として捉えないことです。データ基盤は分析担当者だけのためのものではありません。業務を知る人がデータを見ながら考え、現場の課題を捉え直し、意思決定につなげるための土台という位置づけで捉えられるべきです。

AIや分析ツールを活用する場合でも、入力するデータの品質や意味づけが曖昧であれば、得られる示唆の信頼性は高まりません。AI時代であっても、あるいはAI時代だからこそ、データそのものの価値を中心に整え、活用できる環境を構築することが重要になります。そしてそれこそが、自社ならではの独自資産として業務に活きてくるのです。

まとめ

データ分析はAIやツールの進化によって、以前よりもさらに身近なものになりました。しかし、分析ができることと、分析結果を意思決定や業務改善に活かせることの間には、いまだ大きなギャップがあります。データ活用が機能するためには、業務を構造的に捉え、何を判断するためにどのデータを見て分析していくのかを明確にする必要があります。

また、データ活用を現場に定着させるには、担当者の努力だけでなく、継続的に使える環境や基盤が欠かせません。データが分断され、定義が揃わず、必要な情報を得るまでに大きな手間がかかる状態では、どれだけ優れた分析ツールやAIがあっても、実務での活用は難しくなってしまいます。

これからのデータ活用に求められるのは、人が業務を理解し、問題を設定し、データ分析をもとに考える力と、それを支えるデータ基盤といった多角的な要素です。データを中心に統合・活用できる環境を整えることは、単に分析を効率化するだけではなく、組織がより良い意思決定を行うための土台づくりになります。

AI時代においても、人が考える分析の重要性は変わりません。その価値を最大限に引き出すためにも、データを使える状態に整え、業務の中で活かし続ける仕組みをつくることが、企業のデータ活用を次の段階へ進める鍵となるのではないでしょうか。


著者プロフィール

片所 強

データサイエンティスト

片所 強 片所 強

国内製造メーカーにて、データサイエンス室の室長を務める。データ分析系ベンチャー、外資系コンサルファームで培ったデータ分析実務とコンサルティング力を活かし、企画・分析・自己組織化に向けたチームビルドを一貫して提供。主にマーケティングとセールスをつなぐデータ活用の領域で強みを持つ。現職においてその活動成果が認められ特別功労賞を受賞、また過去に特許取得の実績も有する。「いい仕事をデザインする」という独自の哲学で、現職以外の副業でも活躍中。


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