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2026年10月27日

ChatGPTで進める介護記録 ― 効率化・標準化・自動化の3段階

調剤・介護・福祉 介護 AI 介護記録の作成に時間がかかる、職員によって質がばらつく、蓄積しても十分に活用できない。こうした現場の課題を支援するのが、OpenAIが提供するChatGPTなどの生成AIです。

本記事では、その活用方法を「チャット機能による効率化」「GPTsによる標準化」「API連携による自動化・データ活用」の3段階で解説します。あわせて、現場で使えるプロンプト例や個人情報の取り扱い、AIへの過度な依存を防ぐための注意点も紹介します。

※本記事は、2026年8月25日現在の情報に基づいて作成しています。

目次

はじめに:介護記録が抱える3つの課題

介護記録は、利用者の状態を把握し、ケアの継続性と質を保ち、職員間で情報を共有するための土台です。一方で、記録そのものが現場の負担になっている場面も少なくありません。主な課題は、次の3つです。

1つ目の課題は、記録に時間がかかることです。ケアの合間に取ったメモなどを文章に整える作業には、相応の時間を要します。さらに、後回しにすると記録の具体性も失われやすくなります。

ChatGPTで進める介護記録 ― 効率化・標準化・自動化の3段階

2つ目の課題は、職員によって記録の質にばらつきがあることです。記録者によって表現や情報量が異なると、読み手に状況が正確に伝わりにくくなります。

3つ目の課題は、蓄積した記録を十分に活用できないことです。記録が保存されていても、日々の変化の把握やケアプランの見直しに結びつかなければ、その価値を活かしきれません。

ここからは、この3つの課題に対するChatGPTの活用方法を段階的に学んでいきましょう。

課題に対する3段階のアプローチ

まずは、全体像を整理します。ChatGPTのチャット機能を出発点に、GPTs、API連携へと活用範囲を広げていくことが基本的な流れです。

レベル

主に使う機能・仕組み

対応する課題

利用の主体

目指す状態

レベル1

ChatGPTのチャット機能

記録に時間がかかる

個人

文章化や要約を効率化する

レベル2

GPTs

職員ごとに質がばらつく

組織

記録の項目や表現を揃える

レベル3

API連携・介護記録システム

記録が活用されない

システム

作成・保存・分析がつながる

レベル1は個人、レベル2は組織、レベル3はシステムとして記録を改善する段階です。全てを一度に進める必要はありません。効果とリスクを確認しながら次の段階へ進むことが、現場への定着につながります。

レベル1:チャット機能で「記録に時間がかかる」を改善

レベル1で使うのは、ChatGPTのチャット機能です。観察した事実を箇条書きで入力し、介護記録に適した文章へ整える使い方から始めます。

なお、事業所の承認を得ていないアカウントやサービスには、個人情報や機密情報を入力しないように注意しましょう。

記録文の作成を支援する

例えば、「昼食7割、むせなし、食後に軽い眠気あり」と入力し、客観的で簡潔な記録文にするよう指示します。すると、「昼食は7割摂取された。むせは認められなかった。食後に軽度の眠気が見られた」といった文章案を作成できます。

職員は言い回しを一から考える負担が減り、記録の後回しも防ぎやすくなります。

AIは、入力されていない事実を正しく補うことはできません。生成した文章は下書きとし、観察事実と一致しているか、数値や時刻が変わっていないかを記録者が確認します。

要約や記録様式の変換に活用する

長い申し送りは、「重要な点を3つにまとめてください」と指示すれば、要点を把握しやすくなります。他職種との連携時には、SOAP形式(主観情報・客観情報・評価・計画)などに整理することも可能です。

SOAP形式のA(評価)やP(計画)をAIに推測させると、記録にない判断が加わるおそれがあります。情報がない項目は「記載なし」とし、推測で補わないよう明示することが重要です。

現場で使えるプロンプト例

複雑な指示は必要ありません。例えば、次のような短いプロンプトから始められます。

プロンプト:

下記のメモを、介護記録として客観的かつ簡潔に文章化してください。入力されていない内容は、推測で補わないでください。

このボリュームの指示でも、記録文の下書きを作成できます。観察した事実と一致しているかを職員自身が確認してから使用しましょう。

プロンプトをチームで共有すれば、レベル1でも記録の表現や形式をある程度統一できます。

レベル2:GPTsで「職員ごとの質のばらつき」を改善

さらに組織的な標準化を図るのが、レベル2のGPTsです。

レベル2では、記録の項目や表現ルールを設定したGPTsを用意し、職員が共通の形式で記録を作成しやすい状態を目指します。

GPTsの概要と役割

GPTsとは、用途に応じた指示や参照情報をあらかじめ設定し、特定の用途に合わせて使える機能です。毎回細かな条件を入力しなくても、設定したルールに沿って回答します。介護記録では、記録項目や表現ルールを組み込むことで、職員による書き方の違いを抑える用途に活用できます。

GPTsを利用して会話するには、ChatGPTへのサインインと、対象となるGPTへのアクセス権が必要です。作成・共有できる範囲は、契約プラン、管理者設定、役割及び権限によって異なります。組織で利用する場合は、利用できる職員や共有範囲、設定変更の権限を確認しましょう。

記録様式とルールを設計する

管理対象ワークスペースでGPTsを作成する際は、まず「何を、どこまで書くか」を決めます。食事、排泄、服薬、活動、睡眠などから、どの項目を必須とするのか、どの程度の詳しさで書くのかを明確にします。

あわせて、「観察事実と職員の判断を区別する」「一文を短くする」「入力にない内容は補わない」といったルールも必要です。例えば「機嫌が悪そうだった」とだけ記載するのではなく、「声かけに返答がなく、眉間にしわを寄せていた」など、判断の根拠となる事実の追加入力を促します。

重要なのは、AIが曖昧な入力をもっともらしい文章に置き換えることではありません。不足している情報を明らかにし、職員が観察事実を補えるようにすることです。

GPTsを構築・運用する

GPTsを構築する際は、事業所の記録マニュアルと架空の記録例を用意します。個人情報保護の観点から、実際の介護記録をそのまま知識ファイルへ登録することは避けてください。まずは少人数で試行し、文章の長さや項目の抜け漏れ、原文にない内容の追加がないかを確認しながら調整します。

GPTsは記録の点検にも活用できます。不足している観察事実を質問形式で示すことで、職員が記録を見直すきっかけになります。同じ架空事例をもとに記録例を示し、「なぜ、その情報が必要なのか」を話し合う教材として活用することも可能です。

複数人で使用する場合は、公開範囲を必要な職員に限定し、設定変更の責任者と見直し手順を決めます。GPTが外部APIやアプリと連携している場合、入力内容の一部が連携先へ送信されることがあります。連携先におけるデータの利用・保存方法は、OpenAIの管理対象外です。連携先の利用規約や保存方針を確認し、承認されていない外部サービスへ介護記録を送信しない運用としてください。

レベル3:API連携で「記録が活用されない」を改善

入力と保存が手作業のままでは、記録の活用に限界があります。そこで、レベル3ではシステム連携へ進みます。

記録の作成から確認、保存、集計までを1つの流れとして設計し、蓄積した情報をケアに活かせる状態を目指す段階です。

システム構成の全体像とAPI連携

APIとは、異なるシステム間でデータや機能を連携するための仕組みです。例えば、承認された端末から音声やメモを入力すると、生成AIが記録文の下書きを作成し、職員の確認・修正後に介護記録システムへ保存する仕組みを構築できます。

重要なのは、導入当初から完全に自動化しないことです。導入初期は、職員が内容を確認・承認した後に保存する運用にします。運用実績を検証し、定型項目の転記や集計など、リスクの低い作業から自動化の範囲を広げましょう。

記録の保存や分析まで自動化するには、生成AIと介護記録システムをAPIで連携させる方法があります。実装にあたっては、システム事業者や開発担当者と、接続方法、入力できる情報の範囲、アクセス権限、障害発生時の対応などを確認します。

なお、利用条件や料金体系、データの取り扱いは、利用するサービスや契約によって異なります。

組織が承認した契約・環境・運用ルールに従い、入力が認められていない個人情報や機密情報は送信しないでください。

データ活用とアラートを設計する

記録を構造化して蓄積すれば、食事量の低下や転倒の増加などを検知し、担当者へ確認を促すことができます。アラートを生成AIの判断だけに委ねず、「食事摂取量が基準値を3日連続で下回ったら通知する」など、根拠が明確な条件から始めます。通知は診断ではなく、専門職が状態を確認するきっかけとして位置づけます。

また、カンファレンス前に1週間分の記録を要約し、状態の変化や継続して確認すべき点を整理することも可能です。ただし、要約によって重要な経過が省かれる可能性もあります。原記録を確認できるようにし、最終判断は担当者が行いましょう。

記録基盤という選択肢「ほのぼのNEXT」

ここまで、ChatGPTやAPIを活用して記録の仕組みを整える道筋を見てきました。しかし、保存・共有・分析の全てを自前で構築することは、大きな負担になります。そこで現実的な選択肢となるのが、完成された介護記録システムを土台に据える方法です。

三菱電機デジタルイノベーションが取り扱う「ほのぼのNEXT」は、介護記録から請求・伝送処理までの一連の業務を管理できる介護業務支援ソフトです。関連するタブレット記録アプリや音声入力システム、バイタル機器との連携を組み合わせることで、記録の入力や職員間の情報共有を効率化できます。

記録の入力・保存・共有に必要な基盤があらかじめ整っているため、これらの仕組みを一から開発せずに構築できます。

現場の規模や体制を考慮した運用を

ChatGPTによる文章生成や外部システムとの自動連携については、利用できるインターフェースや必要なオプションを個別に確認する必要があります。それでも、記録基盤を一からつくる場合と比べれば、開発や運用の負担を抑えやすくなります。

独自構築か既存システムの活用かは、事業所の規模や体制によって異なります。何から手をつけるか迷う場合は、まず実績のある記録システムを土台に据え、ChatGPTを活用できる業務を段階的に増やしていく方法が、現場の負担を抑えながらレベル3へ近づく現実的な選択肢です。

段階的な構築方法

生成AIの活用環境を、一度に完成させる必要はありません。いきなり全面的な自動化を目指すと、現場が新しい手順に対応できず、かえって確認作業が増えることがあります。

次の順序で進めるとよいでしょう。

  1. 架空の事例を用い、レベル1の文章化や要約を少人数で試す
  2. 記録時間、修正回数、記載漏れなどを確認し、プロンプトを整える
  3. GPTsに記録ルールを設定し、対象部署を限定して運用する
  4. 介護記録システムとの連携可否を確認し、人が承認する工程を残してAPI連携を試す
  5. 安全性と効果を検証し、保存・集計・アラートへ対象を広げる

導入効果は、「AIを使った回数」ではなく、記録に要する時間、勤務時間内の記録完了率、修正率、必須項目の記載率、カンファレンス準備時間などで測ります。職員の使いやすさに加え、記録の具体性やケアへの活用度が保たれているかも確認しましょう。

活用にあたっての留意事項

ChatGPTを介護記録に活用する際は、個人情報の取り扱いとAIの出力内容に注意が必要です。安全に活用するためのポイントを見ていきましょう。

個人情報は本人を特定しにくい形へ加工する

介護記録には、氏名や住所だけでなく、病歴、身体・精神の状態、障害に関する情報など、慎重な取り扱いが求められる情報が含まれます。なかでも、病歴や障害の事実、診療情報などは、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当する情報です。

AIに入力する前に、氏名をイニシャルや記号に置き換え、施設名や具体的な日時など、本人の特定につながる情報を必要に応じて取り除きます。個人が特定されにくい形へ加工することが、情報流出のリスクを抑える第一歩です。

氏名をイニシャルにしただけでは、ほかの情報との組み合わせによって本人を特定できる場合があります。記録全体を確認し、AIに入力する必要のない情報が残っていないかを確認しましょう。

事業所の承認を得ていない個人向けアカウントや私物端末には、実際の介護記録を入力しないことも重要です。試行段階では架空の事例を使用し、本番利用へ進む前に、組織として利用目的と入力できる情報の範囲を定めましょう。

契約・設定・データの取り扱いを確認する

個人情報を含む情報を生成AIへ入力する場合は、利用目的の範囲内か、入力情報がどのように取り扱われるかを確認する必要があります。

データの利用・保存方法は、サービスや契約、設定によって異なります。法務・情報セキュリティーの担当者や専門家を交え、利用規約、保存期間、学習などへの再利用の有無、アクセス権限、削除方法、事故発生時の対応を確認しましょう。

ChatGPTにおけるデータの取り扱いは、個人向けと業務向けで異なります。個人向けChatGPTでは、会話内容がモデルの改善に利用される場合があります。「モデル改善に協力する」をオフにすると、その後の新しい会話はモデルの学習に使用されません。

ChatGPT Business、ChatGPT Enterprise、API Platformでは、入力・出力データは既定でモデルの学習に使用されません。一方、学習への不使用とデータの保存は別の仕組みです。保存期間、管理者権限、アクセス制御、削除方法などを確認し、事業所の情報管理方針に適合する契約・環境を選びましょう。

AIの出力をそのまま記録にしない

生成AIは、入力にない内容を補ったり、数値や因果関係を誤って整えたりすることがあります。また、文章を整える過程で、「状態を観察した。著変なし」といった抽象的な表現に寄ってしまうケースにも注意が必要です。

介護記録では、食事摂取量、時刻、発言、表情、行動、実施した対応、その後の変化など、判断の根拠となる事実が重要です。AIの出力は下書きとして扱い、記録者が元のメモと照合したうえで確定します。誰が確認・承認したかを追跡できる運用も必要です。

AIに任せる範囲を広げても、利用者の小さな変化を観察し、その意味を考え、ケアを判断する役割は専門職に残ります。AIによって文章作成を効率化する目的は、人の判断を省くことではなく、人にしかできない観察や対話へ時間を振り向けることにあります。

まとめ

介護記録におけるChatGPT活用は、3つの段階に分けて考えると進めやすくなります。レベル1ではチャット機能を使って文章化や要約を効率化します。レベル2で取り組むのは、GPTsによる記録様式や表現の標準化です。さらにレベル3では、APIと介護記録システムを連携させ、記録の作成から確認、保存、分析までを一連の流れとして扱える環境を目指します。

段階が上がるほど、個人情報保護、セキュリティー、権限管理、出力の検証といった組織的な対応が重要になります。まずは架空の事例を使った小規模な試行から始め、効果とリスクを確認しながら対象を広げることが大切です。

記録は、書いて終わるものではなく、次のケアに活かすための情報です。AIはあくまでその過程を支える道具であり、利用者の状態を見て最終的に判断する役割は現場の専門職が担います。生成AIを適切に取り入れることで、記録の負担を抑えながら情報の質を高め、職員が利用者と向き合う時間を増やすことが期待できます。


著者プロフィール

梅木 駿太

合同会社Re-FREE 代表/経営パートナー/医療経営・管理学修士(MHA)

梅木 駿太 梅木 駿太

理学療法士として医療・介護の現場を経験したのち、管理職として部門運営を経験。その後、複数の介護事業所を有する医療法人の事務長として医療介護経営に従事。現在は特に50床以下の小規模病院・クリニック・介護事業所を中心に、経営支援を行っている。長期的な戦略に基づいた、実効性の高い支援内容に定評がある。


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