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くらしのエコテクノロジー くらしのエコテクノロジー
vol.5
エレベーターのエネルギー効率、性能は今なお進化中。「まだまだできることがあります」
稲沢製作所 開発部 ハードウエア開発課 石川 純一郎
技術編

エレベーターのエネルギー効率、性能は今なお進化中。
「まだまだできることがあります」

2019.02.19

マンションや商業施設など毎日のように利用されるエレベーターですが、どんな仕組みでどんなテクノロジーを使って動いているか詳しく知っている人は少ないかと思います。三菱電機稲沢製作所は、1964年にエレベーター・エスカレーターの専門工場として設立されて以来、「三菱昇降機のマザー工場」として、国内だけではなく90ヵ国を超える国々に三菱の昇降機を送り出してきました。つまり、エレベーターの歴史を作ってきたと言ってもいい工場です。ここで長年、製品開発に関わる開発部ハードウェア開発課の石川純一郎さんに、エレベーターの仕組みのイロハから最新の省エネ性能までじっくりお話をお聞きしました。

低速型エレベーターのエネルギー消費量は70年代の3割以下になるなど大きく進化

毎日のように利用しているエレベーターですが、どんな仕組みで動いているかよく知りませんでした。まずは基本的なエレベーターの仕組みを教えていただけますか。

石川さん:現在の一般的なロープ式エレベーターはつるべ式の構造で、ワイヤーロープで人が乗るカゴを吊るし、反対側にもおもりを吊るすことで、小さな力で効率よく昇降移動を行うという仕組みです。カゴとおもりの吊り合いがとれた時がエネルギーを最も小さくできます。

なるほど、つるべ式の井戸と基本的な原理は同じなのですね。

SOLAÉ(ソラエ)ショールームの写真
エレベーターの仕組み「つるべ式」のカゴと吊り合いおもりの仕組みを体験できる稲沢製作所内にある「SOLAÉ(ソラエ)ショールーム」
電源制御基板の写真
エレベーターの頭脳部を担う電源制御基板

石川さんは、長年エレベーターの開発に携わってこられたとお聞きしましたが、これまでどのようなお仕事をなさっているのでしょうか。

石川さん:1996年に入社して22年、エレベーターのカゴを上下させる巻上機モーターを制御するインバータ回路や、エレベーターの電源制御基板の開発など、一貫してエレベーターの電気部分の開発をしています。その中で、エレベーターの省エネ機能を今後どうしていくかという方針を検討する仕事をしています。

エレベーターの省エネ性能の開発にも力を発揮なさっているのですね。今のエレベーターというのは以前のものに比べると省エネ性能は進んでいるのでしょうか。

石川さん:昔の機種から考えると大きく省エネ性能が進んでいると言えると思います。一般のマンションなどで使われる低速タイプだと、70年代を100%とすると30%のエネルギーで動くようになっています。

エレベーターが上下する力から発電する「回生エネルギー」を使った創エネ技術を開発

すごい進歩ですね。その中で石川さんが関わっていらっしゃる省エネ技術について少し詳しく教えていただけますか。

石川さん:まず、エレベーターが使うエネルギーはあちこちに幅広く分散しています。エレベーターの長さや大きさ、使う頻度によっても変わりますし、ひとつの省エネ技術だけですべてのエレベーターに有効というものはありません。どういったところを改善していけば消費エネルギーが減るかを測定し、方向性を決めるということからやっています。その中のひとつとして、巻上モーターが動く時に発生する回生電力を使った省エネ技術の開発にも関わりました。

高速エレベーターの制御盤の写真
大掛かりな初期型高速エレベーターの制御盤に比べ(写真赤枠内)、現在は同等機能を有する制御基盤(写真右側)がここまでコンパクトになった

巻上モーターというのはどこの部分ですか。

石川さん:エレベーターに人が乗るカゴやおもりを動かすエレベーターの心臓とも言えるのが巻上機(モーター)です。従来は昇降路上部の機械室にありましたが、薄型化することで、昇降路の中にも納まるようになりました。三菱独自のポキポキモーターを使ったことでモーターをより薄型にすることができましたし、エネルギーの損失を削減し、エレベーターの省エネ化に寄与しています。

巻上機の写真
「ポキポキモーター」を使った巻上機。薄型になり小型軽量化された
ポキポキモーターの写真
三菱電機独自開発の高効率のポキポキモーター

回生電力というのは、車や電車などのブレーキによって発生する回生電力と同じようなものですか?

石川さん:基本は同じですが、車や電車が横移動なのに対してエレベーターは縦移動なので、重力がかかって横移動より大きい電力を生み出すことができます。エレベーターは通常、巻上機によってカゴを昇降させますが、カゴがおもりより軽い状態で上昇する時、あるいはおもりより重い状態で下降する際におもさに引っ張られるような力がかかるとモーターが発電機のような働きをします。この時発生した電力を「回生コンバーター」によって建物内の電源に供給することで水道ポンプや空調などビル内の電力として使えます。以前から大規模ビルでは使われていましたが、小規模ビルに据え付けられる規格型エレベーター「AXIEZ(アクシーズ)」でも選択できるようになりました。

エレベーターが上下することを利用して電気を作れるとは面白いです。作った電気を蓄電したりはしないのですか。

石川さん:蓄電できるタイプもあります。「エレセーブ」というものですが、運転時の消費電力を削減するのに使ったり、停電時にもバッテリーに蓄えた電力だけで約10分間の運転が可能です。

エレセーブの説明の図
省エネルギー形停電時自動運転装置(エレセーブ)

停止中の待機電力を減らしたり、カゴとおもりのバランスを変えて、待ち時間も電力も減らしたりと、省エネ機能も多彩に

「スーパー可変速システム」と「エレベーター行先予報システム」の写真
「スーパー可変速システム」と「エレベーター行先予報システム」※1で待ち時間と乗車時間を短縮

エレベーターは電力をたくさん使うイメージだったのですが、最近はそうでもないのでしょうか。

石川さん:これもエレベーターの仕様によって大きく異なるのですが、たとえばマンションのエレベーターなどの場合は、瞬間的には数キロワット使いますが、止まっている時は大きさの割には少なく100ワット程度、つまり液晶テレビを映している時ぐらいの電力しか使っていません。

止まっている時は、そんなに消費電力が少ないのですね。

石川さん:マンションなどはエレベーターが止まっている時間が長いので、停止中に使わない機能をなるべく止めるようにしています。換気ファンや照明を止めて待機電力を減らしたり、照明をLEDにしたり、ボタンや表示類も明るさを暗くしたりと、省エネの工夫をいろいろ積み重ねています。また、カゴが空の時の消費電力が下がるようにカゴとおもりのバランスを変えています。

カゴとおもりのバランスを変えるというのはどういうことですか。

石川さん:最初にお話したようにエレベーター積載の半分になったときにカゴとおもりが最大のバランスがとれるのですが、これを少しずらしています。マンションではカゴが空のことが多いので、重量が軽いときのスピードを上げて待ち時間を削減したいと考えたのです。これによって待ち時間を最大で22%削減するとともに、かごが軽い時の消費電力を削減しています。また、おもりのバランス率とは直接は関係ないのですが最大速度を通常の分速60mから分速105mと倍くらいまでスピードアップしています。

スーパー可変速システムを適用した時としない場合との比較の図
スーパー可変速システムを適用した時(赤線)としない場合(青線)との比較
  • ※1 エレベーター利用者がセキュリティーゲートを通る際、社員証などIDカードのセキュリティー情報から、その利用者の行き先階を自動登録し、セキュリティーゲートの表示に乗車するエレベーターの号機を瞬時に表示するシステム
  • ※2 当社計算値です。ご利用状況、建物の仕様により異なります。
  • ※3 マンションの場合。

停電にも対応した安心機能と、ワインが揺れないほどの乗り心地を実現

「アクティブローラガイド」の仕組みと乗り心地を体験できるシミュレーションをしている写真
カゴの部分の振動を抑える機能「アクティブローラガイド」の仕組みと乗り心地を体験できるシミュレーション

近年は北海道の大規模な停電があったり、気候変動が進んで洪水や大型の台風などもここのところ頻繁にあります。小さなお子さんや高齢者も高層マンションに住んでいることもあり、エレベーターの利用に関しても閉じ込められたりしないか心配です。

石川さん:停電に関しては、停電時にエレベーターを動かす手段を設けなさいと法律が定められたこともあって、最近の機種は停電でも動くように何らかのバックアップ装置をつけるようになっています。それによって、少なくとも最寄りの階までは動かせるようになっています。また、先ほどお話した回生電力を蓄電池にためるエレセーブによって、停電になっても10分間は目的階まで動かせるようになっています。

なるほど、最近のエレベーターは停電に対しても配慮されているのですね。エレベーターは人が乗って利用するものなので、どのように安全性が保たれているのか気になっています。

石川さん:はい、安全性に関しては何重もの機能で担保されています。何かの異常があった時にはセンサーが作動してモーターを動かすインバータを止めると同時にブレーキをかけます。万が一ロープが切れてもかごに取り付けられた非常止め装置が働きますし、昇降路の上下端にはバネやダンパーなどでカゴの速度を和らげるバッファーと呼ばれる緩衝器が備わっています。

石川さんの写真

この稲沢製作所で設計・製造されたエレベーター・エスカレーターは国内だけでなく世界90カ国を超える国でも使われ、また国内でのシェアも長年トップとお聞きしましたが、国内外を問わず選ばれている理由はどのあたりにあると思いますか?

石川さん:やはり、品質、信頼性、乗り心地に違いがあるかと思います。もちろん先ほどお話したように安全性も最大限に考えられています。乗り心地では、カゴの揺れを検知するセンサーがついていて、振動と逆方向の力をカゴに加えることで揺れを抑える「アクティブローラーガイド」(高速エレベーターの機能)が働きます。これは、ワイングラスに入ったワインが揺れないほどの性能です。このセンサーの基板の最初の開発を担当しましたが、感度が高いセンサーで、外でトラックが走っても実験室で揺れを感知してしまうのでなかなか基板の性能を測ることができないほどでした。

縦の交通、エレベーターで環境負荷の少ない製品づくりに貢献したい

石川さんの写真

お仕事では省エネ機能の開発など、長年環境にもかかわる研究開発をなさっていますが、普段の生活でもご自身が環境のために実践したり、ご家族で取り組まれていることはありますか。

石川さん:数年前に自宅を購入したのですが、その際にZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)にしました。家の断熱性能を高めて、太陽光パネルを載せることで、家庭の消費電力より、太陽光発電の発電量の方が多くなっています。また、車で遠出をする時は燃費を意識した運転にチャレンジしたり、ゲーム感覚で楽しんでいます。

ご家族とご旅行に行くことも多いとお聞きしたのですが、自分が開発にかかわったエレベーターを見に行くこともありますか。

石川さん:ありますよ。特に開発したものに乗る時はうまく動くかなと緊張します。ドバイにあるホテル「ブルジュ・アル・アラブ」の高速エレベーターにも乗ってみました。

確かに海外ではビルの高層化が進んでいますから、安全で速い、省エネで乗り心地がいいというエレベーターはビルそのものの価値を高めますね。

最後に、三菱電機グループは、「エコチェンジ」を環境ステートメントとして掲げていますが、昇降機の分野では「エコチェンジ」にどのように貢献することができると思いますか。

石川さん:エレベーターは車などと違って縦の交通を担う乗り物です。この縦動きの交通で省エネに貢献できたらと思います。今までもさまざまな技術を使って消費電力を下げてきましたが、まだまだやれることがあると思っています。消費エネルギーの削減はもちろんですが、新しく作るエレベーターの材料の削減やリサイクル材料に変えることや、今ある既存エレベーターでも、更新が必要な部品だけを取り換える「モダニゼーション」での省資源化も大きなテーマです。これからも環境負荷の少ない製品作りで貢献していきたいと思っています。

SOLAÉショールームの外観の写真
「SOLAÉショールーム」には国内外からの視察が絶えない

エレベーターの製品開発に22年かかわる石川さん。エレベーターの要素をどんな風に構成すると性能やエネルギー効率が良くなるのかを考えるのが好きでそこにやりがいを感じると、根っからの開発者です。お話してくださる姿はとても落ち着いていますが、製品開発の話になるとその情熱がひしひしと伝わってきました。国内シェアトップを走る三菱のエレベーターですが、石川さんのような方々の熱い開発者魂が製品の品質を支えているのだなあと納得しました。