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くらしのエコテクノロジー くらしのエコテクノロジー
vol.19
家庭の熱エネルギーを大きく削減する「エコキュート」をさらに進化させたい
三菱電機 群馬製作所 給湯機製造部 松村 泰成
技術編

家庭の熱エネルギーを大きく削減する「エコキュート」を
さらに進化させたい

2020.02.20

一般家庭の中で給湯の占めるエネルギーは約3割と言われています。この大きなエネルギー消費量に対して高効率なヒートポンプ給湯機を使うことは、大幅な省エネになります。その効果の高さから海外でも注目を集めています。エコキュートの技術の進歩と共に歩んできた松村さんに「エコキュート」の仕組みとはどんなものなのか、また今までとこれからのエコキュートの未来について、環境をキーワードにお話をお聞きしました。

1の電気エネルギーを3倍以上の熱エネルギーに変えるヒートポンプ技術

松村さん

松村さんは入社以来ずっとエコキュートの開発や技術支援をおこなっていらっしゃいますが、どのようなお仕事を経て今の業務を行っているのでしょうか。

松村さん:2008年に入社して以来、家庭用のエコキュートや小型業務用エコキュートの開発や販売支援、技術支援をおこなっています。海外向けのエコキュート事業の立ち上げなどにも関わりました。今は家庭用エコキュートの次モデル開発に従事しています。

ということは入社以来10年以上エコキュートの最前線で開発や技術支援をなさっているのですね。

「エコキュート」は自然冷媒CO2を使ったヒートポンプ給湯機の総称だと思いますが、名前は聞くけれど、その仕組みを詳しく知っている方は少ないように思います。わかりやすく教えてください。

松村さん:ヒートポンプの技術は “熱の移動の技術”と考えていいかと思います。エアコンの室外機に似た「ヒートポンプユニット」で大気の熱をCO2冷媒に取り込み、それをコンプレッサーで圧縮することで高温にします。熱交換器を通じて、この熱をタンク内の水に伝えることでお湯を作ります。熱を伝えた後の冷媒はぬるくなっていますが、それを今度は膨張させてやることで低温にします。低温になると大気から熱をもらいやすくなります。それを繰り返しているのがヒートポンプの仕組みです。

空気の熱を利用して効率よくお湯を沸かす、「ヒートポンプ方式」とは

なるほど、大気の熱を利用し、それを圧縮、膨張させることで効率よく熱を移動させ、お湯をつくるわけですね。

松村さん:はい、電気の熱エネルギー1がお湯の熱エネルギー3から4になるので、非常に効率の良い省エネ性能の高い機器と言えると思います。

大気などの熱を取り込んでお湯をつくるという原理から、ヒートポンプも再生可能エネルギーを使う技術の一つとしてみなしている国※1もありますね。

松村さん:そうですね、ヨーロッパなど国外でも注目されている技術です。海外では地中熱や水の熱を使うケースもあります。国内でも給湯機だけでなく、エアコンや冷蔵庫、自販機などにも幅広くヒートポンプ技術は使われています。

  • ※1:EUではヒートポンプ利用によりくみ上げられる熱エネルギー(空気・地中・水)を再生可能エネルギーとして扱うと法律で明文化している。

海外向けの給湯機の技術開発に関わったと先ほどお話いただきましたが、具体的にはどのようなことでしょうか。

松村さん:群馬製作所として新事業だった海外向けCO2冷媒ATW(Air To Water)の開発に関わりました。日本のエコキュートの技術を転用して、欧州向けに開発し、販売するというものですが、日本と異なるのは給湯だけでなく暖房にも使うという点です。CO2冷媒が熱源となっていますが、その熱を不凍液に伝え、ラジエータや床暖房などの暖房端末に供給するか、蛇口やシャワーで利用するための上水に熱を伝えるか、うまく使い分けて給湯と暖房両方を高効率に運転させる必要がありました。2016年からイギリス向けに発売して、現在はドイツ、スウェーデン、ニュージーランドなど販売する地域も数も増えています。

給湯と暖房の配管が上部にある海外向けエコキュート「ATW」(Air To Water)
給湯と暖房の配管が上部にある海外向けエコキュート「ATW」(Air To Water)

“泡で洗う”技術を使って「清潔性」を追求

松村さんが入社以来、エコキュートの技術や製品はどのように進化していっているのでしょうか。

松村さん:私が入社したのが2008年ですが、機能面ではちょうどその時期に今では主力機種の「バブルおそうじ」機種を発売しました。これは、お客様の入浴後にお風呂の配管内にマイクロバブルを発生させて、配管の汚れを吸着してきれいにする機能です。入浴後に浴槽の栓を抜くだけで、センサーが水位の低下を検知して自動でお掃除機能が働きます。単にお湯を作る機能だけでなく、付加価値として「清潔性」を訴求したことで、市場で大ヒットしました。販売から10年以上経っていますが、当社ならではの技術として今でも好評です。

ショールーム「ユクリエ」にて「バブルおそうじ」機能を説明する松村さん
ショールーム「ユクリエ」にて「バブルおそうじ」機能を説明する松村さん

マイクロバブルとはどんなものなのでしょうか。

松村さん:通常の気泡の1/100以下の大きさの気泡で、工業用油の洗浄や浄水場、養殖場の水質改善などでも広く活用されています。「バブルおそうじ」は、このマイクロバブルの洗浄技術を家庭用給湯機に業界で初めて搭載した機能です。

バブルおそうじの原理(イメージ)
マイクロバブルが通る配管を拡大してわかりやすく訴求(ショールーム「ユクリエ」)
マイクロバブルが通る配管を拡大してわかりやすく訴求(ショールーム「ユクリエ」)
お風呂の循環回路内に搭載している熱交換器。マイクロバブル無(左)、マイクロバブル有り(右)で汚れの吸着具合が異なる
お風呂の循環回路内に搭載している熱交換器。マイクロバブル無(左)、マイクロバブル有り(右)で汚れの吸着具合が異なる

工場の中で使われていた技術を転用したということでしょうか。

松村さん:はい、汎用技術として工場で使われていたものです。当社の現場でも、タンクをプレスするのに油を使っているのですが、そのタンクの洗浄にこのマイクロバブルを使っています。この工場で使われている技術を家庭用にも応用できないかと考えたのですが、元々の装置は大きいので小型化する必要がありました。

小型化というと、どういう装置を開発されたのでしょうか。

松村さん:部品としてはこれ(部品を見せながら)ですが、給湯機からお湯を出したり、お風呂の湯を循環する時に、経路の中で配管の内径を絞ることで水の流れを早くして大気の空気を取り込みます。泡は細かいほど洗浄力が高まりますので、バブルの細かさ、出す量を試行錯誤して開発し、このサイズに収めました。

マイクロバブルを発生させる装置。湯水が通る配管の内径を絞ることで微細なバブルを発生させる
マイクロバブルを発生させる装置。湯水が通る配管の内径を絞ることで微細なバブルを発生させる

このマイクロバブル機能を進化させた「ホットあわー」という機能も開発されたとお聞きしました。

松村さん:はい、2012年にマイクロバブルを浴槽内に出して入浴時の快適性を高める「ホットあわー」という機能も開発し、発売しています。この「ホットあわー」で使うバブルは「バブルおそうじ」よりさらに10分の1ほど細かなバブルを使っています。それまではマイクロバブルを洗浄機能(清潔性)として使ってきたのですが、清潔性に加えて快適性という市場ニーズがあるということが商品企画の分析でわかってきまして、マイクロバブルでお風呂文化を楽しむことを提案したのです。研究所の技術検討でも「ホットあわー」は湯冷めがしにくい効果や、肌水分量が増加する効果が確認されています。

「ホットあわー」入浴の場合は、通常入浴に比べ肌水分量比が多く、うるおいが続きやすい。 「ホットあわー」入浴の場合は、通常入浴に比べ肌水分量比が多く、うるおいが続きやすい。
「ホットあわー」入浴の場合は、通常入浴に比べ肌水分量比が多く、うるおいが続きやすい。

[試験条件]入浴者20代~50代の成人12名に通常入浴とホットあわー入浴にて10分間入浴し、湯あがり10分後の皮膚表面温度をサーモビューアで測定。(湯温39℃ 室温25℃ 浴槽湯量180L)

  • ※使用環境や条件により、効果は異なります。また、個人差があり、効果を保証するものではありません。

それは女性にとってもうれしい機能ですね。先ほどショールーム「ユクリエ」でお湯に手を入れて体験しましたが、なんとなく手がすべすべしたように感じました。

松村さん:マイクロバブルが肌に付着することで肌への水分の浸透力を高めることが大学の研究でもわかっています。

松村さん
「ホットあわー」のアダプターを手にとり説明する松村さん
「ホットあわー」のアダプターを手にとり説明する松村さん

「ホットあわー」の開発で一番苦心したのはどんなことでしょうか?

松村さん:これが「ホットあわー」のアダプターですが(見せながら)、一つは取り付ける場所のスペースが限られているので非常にコンパクトな形状にしなければならなかったことです。もう一つは入浴者を包み込むように泡を出す必要があるのですが、浴槽の大きさや形状、設置環境、アダプターの取付位置などは各家庭でさまざまです。そのため、より多くのお客様にお使いいただけるように、100個近い試作品を作成し、性能を作り込むことに苦心しました。

残り湯などの未利用熱も活用し、エネルギー効率をさらに向上

エコキュートそのもののエネルギー効率を高める工夫では、どんなものがありますか。

松村さん:タンクでは貯めたお湯をいかに冷めないようにするかが重要です。以前はタンクの周りにグラスウールなどの断熱材を使っていましたが、よりコンパクトで断熱性能の高い材料として、今は発砲スチロールと真空断熱材の2つを併用して断熱性能を高め、放熱のロスを減らしています。室外機側でも、大気の熱を冷媒に伝える熱交換器や冷媒から水に熱を伝える熱交換器の形状を最適化して熱を無駄にしないようにしています。

「ホットりたーん」の熱交換器を手に残り湯の熱を回収する方法を説明
「ホットりたーん」の熱交換器を手に残り湯の熱を回収する方法を説明

昨年は、残り湯の熱を回収する「ホットりたーん」という機能も開発されたとお聞きしました。

松村さん:「ホットりたーん」は、これまで捨てていた残り湯の熱を貯湯ユニットに回収して再利用するというものです。今までは浴槽の40℃ぐらいの熱は捨てるしかなかったのですが、翌日に効率よく活用できないかというのが発想の原点でした。その際、お風呂の残り湯は汚れているので貯湯ユニット内のタンクに戻さないよう、熱交換器を使用して残り湯から熱だけをタンクの方に移動させるようにしました。

どれくらいの熱が移動するものなのですか?

松村さん:APF(年間給湯効率)※2という指標でいうと、およそ0.1~0.2アップすることがわかっています。

  • ※2 APF(年間給湯効率):給湯器を運転した時の、単位消費電力量あたりの給湯熱量を表した指標。消費者の使用実態を考慮に入れた給湯効率

残り湯の熱まで回収するとはすごいですね。

松村さん:熱が回収できるのはタンクの方に水を溜められるからで、他の熱源ではできないことですね。先ほどお話した断熱性能の向上、ヒートポンプユニットの効率向上、そしてこういった熱回収の仕組みなどを組み合わせて、当社品はAPFが年々向上し、2018年度モデルでは4.0を達成しています。

家庭で使うエネルギー熱需要は大きいですから給湯のエネルギー効率のアップは家庭の省エネにも大きく響きますね。

松村さん:給湯は家庭で使うエネルギーの3割弱を占めます。エコキュートを使うことでエネルギー消費量を大きく圧縮しますし、その分、光熱費も安くなります。特にエコキュートはわき上げのエネルギー源として7~8割を電力料金の安い深夜電力を使いますので、高効率であることに加えて、主にわき上げする時間の電気料金単価も安いので家計的にも助かります。

深夜電力を使うということは電力のピークカット※3にもエコキュートは貢献できるということですか。

松村さん:エコキュートは主に深夜にお湯を沸かす製品ですので、電力需要の高い朝や夕方の電力ピークを抑制することに貢献している製品と言えると思います。また、現在のエコキュートには昼間の時間帯のわき上げ停止が設定できる「ピーク停止」機能もついています。

  • ※3 ピークカット:最も使用電力の多い時間帯の使用電力を削減すること
出典:EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2018年度版2016年度データ)
出典:EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2018年度版2016年度データ)

AI活用で太陽光発電の余剰電力を蓄熱

「お天気リンクAI」の仕組みはショールーム「ユクリエ」でわかりやすく展示されている
「お天気リンクAI」の仕組みはショールーム「ユクリエ」でわかりやすく展示されている

今後は従来の電力ではなく、太陽光発電システムなどの自然エネルギーも利用する機能が開発されていくのでしょうか。

松村さん:すでに「お天気リンクAI」といって、太陽光発電システムとエコキュートが賢く連携する機能も開発されています。これは、翌日の天気予報によって太陽光による発電量を予測し、夜間のわき上げタイミングを自動で判断する機能です。太陽光発電の余剰電力でお湯を沸かし、タンクにお湯を貯めることができるため、太陽光発電のエネルギーを賢く自家消費し、「蓄エネ」できる便利な機能です。

「お天気リンクAI」による太陽光発電活用イメージ 「お天気リンクAI」による太陽光発電活用イメージ

それは太陽光発電を設置している家であれば付けられる機能なのでしょうか。

松村さん:一般の太陽光発電設備のある家で、HEMS(ヘムス)※4と呼ばれる計測ユニットがあれば大丈夫です。また、この機能はこれから増えていく卒FITユーザーに特におすすめな機能です。

  • ※4 HEMS:「Home Energy Management System(ホーム エネルギー マネジメント システム)」の略。家電や電気設備とつないで、電気などの使用量をモニター画面などで「見える化」したり、家電機器を「自動制御」するシステム。詳しくはこちら

それはどういう理由からですか。

松村さん:2009年11月から始まった10年間の固定価格買取制度が終わって(卒FIT)、売電価格が大きく下がった時に、電気を売るよりも自家需要で使おうという人も増えてくると思います。その時にこのシステムは、太陽光発電の電気を熱の形で蓄熱して使えます。今後はこういったIOT技術※5を付加価値とした機能が注目されていくと思います。

  • ※5 IOT(Internet of Things):「モノのインターネット」。これまで通信機能を持たなかった「モノ」をネットに接続して構築するシステムの総称

まだまだエコキュートは進化しそうですね。

松村さん:そうですね。調査によるとゼロエネルギーを目指す家「ZEH」※6ではエコキュートを選ぶユーザーが約6割と高いので、こういった家が増えると、エコキュートも増えていくだろうと期待されています。

  • ※6 ZEHゼッチ(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス):断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅

自身でもエコキュートを使って実感

エコキュートは電気エネルギーだけでお湯を沸かすのに比べ、消費電力量は約1/3と言われますが、実際にご自宅で使っている松村さんの実感レベルでどう感じられますか。

松村さん:光熱費は以前より安くなったと実感しています。以前はプロパンガスのガス給湯器を使用したアパートに住んでいましたが、引越しを機にエコキュートを使用し始めました。家も広くなり、住宅設備も増えて使用エネルギーが増えたにも関わらず、家全体の光熱費は引越し前よりも安くなりました。光熱費でみると平均16%ぐらい下がりました。給湯だけで見たらもっと減っていると思います。

このところ自然災害も多いですが、エコキュートは災害時にも水を一定期間使えるとお聞きしました。断水など非常時にも使えますか。

松村さん:エコキュートは、タンクにお湯を溜める貯湯式給湯機です。通常、370Lや460Lのタンクを併設する場合が多いので断水など非常時にはそれを生活用水として使えます。

非常時にはタンク下の非常用取水栓から、簡単に水を取り出せる
非常時にはタンク下の非常用取水栓から、簡単に水を取り出せる

暮らしの中で給湯のエネルギーを抑制する方法があれば教えてください。エコキュートを導入していない方でもできることがあれば教えてください。

松村さん:基本はお湯を無駄に使わないことが重要です。お湯を出しっぱなしにしないことや、短時間の手洗い程度であれば蛇口を水側にして使用することに気を付けてください。お湯になる前に止めてしまうとエネルギーの無駄使いになります。給湯の設定温度を低くするのも方法としてはあるかと思います。

ご自身の生活の中で環境に配慮した取り組みを意識していることはありますか。

松村さん:給湯機の開発に携わっていることもあり、自宅でも3分の1を占める給湯に関するエネルギー抑制には気を使っています。具体的には、その日の湯の使用が終わったら「わき上げ休止」ボタンを押し、23時までのわき上げを停止することを心掛けています。また、家族の入浴時間は夕方なので、私が夜に入浴する際にぬるくなったお風呂のお湯を温めるのに、追いだきではなく、高温さし湯を使います。これは追いだき機能を利用するより効率的です。

三菱電機グループは「エコチェンジ」を環境ステートメントとして掲げていますが、群馬製作所では「エコチェンジ」にどのように貢献することができると思いますか。

松村さん:群馬製作所では、工場6棟で約 1,700kWの太陽光発電をおこなっていますし、お話したように工場内で部品を洗浄する際は洗剤を使わず、マイクロバブルを使って汚れを落としており、環境に優しい工場を目指しています。何より、群馬製作所で製作しているエコキュートは大気から熱を集めて、水をお湯にする製品ですので、省エネ性能が非常に高い製品です。このエコキュートのエネルギー効率をさらに高める製品を開発し、お客様へお届けすることが、何よりエコチェンジに貢献すると考えています。

松村さん 松村さん

ご自身でもゼロエネルギーハウス(ZEH)にお住まいになり、エコキュートを使っているという松村さん。開発するだけでなく、実際に利用してその省エネ効果を実感している方の言葉は説得力がありました。お風呂文化のある日本で、エネルギー効率と快適性の両方を追求する製品を開発することは、やり甲斐があると同時に課題も多々あると思います。苦労して開発した機能の説明には熱いものがあり、製品に対する愛情を感じました。