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2026年6月

三菱電機のOTセキュリティ対策とワンストップソリューション

製造業のIoT化やDXの進展を背景に、近年、OTセキュリティへの関心が高まっています。三菱電機でも、自社工場や製品・システムにおけるセキュリティ対策を強化してきました。2023年には、自社で培った知見を活用し、お客様向けにOTセキュリティ対策サービスの提供を開始しています。
本記事では、同社のOTセキュリティへの取り組みと、「アセスメント」「対策」「運用」をセットで提供する「ワンストップOTセキュリティソリューション」について、デジタルイノベーション事業本部 OTセキュリティ事業推進部の市川英嗣氏に伺いました。

市川 英嗣

三菱電機株式会社 デジタルイノベーション事業本部
OTセキュリティ事業推進部
ソリューション企画グループ

兼 三菱電機デジタルイノベーション株式会社
セキュリティ事業推進本部

自社で培った知見を活用し「OTセキュリティ対策サービス」を提供

サイバー攻撃の高度化・巧妙化が進む中、三菱電機は製品・システムのライフサイクル全体を通じたセキュリティ強化に取り組んでいます。その契機となったのが、2019年に発生した重大なセキュリティインシデントです。これを受け、2020年にセキュリティ対策統括部門を設立し、各製作所へのアセスメントの実施や必要な対策を推進してきました。

2023年には、自社で蓄積した知見を活用し、OTセキュリティに特化した組織を立ち上げ、製造業のお客様を中心に「OTセキュリティ対策サービス」の提供を開始しました。2024年には、工場セキュリティインシデント対応チーム(FSIRT)体制を構築し、FSIRT、情報セキュリティ(CSIRT)、製品セキュリティ(PSIRT)、企業機密管理・個人情報保護の4本柱によって、自社およびステークホルダーを守る体制を整備しました。

さらに2025年4月には、DX・IT・セキュリティ関連の組織を再編し、デジタルイノベーション事業本部と三菱電機デジタルイノベーション株式会社を新設しました。

「社内のセキュリティ企画・統括部門と、お客様向けにサービスを提供する事業部門との連携を強化することで、ITからOTまでをワンストップでカバーするセキュリティソリューションを提供しています」(市川氏)

三菱電機が提供する「ワンストップOTセキュリティソリューション」は、同社が培ってきたITセキュリティ技術と、制御機器・システム事業、自社工場でのセキュリティ対策を通じて蓄積したOT領域の知見を融合したものです。最大の特長は、「アセスメント」「対策」「運用」をワンストップで提供している点にあります。

「アセスメントでは、現場のノウハウやネットワーク可視化技術、AIによるリスク分析を活用し、潜在的な課題やリスクを抽出します。対策では、お客様の現場環境に応じてセキュリティコンポーネントを組み合わせた提案を行い、侵入検知ソリューションなどを導入します。運用では、ITセキュリティで培ったSOC(Security Operation Center)の知見とOTの専門性を組み合わせ、24時間365日体制での監視・分析・復旧支援を提供しています」(市川氏)

先進的なOTセキュリティ技術を持つ
Nozomi Networks社とのパートナーシップ

ワンストップOTセキュリティソリューションをさらに強化するため、三菱電機は2024年に世界トップクラスのOTセキュリティ技術を有する米国Nozomi Networks 社(以下、Nozomi)と協業契約を締結し、2026年には、同社を完全子会社化しました。その狙いは、「OTセキュリティ事業の抜本的強化」と「三菱電機のデジタル基盤『Serendie』を活用した共創事業の拡大」にあります。

「Nozomiは、グローバルトップクラスのOTセキュリティプロバイダーです。当社が持つOT領域の強みと、Nozomiの先端技術やビジネスアセットを融合することで、セキュリティ事業を強化し、確固たるポジションの確立を目指しています。また、お客様の了承のもと、現場データをセキュアに収集・活用する基盤を構築することで、新たなサービス創出やSerendie関連事業の拡大にもつなげたいと考えています」(市川氏)

Nozomiとのパートナーシップでは、IDS(侵入検知システム)製品の「Nozomi Guardian」を活用し、ネットワークから得られる情報を基に、「ネットワーク・構成機器可視化」「脆弱性・リスク管理」「ネットワーク異常検知」の三つの機能を提供しています。グラフィカルなUIと日本語表示によって高い視認性を実現している点も特長で、ユーザーの負担軽減にも寄与しています。

また、三菱電機のFA機器とNozomiのOTネットワーク可視化・侵入検知技術を連携し、PLC常駐型のセキュリティセンサー「Nozomi Arc Embedded」を共同開発しました。これは、三菱電機のシーケンサ(PLC)にNozomiのソフトウェアセンサーを組み込んだもので、ファームウェアバージョンなどの製品情報取得に加え、周辺機器の可視化や異常通信、内部状態変化の検知を可能にしています。

「これにより、従来は把握が難しかった現場の深い層(フィールドネットワーク)に存在する資産や脅威を、精緻に可視化できるようになりました」(市川氏)

ワンストップOTセキュリティソリューション

図1:ワンストップOTセキュリティソリューション

OTセキュリティを通じてデータを収集し新たなサービスを共創

Nozomiのアセットを活用したSerendie関連事業の強化において、三菱電機はOTセキュリティを現場データの収集・活用を支える基盤と位置付けています。Serendie事業では、現場データの活用が重要な前提となりますが、多種多様な機器から必要なデータを収集することは容易ではありません。その点、OTセキュリティはネットワークに接続された機器の通信をモニタリングできるため、自社製品・他社製品を問わず、工場全体のデータ収集を支援できます。

「OTセキュリティは、データ収集におけるボトルネックを解消し、現場データの利活用を後押しする重要な役割を担っています」(市川氏)

OTセキュリティを通じて得られた多様なデータは、お客様のご要望に応じてSerendie上でAI分析を行うことで、機器の挙動把握や自律制御へのフィードバックに活用できます。これにより、工場全体のエネルギーマネジメントや、AIエージェントを活用した生産ラインの最適制御、予防保全など、付加価値の高い新たなデジタルサービスをお客様と共創することが可能になります。

「OTセキュリティを通じたデータ利活用は、Serendie関連事業の拡大にも寄与すると考えています。将来的には、OTセキュリティを起点としたデータ活用領域が、新たな成長ドライバーになることを期待しています」(市川氏)

グローバルNo.1のOTセキュリティソリューションプロバイダーへ

今後は、「事業規模の拡大とグローバル市場での地位確立」「AIとクラウドを活用したデジタルサービス化と運用高度化」「データ利活用を通じたSerendie事業の成長」の3点を軸に、取り組みを継続していく方針です。

「お客様の現場をサイバー攻撃から守る安全な基盤を、次世代のデータビジネスを牽引する成長エンジンへと昇華させていきます。この戦略を通じて、三菱電機の循環型デジタル・エンジニアリングを推進していきます」(市川氏)


プロフィール

市川 英嗣
(いちかわ・えいじ)

市川 英嗣 市川 英嗣

三菱電機(株)OTセキュリティ事業推進部 ソリューション企画G 兼 三菱電機デジタルイノベーション(株)セキュリティ事業推進本部所属。
名古屋工業大学卒業。同大学院工学研究科情報工学専攻博士前期課程修了。
2019年三菱電機(株)入社。入社後、名古屋製作所にてPLCのCPUユニットのファームウェア設計開発業務に従事。
2023年にOTセキュリティ事業推進部へ異動。以降、OTセキュリティソリューションの機能評価や顧客への提案活動、Nozomi Networksとの共同開発業務を担当。