ITトピックス
2026年3月
生成AIの性能を引き出す
プロンプトエンジニアリング
生成AIの活用が企業内に浸透し、業務効率化などの成果を上げています。一方で、十分に使いこなせず、思い通りの回答が得られないことに悩む人も少なくありません。生成AIからより良い回答を引き出すためには、適切な指示や補足の情報を与えること、すなわち「プロンプトエンジニアリング」が重要であり、業務の生産性向上に不可欠なスキルとなっています。本特集では、プロンプトエンジニアリングの基本概念から実践的な活用法までを整理し、生成AIを使いこなすためのヒントを解説します。
プロンプトエンジニアリングとは
より良い回答を引き出す技術
ChatGPTやGemini、Grokなどに代表される生成AIが急速に浸透しています。社内業務向け専用生成AIサービスを自社開発し、社員に提供している企業も少なくありません。
生成AIを賢く使いこなすために重要となるのがプロンプトエンジニアリングです。生成AIに対する指示や補足の情報を「プロンプト」と呼び、より良い回答を引き出すためにプロンプト(質問)を最適化する技術を「プロンプトエンジニアリング」といいます。適切なプロンプトは的確な回答を引き出せますが、不適切なプロンプトでは的外れな回答となってしまいます。プロンプトの質が回答の質を左右するため、指示の出し方が重要です。
これは、生成AIが一般的なWeb検索とは異なり、入力された質問に対して、膨大なデータを学習した大規模言語モデル(LLM)が、次に続く可能性が高い単語を「予測」しながら回答文を作成しているためです。
基本原則は「明確性」「具体性」「文脈」「試行錯誤」
プロンプトエンジニアリングで覚えておく基本原則は、「明確性」「具体性」「文脈(コンテキスト)」「試行錯誤」の4つです。例えば、英文を日本語に翻訳したい場合、単に「この文を翻訳して欲しい」と入力すれば、生成AIは一定の結果を返してくれるでしょう。しかし、本当に求める結果を得るためには明確かつ具体的に指示し、必要に応じて質問の意図を示したり、出力方法を指示することが重要です。
基本原則の一つ目である「明確性」とは、生成AIに何を実行させたいのか、作業の内容を過不足なく示すことです。英文翻訳であれば、「翻訳結果をそのまま出力して欲しい」「ビジネスメールの返信向けに翻訳して欲しい」といった具体的な指示が該当します。
二つ目の「具体性」とは、プロンプトに条件や固有名詞などを加え、より的確な回答を引き出すことです。より良い回答を得るための基本は、冒頭に「あなたはプロの翻訳家です」「あなたはベテランエンジニアです」など、特定の役割を与えることです。生成AIは与えられた役割を踏まえ、それに応じた回答を返します。
次に重要なのが、タスクを具体的に指示することです。「質問への回答と、それに至った理由を説明してください」「翻訳する際は文のニュアンスや文化的な背景を考慮してください」といった補足指示を加えることで、回答の質が向上します。
さらに、出力フォーマットを指定することも有効です。「箇条書きで」「表形式で」「論文のように厳密に」「ブログ投稿用に」といった出力の形式を指定することで、用途に適した回答を得やすくなります。
また、得たい回答の「例」をあらかじめ示しておくことも、精度向上の有効な手段です。プロンプトエンジニアリングでは、一つの例を示すことを「One-shot プロンプティング」、複数の例を示すことを「Few-shot プロンプティング」と呼んでいます。例を一切示さないのが「Zero-shot プロンプティング」です。
英文翻訳であれば、入力文と翻訳結果を複数の「例」として示したうえで、新たな文を入力すると、一貫性が高く質問者の意図に沿った回答を得やすくなります。
基本原則三つ目である「文脈」とは、プロンプトを取り巻く背景情報を付加することです。例えば「海外の製造委託先に、▲▲製品の納期について確認する英文メールを作成したい」といった文脈を加えることで、状況に即した出力を得られます。LLMはニュースなどの最新情報は学習していない場合が多いため、「最近、○○社は▲▲という製品をリリースした」といった前提条件を補足することも効果的です。
四つ目の「試行錯誤」は、生成AIとのやり取りを重ねることで、より望ましい回答へと近づけていく考え方です。LLMは確率モデルを採用しているため、1回の指示で理想とする回答が得られるとは限りません。得られた回答に対して追加の指示や修正を行うことで、回答は徐々に洗練されていきます。
図1:より良い回答を得るためのポイント
プロンプトエンジニアリングを駆使する応用テクニック
LLMの進化により、基本的なテクニックを押さえるだけでも、目的に近い回答を得られるようになっています。中・上級者向けの工夫として挙げられるのが、日本語より英語でプロンプトを記述したほうが、出力が安定しやすい点です。また、近年は、「推論モデル」と呼ばれる、複数ステップの思考・計画・検証を行ってから回答を生成するモデルが登場し、プロンプトの最後に「深く考えて」と付け加えるだけで、LLMが情報を段階的に整理し、より構造化された回答を返してくれます。
さらに、必要な項目や文体、書式などを整理した「テンプレート」を活用することも有効です。ChatGPTを提供するOpenAIや、Geminiを提供するGoogleは、効率的な実践方法をまとめたベストプラクティスを、公開しており、参考資料として活用できます。
調査、企画作成、データ分析などビジネスへの活用のポイント
ここまで紹介してきたプロンプトエンジニアリングのテクニックは、ビジネスの様々なシーンで活用することができます。
代表的な活用例が、各種調査です。質問の内容やニュアンスを言語化し、必要なアウトプット形式を指定することで、求める情報を効率よく引き出すことができます。例えば、営業担当者が新規会社へアプローチや訪問を行う際に、最新のニュースや経営情報を調査し、そのままレポートとしてまとめることも可能です。また、社内情報の検索に対応した自社専用の生成AIサービスであれば、社内文書から旅費精算マニュアルを検索し、申請書類を作成することもできます。
文書作成や編集、レビューも生成AIの得意領域です。簡易的なデータ加工や整理にも活用できます。例えば、Excelファイルで集計した大量のアンケート結果を読み込み、カテゴリー別に整理したり、回答数の多い意見を抽出したりすることで、大枠の傾向を把握するのに役立ちます。
さらに、今や生成AIによる画像・音声・動画の作成も可能となり、技術の進歩は目覚ましいものがあります。今後、プロンプトエンジニアリングの考え方自体は変わっていくと考えられますが、言葉で指示を与える限り、その重要性は失われることはありません。生成AIを活用して業務生産性を高めるための手段として、プロンプトエンジニアリングは今後も大きな武器になるでしょう。
※ 本記事は、三菱電機デジタルイノベーション株式会社 プロセス・オペレーション改革室AI・クラウドソューション部 AI業務改革プロジェクトグループ 布田 翼 氏への取材に基づいて作成しています。
プロフィール
布田 翼
(ふだ・つばさ)
三菱電機グループ向け生成AIサービス「MELGIT-GAI」開発プロジェクトリーダー。日本大学卒業。同大学院理工学研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了。
2019年三菱電機(株)入社。2025年三菱電機デジタルイノベーション(株)出向。入社後、ソフトウエア標準化活動や包括ソフトウエア契約のとりまとめ業務に従事。2023年に社内向け生成AIアプリ開発プロジェクトにアサインされる。以降、プロジェクトリーダーとして同プロジェクトの推進を牽引。