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2026年10月20日

属人化から業務改善へ。
中堅・中小企業のものづくり現場における在庫管理戦略

経営・マネジメント 製造業 経営戦略 属人化 中堅・中小企業のものづくり現場では、在庫管理が棚卸中心の運用にとどまり、日々の在庫状況まで十分に把握できていないケースがあります。長年の慣習や属人化、人手不足を背景に、「必要性は分かっているが、何から始めればよいか分からない」と悩む企業も少なくないのではないでしょうか。

在庫管理は、単に在庫数を確認するための業務ではありません。在庫データを蓄積・分析することで、原価管理や生産計画、需要予測、経営判断にも役立つ重要な情報資産になります。

本コラムでは、中堅・中小企業のものづくり現場が抱える在庫管理の課題を整理し、改善の進め方や経営戦略への活用方法を紹介します。

目次

在庫管理が経営課題になっている理由

中堅・中小企業の製造現場では、在庫管理が棚卸中心の運用にとどまっているケースがあります。棚卸は重要な業務ですが、それだけでは日々の在庫変動や需要の傾向、滞留在庫の状況までは把握しきれません。

在庫管理が十分に行われていないと、欠品や過剰在庫、出荷遅延、棚卸差異などの問題が発生しやすくなります。さらに、在庫は倉庫スペースや保管コストを必要とし、資金の固定化を通じて企業の利益にも影響します。

在庫管理が経営課題になっている理由

棚卸中心の管理では見えない課題

棚卸は、ある時点の在庫数を確認するために欠かせない業務です。しかし、棚卸だけでは「在庫がなぜ増えたのか」「いつ減ったのか」「どの製品が滞留しているのか」といった日々の動きまでは把握しにくいものです。

特に中堅・中小企業では、過剰在庫によって資金繰りが悪化したり、必要な設備投資や人材採用に資金を回しにくくなったりすることもあります。そのため、在庫管理は現場の作業効率だけでなく、経営課題として捉える必要があります。

属人化と人手不足が生むリスク

在庫管理の現場では、担当者が紙に数量を書き込みながら在庫を数える方法が残っている場合もあります。保管場所や製品名称についても社内独自の呼び方が使われ、長年担当している人でなければ理解しにくいケースも少なくありません。

こうした状態では、担当者の経験や記憶に業務が依存しやすくなります。担当者が休職、退職、異動した際に十分な引き継ぎができず、在庫確認や出荷対応に支障が出る可能性もあります。

人手不足が深刻化する中、属人化した在庫管理は、欠品や過剰在庫、棚卸差異、出荷遅延を招く要因になります。

在庫データで見える化できること

在庫データを継続的に管理できるようになると、次のような情報が見えてきます。

見える化できる情報

想定される課題

改善につながる判断

毎年在庫が増えている製品

過剰生産、販売不振

生産量の見直し、販促強化

数年間出荷実績のない製品

滞留在庫、保管コスト増

値引き販売、廃棄、別販路での販売

急激に在庫が減っている製品

需要増、欠品リスク

材料確保、生産量の調整

原価が上がっている製品

利益率の低下

販売価格や仕入条件の見直し

出荷頻度の高い製品

主力製品の可能性

生産計画、在庫水準の最適化

このように、在庫データは単なる数量確認にとどまらず、販売、生産、仕入、資金繰りを見直す手がかりになります。

在庫は、数量を数えるだけの対象ではありません。利益や資金繰りに影響する経営資源でもあります。在庫の動きを正しく把握することで、販売戦略、生産計画、仕入計画、設備投資、資金繰りといった経営判断にも役立てられます。

棚卸と在庫管理の違い

在庫管理を見直すには、まず棚卸との違いを整理しておく必要があります。

棚卸は「ある時点の在庫」を確認する作業

棚卸は、ある時点で自社に存在する在庫を実際に数え、帳簿上の在庫数と一致しているかを確認する作業です。決算や原価計算の基礎となる重要な業務でもあります。

在庫管理は「日々の在庫の動き」を管理する活動

一方、在庫管理は、仕入、生産、出荷、廃棄など、日々の在庫の動きを記録・把握し、適正在庫を維持するための管理活動を指します。

棚卸が「ある時点の在庫を確認する作業」だとすれば、在庫管理は「在庫の動きを継続的に把握する活動」といえます。

項目

棚卸

在庫管理

目的

ある時点の在庫数を確認する

日々の在庫の動きを把握する

主なタイミング

決算時、四半期、月末など

仕入れ、生産、出荷、廃棄の都度

分かること

現在の在庫数、帳簿との差異

在庫の増減、滞留、欠品リスク

活用範囲

決算、原価計算

生産計画、仕入計画、経営判断

適正在庫を維持するために必要な視点

在庫管理の目的は、必要な製品・部品を必要なタイミングで供給できる状態を保ちながら、過剰在庫を抑えることです。適正在庫を維持するためには、過去の実績だけでなく、現在の需要や今後の見通しも踏まえて判断する必要があります。

製造現場では、「毎年この時期にはこの製品をこのくらい生産する」といった経験則が積み重なり、業務がルーティン化しているケースがあります。もちろん、その方法によって長年安定した運営を実現してきた企業も少なくありません。

しかし、市場環境や顧客ニーズは常に変化しています。過去の実績だけを基準にしていると、需要の変化に対応できず、欠品や過剰在庫を招くおそれがあります。

経験に基づく判断を否定するのではなく、データと組み合わせることで、より精度の高い在庫管理につなげることが重要です。

在庫データを経営戦略に活かす視点

在庫管理で蓄積したデータは、現場の業務改善だけでなく、経営判断にも役立ちます。出荷が伸びている製品、滞留している製品、利益を圧迫している在庫を把握できれば、生産計画や販売戦略、価格設定の見直しにつなげられます。

決算書だけでは見えない現場の実態を把握する

決算書には、期首棚卸額や期末棚卸額、売上高、仕入額などが記載されており、会社全体の状況を把握できます。しかし、決算書だけでは、「どの製品が滞留しているのか」「どの製品が不足しているのか」「なぜ在庫が増えているのか」といった具体的な状況までは分かりません。

決算書が会社全体の状態を示す資料なら、在庫データは現場の動きを映す記録です。両方を組み合わせることで、在庫が増えている背景や、利益を圧迫している要因をより具体的に把握できるようになります。

経営判断に活かす主な視点

在庫データを経営判断に活かす際には、次のような視点が重要です。

視点

確認する内容

活用例

在庫回転率

一定期間に在庫がどれだけ入れ替わったか

滞留在庫や欠品リスクの把握

滞留在庫

長期間動いていない在庫がないか

値引き販売、廃棄、別販路での販売

原価

材料費や輸送費、保管費が上がっていないか

販売価格や仕入条件の見直し

需要の変化

出荷量や受注傾向に変化がないか

生産量、仕入量、人員配置の調整

在庫水準

欠品や過剰在庫が発生していないか

適正在庫の見直し

在庫回転率を見る

在庫回転率とは、一定期間に在庫がどれだけ入れ替わったかを示す指標です。回転率が低い場合は、製品が出荷されずに滞留している可能性があります。反対に、回転率が高すぎる場合は、需要に対して在庫が不足しやすく、欠品や納期遅延につながるおそれがあります。

滞留在庫を見極める

滞留在庫にも注意が必要です。中には、数年にわたり出荷実績のない製品が倉庫に残っているケースもあります。滞留在庫は保管スペースを占有するだけでなく、管理コストの増加や品質劣化、廃棄リスクにもつながります。

ただし、長く動いていない在庫であっても、必ずしも全てが不要とは限りません。近年では、ネットショップやSNSを活用し、廃番品やレトロ商品として新たな価値を見出す企業もあります。

まずは在庫を正しく把握し、「処分すべき在庫」「販売方法を見直す在庫」「今後も保管すべき在庫」を切り分けることが重要です。

原価と販売価格を見直す

原価と販売価格の見直しにも、在庫データは役立ちます。輸送費や仕入費、燃料代、人件費などのコストは常に変動しています。

以前は原価400円の製品を500円で販売して利益を確保できていたとしても、原材料費や輸送費の上昇により、現在では原価が500円近くまで上がっているケースもあります。販売価格を見直さなければ、気付かないうちに利益が失われているかもしれません。

もちろん、取引先との長年の関係や地域貢献など、利益だけでは判断できない場面もあります。だからこそ、「利益が出ているのか」「赤字なのか」を把握したうえで判断することが重要です。

需要予測や設備投資の判断材料にする

在庫データを継続的に蓄積すれば、将来の在庫推移や需要の変化を予測する材料にもなります。今後欠品が予測される場合には、材料の確保、生産量の増加、生産ラインの調整、人員配置の見直しなどを事前に検討できます。

過剰在庫が見込まれる場合は、生産量の調整、販売キャンペーンの実施、既存在庫の優先販売、仕入れ量の見直しといった対応を検討できます。

需要増加が見込まれる場合には、設備投資や生産ラインの増強を検討する材料にもなるでしょう。

在庫管理改善の進め方

在庫管理の改善は、一度で完成するものではありません。最初から全ての在庫を正確に管理しようとすると、現場の負担が大きくなり、かえって運用が定着しにくくなります。

まずは保管場所の整理や在庫の見える化など、着手しやすい範囲から進めるとよいでしょう。そのうえで、現場の負担と効果のバランスを見ながら、段階的に管理精度を高めていきます。

在庫管理改善の5ステップ

ステップ

取り組むこと

ポイント

1

保管場所を整理する

エリア番号、棚番号を付ける

2

在庫を見える化する

表計算ソフトなどで電子データ化する

3

入出庫を記録する

誰が、いつ、何を入力するか決める

4

原価や構成を整理する

材料費、外注費、間接費を把握する

5

システム化を検討する

属人化を防ぎ、標準化する

ステップ1:保管場所を整理する

まず取り組みたいのが、保管場所の整理です。在庫の所在が分からなければ、数量を正しく把握することも、出荷や棚卸を効率化することも難しくなります。倉庫や在庫室、製造室、店舗などにエリア番号や棚番号を付け、どこに何があるのかを把握しやすい状態にします。

製品数が数百、数千に及ぶ場合は、最初から細かく分類する必要はありません。まずは「本社」「店舗」「在庫室」「製造室」「1階」「2階」といった大きな区分から整理し、必要に応じて棚番号や箱番号を追加していく方法も有効です。

ステップ2:在庫を見える化する

次に、在庫の見える化に取り組みます。在庫管理の対象は、原材料、部品、半製品、中間在庫、完成在庫、消耗品など多岐にわたります。ただし、最初から全てを管理しようとすると、入力作業や確認作業の負担が大きくなります。

初期段階では、完成在庫から着手する方法もあります。完成在庫は出荷や売上との関係が分かりやすく、在庫管理の効果を実感しやすいためです。まずは表計算ソフトなどを活用し、手書きではなく電子データで管理するところから始めるとよいでしょう。

ステップ3:入出庫の記録ルールを決める

在庫管理で課題になりやすいのが、製造実績をタイムリーに在庫データへ反映することです。完成品ができ上がると同時に梱包・発送へ進む現場では、その場で在庫情報を登録することが難しい場合もあります。

そのような場合は、出荷伝票や製造記録をもとに、後から入力する方法でも構いません。最初からリアルタイム反映を目指すのではなく、まずは継続的にデータを整備する習慣を定着させることが大切です。

また、「製造部が入力すべきか」「管理部門が担当すべきか」といった運用ルールが課題になることもあります。入力担当者が曖昧なままだと、記録漏れや二重入力が発生しやすくなります。誰が、いつ、どの情報を入力するのかを明確にし、無理なく続けられる運用体制を整えることが重要です。

ステップ4:製品構成と原価を整理する

製品が複数の部品や半製品で構成されている場合は、構成管理も欠かせません。どの製品に、どの部品や材料が、どれだけ使われているのかを把握できなければ、正確な在庫管理や原価計算は難しくなります。

原価を把握する際は、材料費、原料費、仕入費、外注費、資材費だけでなく、人件費、賃料、リース費、光熱費などの共通間接費も考慮する必要があります。最初から全ての費用を正確に反映することは容易ではないため、まずは仕入費や材料費など、把握しやすい項目から数値化を進めるとよいでしょう。

ステップ5:システム化で標準化する

製品や部品のマスタデータが整備されると、保管場所、仕入数、製造数、出荷数、在庫数、原価などの情報を把握しやすくなります。代替部品を多く扱う現場や、製品構成が複雑な現場では、人の記憶や手作業だけで管理し続けることが難しくなる場合もあります。

その場合は、在庫管理システムの活用も有効です。可能であれば、出荷伝票や販売管理システム、レジデータなど、既存システムの情報と連携し、入力負担を抑えながら効率的に運用できる仕組みを整備するとよいでしょう。

システム化の目的は、単にツールを導入することではありません。在庫情報の入力ルールや管理方法を標準化し、特定の担当者に依存しない状態をつくることにあります。

在庫管理データの活用事例

在庫管理によって蓄積されたデータは、現場の効率化だけでなく、経営戦略にも活用できます。ここでは、生産計画や物流計画の見直し、販売チャネルの拡大、滞留在庫の活用など、具体例を紹介します。

在庫管理データの主な活用領域

活用領域

活用方法

期待できる効果

生産計画

需要や在庫量に応じて生産量を調整

欠品・過剰生産の防止

仕入計画

使用量や出荷傾向をもとに発注量を調整

資金の固定化を抑制

原価管理

材料費や保管費を反映して利益を把握

価格改定や製品見直しに活用

販売戦略

滞留在庫を別販路やセット販売に活用

新たな収益機会の創出

人員計画

繁忙期・閑散期を予測

現場負荷の平準化

製造業における生産計画への活用例

製造業では、在庫データの精度が向上すると、生産計画や物流計画の最適化にも活用できます。例えば、在庫数や受注状況、納期、出荷予定などを把握できていれば、次のような判断がしやすくなります。

  • 納期が近い製品を優先的に出荷する
  • 在庫状況に応じて生産量を調整する
  • 不足が見込まれる部品を早めに手配する
  • 必要に応じて代替部品へ切り替える
  • 出荷タイミングを調整し、物流効率を高める

これにより、欠品や納期遅延を防ぎやすくなるだけでなく、過剰生産や無駄な出荷を抑えることにもつながります。需要や在庫状況を踏まえた生産計画、物流計画、仕入計画の見直しにも役立ちます。

余剰在庫や滞留在庫の活用例

余剰在庫や滞留在庫の活用にも、在庫データは役立ちます。主力製品のほか、セット販売用に準備していた商品や販促用に確保していた在庫が余っている場合には、自治体や制度要件を確認したうえで、ふるさと納税の返礼品として活用できる可能性もあります。

ふるさと納税の返礼品は、単なる在庫処分ではありません。地域の魅力や自社製品の価値を知ってもらう機会にもなります。特に、地域性のある商品や製造工程にこだわりのある商品は、背景やストーリーを発信することで、寄附者に選ばれやすくなる可能性があります。

在庫データを活用すれば、どの製品を返礼品として展開できるのか、どの程度の数量を確保できるのか、通常販売とのバランスをどう取るのかを判断しやすくなります。

余剰在庫や滞留在庫を正しく把握し、製品開発の背景やストーリーとあわせて発信することで、新たな顧客接点や収益機会の創出につながる可能性があります。

在庫管理はIT化・業務標準化の入口にもなる

在庫管理の改善は、業務改善やIT化を進める入口にもなります。紙や手書きの管理から表計算ソフト、さらに在庫管理システムへと段階的に移行することで、現場の負担を抑えながら業務の標準化を進められます。

在庫管理を起点にIT化を進めることで、データ活用の価値を現場で実感しやすくなり、次の業務改善にも取り組みやすくなるでしょう。

まとめ

在庫管理は、在庫数を確認するだけの業務ではありません。日々の在庫データを蓄積・活用することで、原価管理や生産計画、需要予測、経営判断にも役立てられます。

また、在庫管理の仕組みづくりは、属人化の解消や業務改善、IT化・業務標準化の第一歩にもなります。

現場では日々の業務に追われ、在庫管理の見直しが後回しになることも少なくありません。しかし、在庫は自社の未来につながる重要な情報資産です。

まずは保管場所の整理や在庫の見える化など、できる範囲から一歩ずつ見直していきましょう。


著者プロフィール

越水 利恵

株式会社systemRie 代表取締役

越水 利恵 越水 利恵

広島のIT企業にて、プログラマー・システムエンジニアとして23年間勤務。
要件定義から設計・開発・導入支援・保守まで幅広く携わり、流通業向け受発注システムや在庫管理システムの開発にも従事。
2020年に株式会社systemRieを設立。現在は「ITを活用して中小企業を元気にする」をキャッチコピーに、ホームページ制作、業務改善支援、ITコンサルティングを中心に活動。企業の情報システム部門のアウトソーシングや、システム導入時の相談役としても対応している。


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