おすすめのビジネス&スキルアップコラム
2026年9月11日
2026年10月にビール類の酒税が一本化。税制改正に向けて酒販店が備えるべき施策とは
経営・マネジメント
酒類流通
税制改正
2026年10月の税制改正により、ビール・発泡酒・第三のビールの酒税が一本化されます。2017年から段階的に改正が進められる中で、第三のビールの割安感を軸にした品揃えや販促戦略に取り組んでいた酒販店にとっては、価格競争の仕組みが大きく変わる転換点となります。
本コラムでは、ビール類の酒税の歴史を振り返りながら、税制改正後に予想される顧客ニーズの変化、酒販店が取り組むべき施策のポイントを専門家が解説します。
目次
ビール類の酒税は3種類
酒税法上の区分により、ビール類は税率が分かれています。
2026年10月には税率が改正され、ビール類の酒税が1klあたり15万5,000円(350ml換算で54.25円)に一本化されます。
改正後は、酒販の現場でさまざまな影響が生じるでしょう。まずは、ビール類の定義と税率の歴史を振り返って解説します。
| 区分 | 定義 |
|---|---|
| ビール | 麦芽比率50%以上。ホップ・水・麦芽・副原料(米・コーンなど、麦芽重量の5%以内)で製造したもの |
| 発泡酒 | 麦芽比率50%未満。またはビールの副原料以外の原料を使用したもの。※麦芽比率によって税率が異なる区分が設けられている |
| 第三のビール(新ジャンル) | 【1】麦芽やホップなどを原料にした発泡酒に麦由来のスピリッツ(蒸留酒)を混ぜたもの 【2】麦・麦芽を原料とせず、大豆やえんどう豆、コーンなどの穀類や糖類を原料としたもの |
※「第三のビール」「新ジャンル」は通称であり、酒税法上の正式な区分名称ではありません。
1990年代に発泡酒が登場
1990年代前半、いわゆる“バブル”が弾けたことにより「デフレ経済への突入」「ディスカウント店の台頭」「消費者の節約志向」といった言葉がメディアに取り上げられました。
消費者の節約志向が強まる中で、ビールメーカー各社は安価なビール飲料の開発に取り組みます。
節約志向が生んだ新カテゴリー
1998年から酒類販売免許が緩和され、スーパーやディスカウント店など酒類を取り扱う店舗が急速に増加します。
価格競争が激化し、バブル崩壊による節約志向が高まる中、ビールメーカーは「麦芽比率を下げることで発泡酒の税率区分が適用される」という酒税法の構造に着目し、発泡酒を開発しました。
発泡酒は「ビールよりも手頃な価格で楽しめる」と消費者から好評を得て、ビールと並ぶ選択肢として定着していきます。
発泡酒の急速な普及への対策
当時は景気低迷により税収全体が減少しており、酒税収入の確保も政策課題となっていました。発泡酒への需要シフトによってビールの販売数量が減少し、国は税収減に直面します。そこで、1996年と2003年に税率が引き上げられました。
メーカーは価格競争の突破口を塞がれることになり、次の手段を模索します。
「第三のビール」の誕生
発泡酒への課税強化が段階的に進む中、メーカーは新たな商品開発に着手し、「第三のビール」の販売に踏み切ります。
新ジャンルの商品が大ヒット
メーカーは「原料の変更」と「酒類の組み合わせ」という2つのアプローチにより、新商品を開発しました。
主な原料を大豆・えんどう豆・米・トウモロコシなどに変えた「その他醸造酒」や、発泡酒にスピリッツを加える製法で開発した「リキュール」は、ビールや発泡酒と異なる税率区分となります。
酒販店の方々も、消費者からビールや発泡酒との違いについて多く質問されたのではないでしょうか。大胆な発想の転換により登場した新商品は大ヒットし、市場に定着しました。
2026年10月の“税率一本化”により酒税は転換期に
2017年に決定した酒税法改正により、ビール類の税率は2026年10月までに段階的に変更されます。
| 区分 | 税率(350ml換算) |
|---|---|
| ビール | 77円 → 70円 → 63.35円 → 54.25円 |
| 発泡酒(麦芽比率25~50%未満) | 62.34円 → 58.49円 → 54.25円 |
| 発泡酒(麦芽比率25%未満/リキュール系を含む) | 46.99円 → 54.25円 |
| 第三のビール(新ジャンル) | 28円 → 37.8円 → 46.99円 → 54.25円 |
※酒税が一本化されても、原材料費や物流費、メーカーの価格戦略によって店頭価格が完全に同一になるわけではありません。実際の販売価格には一定の差が残る可能性があります。
手持品課税(戻税)に留意
酒税は本来、製造業者が納税します。これまで実施された税率改正時には、販売店が保有する在庫にも税率変更の影響が及ぶ「手持品課税(戻税)」という制度があり、税率変更時に対応する必要がありました。
過去の例を参考にすると、2026年10月1日0時時点で、対象となる酒類を合計1800l以上保有している場合、在庫の税差額を調整する必要が生じる可能性があります。
具体的には、増税品目(一部の発泡酒や第三のビール)を一定量以上保有している場合は追加課税(手持品課税)が生じ、減税品目(ビール)を一定量以上保有している場合は税金が還付(戻税)されることが考えられます。
※2026年6月時点では確定していません。国税庁のホームページで最新情報を確認してください。
税制改正におけるメーカーの動き
過去の税制改正時と同様に、メーカーに新たな動きが出ています。酒販店もJANコード・棚割・POPなど、実務的な影響を受けるでしょう。
第三のビールの“ビール化”
2026年10月の税制改正を待たずに、メーカーは商品戦略の転換に着手しました。大手メーカーは「第三のビールを、ビールとして再定義・リニューアルする」という方針です。価格訴求から品質訴求へのブランド転換が進むと考えられます。
税制改正による酒販店への影響
酒販店では、商品内容の変更によってJANコードが変わった場合、POSデータや発注システムの登録変更が必要です。商品分類の変更に合わせて棚割の見直しも検討事項となるでしょう。売場やPOPの表示を見直す作業も発生します。
また、商品の販売動向が変わることで、仕入先との取引条件や発注単位の見直しを求められる可能性があります。
価格差の縮小により消費者心理が「品質志向」へ
これまで、消費者がビール飲料を選ぶ際には「懐に余裕がある際にはビール」「節約する時には第三のビール」という心理が少なからず働いていたのではないでしょうか。
しかし、今回の税制改正により「同じ価格帯ならビールを選びたい」という消費者心理の変化が起きることが考えられます。
酒販店は、税制改正を「価格重視から品質重視への転換点」として捉え、いち早く品揃えを見直すことで、ライバル店との差別化を図ることができます。
例えば、RTD(Ready to Drink)市場への影響も考慮すべきポイントです。ビール類の価格帯が全体的に上昇することで、消費者は缶チューハイやカクテル、ハイボールといった比較的安価な商品に流れる可能性があります。
ただし、チューハイ類も2026年10月の税制改正による増税対象です。350ml換算で28円から35円に引き上げられるため、売上予測は難しくなります。
酒販店が手を打つべき3つの対策
ここからは、今回の税制改正を好機とするために欠かせない「品揃えの見直し」「価格政策の再設計」「顧客対応・情報提供」について解説します。
【1】品揃えの見直し
第三のビールが陳列されている棚の転換を検討しましょう。ビール類の価格差が縮まり、消費者は価格以外の要素でも商品を選択すると考えられます。例えば、プレミアムビール・クラフトビール・輸入ビールを特徴づける「味」「産地」「ストーリー」は、商品の魅力を訴求する要素です。
また、第三のビールの扱い方については段階的な見直しが必要です。陳列スペースを急に減らすのではなく、売上データを見ながら徐々に縮小・転換することがポイントです。売れ行き好調な商品は、動向を把握しながら対応する必要があります。売場全体での利幅の計算を改めて実施し、品揃えの最適化を検討しましょう。
【2】価格施策の再設計
「第三のビールは安い」という訴求の変更が必要となり、価格施策と販促企画の再設計が必要です。
まずは、商品ごとの粗利率の再計算を行いましょう。税率変更後の仕入価格・販売価格・酒税を整理し直すと、「第三のビールは利幅が取りやすい」と思っていた前提が大きく変わる可能性があります。増税により仕入価格が上がる商品については、今後の売価設定を早めに検討しましょう。
また、手持品課税への備えも必要です。増税品目の在庫を抱えすぎると追加課税が発生する可能性があります。税制改正に向けて、在庫水準を意識した仕入計画を早めに立て、過剰在庫を抱えないように注意して発注業務を行いましょう。
そして、販売先への価格転嫁については事前協議が必要です。突然の価格変更は取引における信頼関係を損ねかねません。早めの情報共有が信頼維持の基本と考え、早めに着手することが重要です。
【3】顧客対応・情報提供
税制改正における価格への影響について、顧客への丁寧な説明と提案が必要です。
例えば「第三のビールは安い」という理由で購入し続けてきた常連客は、2026年10月以降の値上げに疑問を抱く可能性があります。税制改正前から変更点を周知することで、信頼を維持しましょう。税制改正の内容や価格変動の背景をSNSなどで発信することも有効です。
また、価格の変化は「新規提案の機会」にもなります。接客時に「商品の価格が近いので、こちらの商品はいかがですか」といったコミュニケーションにより、付加価値の高い商品を提案できる好機になります。
今回の税制改正において、酒販店は従来の価格重視から「味や好み」で選ぶ購買行動を後押しする役割を担います。試飲企画や推奨商品のPOP刷新、提案型の売場づくりといった施策を通じて、顧客との関係を深めましょう。
変化の時代こそ「販売管理」が重要に
「売れている」「売れていない」という感覚は、長年の経験から自然と身につくもので、円滑な業務を行う上で欠かせません。しかし、今回の税制改正は「商品の価格」「商品の位置づけ」「消費者の選択基準」が同時に変わる、これまでにない局面です。
各メーカーは、商品のリニューアルや新商品の投入を加速させることは間違いありません。消費者の購買行動も変化する中で、データ分析により施策の精度向上やスピーディな意思決定を促す仕組みを持つことが、今後の酒販店経営を左右します。
酒販店が把握すべき管理項目
酒販店が税率改正以降に把握すべき主な管理項目は、以下の4点が考えられます。
【1】売れ行きの変化を把握する
税率改正後、ビール類の販売数量を商品別・時系列で把握することが必要です。データで正確な数字を確認することで、仕入の見直しや棚割変更といった施策の精度が上がります。
【2】在庫の適正水準を維持する
手持品課税に対応するために、在庫データを管理し活用しましょう。2026年10月の税制改正を見据え、増税となる品目の動向をリアルタイムで把握することがポイントです。
【3】価格改定後の利益率を把握する
税率改正後、商品ごとの粗利率の変化を随時確認し、仕入計画に反映できる体制を整える必要があります。商品・カテゴリーごとの利益管理が重要です。
【4】酒類流通特有の複雑さに対応する
多品目・多取引先・酒税区分・空瓶管理など、酒販店の業務は一般的な小売業よりも複雑です。こうした複雑な業務に対応した管理体制が必要です。
変化の速い市場に対応するためには、酒販業務に対応した効率的な販売管理システムが有用です。
酒類流通に特化した販売管理システム『酒快Do』『酒Do楽』
酒販店の業務に特化したシステムとして、酒販のスペシャリストが開発した販売管理システム『酒快Do』『酒Do楽』があります。
大規模事業者向けの『酒快Do』と小規模事業者向けの『酒Do楽』は、酒類流通特有の複雑な業務に対応した設計が特長です。税制改正後の2026年10月以降に想定される「売れ行きの変化の把握」「在庫の適正水準の管理」「価格改定後の利益率の把握」といった、酒販店の経営課題にも対応できます。
クラウド版の提供により柔軟に利用でき、24時間365日対応のコールセンターによるサポートがあるため安心して運用可能です。
まとめ:2026年10月の税制改正は“攻めの経営”への転換点
発泡酒の誕生から30年以上、ビールメーカーや酒販店は「税率による価格差の競争」を前提として動いてきました。消費者は税率の差が生んだ価格差を基準に商品を選び、メーカーはその税率の隙間を突きながら新商品を開発し、酒販店は数々の変化に対応しながら売場をつくり続けてきました。
2026年10月の税制改正により、30年以上続いてきた「安さで選ぶ」時代から「味や好みで選ぶ」時代への移行が始まります。購買行動の大きな変化は、長年培ってきた品揃えや販売促進の常識が通用しなくなる「脅威」とも捉えられますが、安さで選ばれる店から、信頼と提案で選ばれる店へと転換する絶好の機会です。
販売管理システムを活用し、販売データに基づいて迅速に経営判断を行うことは、競合他社の先手を打ち、酒販店経営を前進させるポイントです。今こそ「変化を先読みして、先に動く」姿勢で取り組みましょう。
著者プロフィール
渡貫 久
株式会社ユーミックプロデュース 代表
中小企業診断士として、経営全般の相談や中長期経営計画の策定支援を専門に経営支援を行う。食料品小売業の経験が長いことから、食品系のマーケティング・販売促進・販路開拓・商品開発が得意分野。2006年から現在まで、公的機関や大学、民間企業において「マーチャンダイジング」「情報化」「ビジネスプラン作成」「商圏分析」「営業管理者研修」などの研修講師を務めている。