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2026年3月

AWS re:Invent 2025参加レポート

最先端のクラウドサービスと
AIテクノロジーで得られた知見により
お客様のイノベーション創出を加速

目次

参加約30名集合写真

2025年12月、米国ラスベガスで開催された「AWS re:Invent 2025(以下、re:Invent)」に、三菱電機デジタルイノベーション株式会社および関係会社から約30名が参加しました。世界最大級のクラウドカンファレンスで示されたのは、AIエージェント、フィジカルAI、運用自動化の加速、そしてセキュリティーとガバナンスの強化といった潮流です。中でも、各種AIを使ったソリューションは実験段階ではなく実運用への移行を強く印象づけるものでした。現地で得た知見は、顧客のDX推進やイノベーション創出にどのように活かせるのでしょうか。本記事では、主要メンバーへの取材をもとに、その実践的示唆を探ります。

AIが日常に溶け込む
AWS re:Invent 2025が示した技術潮流

多くの日本企業が生成AIやクラウドサービスの活用を進めているものの、ビジネス成果に直結した事例はいまだに限定的です。テクノロジーは急速に進化していますが、それを安全かつ効率的に実装し、価値を最大化する方法は確立途上にあります。

こうした中で開催された今回のre:Inventは、クラウドとAIが次のステージへ進んだことを明確に示すものでした。世界中から約6万人が参加したこのカンファレンスで、AWSが打ち出したメッセージは一貫していました。それは、AIが実験的なツールの段階を超え、自律的に業務を遂行する「エージェント」へと進化し、企業システムの中核を担う時代が到来したということです。

三菱電機デジタルイノベーションからは、クラウドプラットフォーム事業、DXソリューション事業をはじめとする各部門からメンバーが参加しました。さらに、同社の関係会社でありAWSパートナーでもあるクラウドセントリック株式会社からもメンバーが参加し、最新の技術動向と実務への適用可能性を探りました。

AIが日常に溶け込む
AWS re:Invent 2025が示した技術潮流

進化したAIがもたらす
クラウド開発と運用の変革

今回のre:Inventが示した最大の変化は、AI活用の焦点が「モデルの性能競争」から「エンタープライズの実運用を支えるエコシステム整備」へと移行しつつある点です。重要なのは、コンプライアンスやセキュリティー、評価手法といった、AIエージェントを安全かつ継続的に運用するための基盤が整い始めたことです。

特に注目されたのが「Amazon Bedrock AgentCore(以下、AgentCore)」です。AgentCoreは、AIエージェントの実行環境、メモリー管理、外部ツールとの連携、ログ監視など、本番運用を前提とした機能をフルマネージドで提供する基盤として位置づけられています。さらに、エージェントの振る舞いを制御するポリシー管理や、品質を継続的に評価する仕組みも整備が進み、企業は「作成したエージェントをどう管理・運用するか」という課題に対し、現実的な選択肢を得つつあります。

また、開発や運用を支援する用途特化型のエージェント群も発表されました。「Kiro Autonomous Agent」はコーディング支援を、「AWS セキュリティエージェント」は設計段階からのセキュリティー統合管理を、「AWS DevOps エージェント」はインシデント対応の自動化を担います。これらは、人間が逐一指示を出すのではなく、エージェント自身が状況を判断し、長時間にわたって自律的に作業を継続することを想定しています。さらに、「AWS Transform カスタム」は、レガシーコードを最新言語に自動変換するサービスです。COBOLやJavaのコードをPythonやNode.jsへ迅速に移行でき、技術的負債の解消を加速します。

これらの技術は、単なる機能追加にとどまらず、クラウドネイティブ開発のあり方を根本から変える可能性を秘めています。従来は数週間を要していたプロトタイプ作成が、数日、あるいは数時間へと短縮されるだけでなく、セキュリティー設計や運用監視といった専門性の高い領域においても、AIの支援により品質とスピードの両立が現実味を帯びてきています。

運用部門の視点
Amazon自身の実践から学ぶAI活用の現実解

クラウドソリューション部門が特に注目したのは、Amazon自身がAWSをどのように活用しているのかという実例です。イノベーショントーク「Behind the curtain: How Amazon's AI innovations are powered by AWS」では、Amazon.com、自動運転ロボタクシーZoox(ズークス)、Prime Videoという3つの事業におけるAI活用が紹介されました。

Amazon.comでは、生成AIショッピングアシスタント「Rufus(ルーファス)」が、Prime Day期間中に毎分300万トークンを処理しました。Rufusを利用した顧客は購入完了率が約60%向上したといいます。また社内では、2025年7月以降に2万1,000個を超えるAIエージェントが作成され、2025年には約20億ドル(約3,000億円)のコスト削減が見込まれているとのことです。

完全自動運転ロボタクシーをラスベガスで運用開始したZooxの開発では、AWS上に構築されたシミュレーション環境を活用し、数千万回に及ぶ検証が行われています。左折一つをとっても数百万のシナリオ分析が必要とされ、「つまずいて靴紐を結ぼうとしている歩行者」といった状況まで想定した訓練が行われていました。参加したメンバーはラスベガスで実際に試乗し、実用化が目前に迫っていることを体感しました。

Prime VideoのスポーツAI解析も印象的でした。アメリカンフットボールの試合配信「Thursday Night Football」では、ディフェンスのブリッツ予測やクォーターバックへのプレッシャー予測をリアルタイムで可視化し、従来の放送では得られなかった洞察を視聴者に提供しています。

これらの実例が示しているのは、AIを活用した業務改善が既に実験段階を超え、実運用の中で具体的な成果を生み出しているという事実です。帰国後、クラウドソリューション部門ではライセンス管理レポートの自動生成など、運用業務へのAI適用を小規模な取り組みから開始しています。

また会場には日本のAWSパートナーも多数参加しており、ネットワーキングの機会も得られました。自社だけでは対応しきれない開発領域について、外部の知見を取り込みながら進める動きも始まっています。

運用部門の視点
Amazon自身の実践から学ぶAI活用の現実解

技術部門の視点
オンプレからクラウドへ、運用自動化への転換

クラウド技術部門は、これまでオンプレミスの仮想化基盤を中心に取り組んできましたが、三菱電機の「クラウドファースト」という方針を踏まえ、運用系サービスとAIによる自動化に注目しました。

中でも強い印象を受けたのが、「Amazon Connect」を活用した全自動コールセンターのデモです。カードの不正利用に関する問い合わせに対し、AIが自然言語で顧客対応を行い、状況確認からカード停止の提案まで自律的に処理していました。プロジェクトによっては、自社でAIコールセンターシステムを開発するよりも、AWSのようなビッグテックの技術基盤を活用する方が合理的であると感じさせる内容でした。

技術部門の視点
オンプレからクラウドへ、運用自動化への転換

ワークショップでは、AI支援開発ツール「Kiro CLI」を使ったトラブルシューティングや、運用監視サービス「Amazon CloudWatch」によるネットワーク監視システムの構築を体験しました。AWSが定義する中級〜上級者向けの実践的な内容が中心で、AWSに不慣れな参加者には難易度が高いと感じられる場面もありましたが、実際に手を動かすことで理解を深めることができました。

技術部門の視点
オンプレからクラウドへ、運用自動化への転換

自動化が様々な領域で進展している一方、技術導入にあたっては企業ポリシーとの調整が不可欠です。「クラウドにデータを置きたくない」と考える企業も存在しますが、技術進化のスピードを踏まえれば、セキュリティー要件を満たしながら、最新のクラウド技術を活用していく方向性も検討すべき段階に来ています。三菱電機グループでも、AI基盤の統合運用など、グループ全体でのクラウド活用を見据えた取り組みが始まっています。守るべきものは守りつつ、新しい技術を取り入れる──そのバランスをいかに取るかが、今後のカギとなります。

クラウド推進担当の視点
現地でしかできない体験が生む成長

三菱電機デジタルイノベーションのクラウド事業推進室は、受注前の技術検証や提案活動を担う部門です。昨年入社1年目でJapan AWS Jr. Championsに選出されたメンバーは、「現地でしか味わえない空気を体感したい」という思いを胸にre:Inventに臨みました。

特に印象的だったのが「GameDay」への参加です。4人1組のチームでAWSの課題に挑む実践型イベントで、あえて日本人のみではなく多国籍チームに参加しました。英語での技術議論、限られた時間、初めて触れるAWSサービスという三重の難題に直面しながらも、冷静に問題を読み解き、仮説と検証を繰り返すことで課題を解決していきました。NVIDIA主催の回では、チームメンバーの活躍もあり全員が壇上で表彰され、CEOの顔がデザインされたTシャツを獲得することができました。

クラウド推進担当の視点
現地でしかできない体験が生む成長
クラウド推進担当の視点
現地でしかできない体験が生む成長

最終日のWerner Vogels氏によるクロージングキーノートでは、「ルネサンス・デベロッパー」として求められる5つの資質──好奇心、システム思考、コミュニケーション、オーナーシップ、博学性──が紹介されました。「AIは私の仕事を奪うのか?」という問いに対し、「進化を続ける限り、絶対にそのようなことはない」というメッセージが語られ、担当者の印象に強く残ったといいます。

担当者は「自ら目標を設定し挑戦することで、取り組みが刺激的になり、成長を実感できた」と振り返ります。re:Inventは、若手が主体的に学び、成長する場として大きな意義を持つイベントになりました。

開発部門の視点
AIエージェント実装の最前線を体感

三菱電機デジタルイノベーションのサービスイノベーショングループからの参加者は、AWSとAIを使ったサービス開発を担当しており、今回の参加も実務に直結する情報収集を目的としていました。

中でも注目したのがAgentCoreです。現在、AIエージェントを使ったサービスを開発中の担当者は、「求めていた機能が発表された」と語ります。従来は、APIサーバー関連のライブラリを導入し、エージェントの動作を外部システムに連携させるためのコードを自前で実装する必要がありました。しかし、AgentCoreでは実行環境、API通信、ログ監視などの機能があらかじめ用意されており、開発負荷の軽減が期待されます。さらに、作成したAIエージェントやツールを容易に共有できるため、プロジェクト横断での再利用も可能になります。

少人数形式の対話セッションで紹介された韓国通信大手のSKT社の事例も印象的でした。業界固有用語に対応するためドメイン特化モデルを構築し、カスタマーサポートの精度を58%向上させ、平均診断時間を最大約80%削減したと紹介されました。この事例から、AIモデルのカスタマイズが実用段階に入っていることを実感しました。一方で、データ前処理に全体工数の約80%を要することや、推論最適化を設計段階から考慮しなければ運用コストが増大するなどの課題もあります。

re:Invent参加後、担当者はこれまで抱いていた英語への抵抗感が薄れ、新サービス情報を積極的に収集するようになりました。現地の熱量に触れたことで、技術を学び続けるモチベーションが一層高まったと振り返ります。

開発部門の視点
AIエージェント実装の最前線を体感

AWS専業企業の視点
守りの設計があってこそ攻めの技術が生きる

AWS専業のクラウドセントリックからの参加者は、技術セッションだけでなく、実際に体験できるイベントにも積極的に参加しました。

特に印象に残ったのが「Sports Forum」での体験です。NBAのトロント・ラプターズが提供する「デジタル・シューティング・ラボ」では、バスケットボールのシュートフォームをリアルタイムで解析し、改善点を即座にフィードバックしていました。「もう一人の専属コーチが横にいるような存在」という説明は分かりやすく、AIが「高度な技術」としてではなく、選手やチームの成長を支える「相棒」として自然に溶け込んでいる様子が印象的でした。

関連するNBA×AWSのセッションでは、ファン体験向上を目的としたAI活用が紹介されました。リアルタイムでの戦術分析やマルチビュー機能により、Prime Videoでの試合観戦者が試合をより深く理解できる仕組みが、すでに実運用されています。重要なのは、技術導入の目的が「技術そのもの」ではなく「理解と楽しさ」に置かれている点です。

新しい技術の裏側にあるセキュリティーとデータ保護への取り組みも見逃せません。セッションの質疑応答では「10年かけて構築したデータ保護体制があり、守りの設計があってこそ攻めの技術が生きる」という説明がありました。最新技術を安全に活用するための基盤整備の重要性を再認識させられる内容でした。

得られた知見を組織の力に小さく始め、着実に広げていく

AWS re:Invent 2025で得られた知見を、いかに実務に落とし込み、組織全体の力へと昇華させていくか。それが今後のカギとなります。

帰国後、三菱電機デジタルイノベーションでは具体的な取り組みがすでに始動しています。一つは、今回発表された各種サービスのPoC(概念実証)です。レガシーコード変換、エージェント基盤、セキュリティー/運用自動化などについて実際に検証を進め、システムのモダン化加速やAIエージェントの品質向上、運用工数削減への適用可能性を探っています。

もう一つは、ナレッジ共有体制の強化です。参加メンバーが中心となり、社内勉強会やハンズオンを通じて知識を共有し、事例を蓄積しながら横展開を推進しています。さらに、外部のAWSパートナー企業との連携も視野に入れ、自社だけでは対応が難しい専門領域の知見を取り込む動きも始まっています。

今回の参加を通じて得た共通認識は、「技術の進化を待つのではなく、小さく始めて、実践の中で学ぶ」ことの重要性です。まず動き出し、試行錯誤を重ねながら前に進む。その積み重ねが組織全体の対応力を着実に高めていきます。

re:Inventは、最新技術に触れるだけでなく、現地の熱量を肌で感じ、多様な参加者と交流できる貴重な場でもあります。そして、若手が主体的に挑戦し成長する機会としても大きな意義を持っています。三菱電機デジタルイノベーションは、ここで得た知見を実践へとつなげ、お客様のイノベーション創出をさらに加速していきます。


※ 本記事は、以下の方々への取材および提供資料に基づいて作成しています。

紅林 俊之 氏

AI・クラウドソリューション部 クラウド企画・移行推進プロジェクトグループ
アソシエイトエキスパート

朝倉 伸 氏

クラウドプラットフォーム事業 クラウドソリューション部 次長

入江 達也 氏

クラウドプラットフォーム事業 クラウド技術部 次長

冨森 研弥 氏

DXソリューション事業 BI・サービスイノベーショングループ

早川 寛尚 氏

DXソリューション事業 クラウド事業推進室

亀山 瑞季 氏

クラウドセントリック株式会社 インテグレーション技術部