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くらしのエコテクノロジー くらしのエコテクノロジー
vol.9
コード付き掃除機と遜色ない吸引力 省エネに関してはまだまだ進化の余地はある
三菱電機ホーム機器 家電製品技術部 クリーナー技術課 山岸 直樹
技術編

コード付き掃除機と遜色ない吸引力
省エネに関してはまだまだ進化の余地はある

2019.06.06

掃除機は洗濯機と並んで、忙しい主婦の強い味方となってくれる家電です。以前はキャニスタータイプと呼ばれる、床の上をコロコロ動かす掃除機が主流でしたが、最近はコードレスで気軽に使え、デザインも優れたスティッククリーナーが人気です。そこで、長年掃除機の製品開発に携わってきた三菱電機ホーム機器株式会社クリーナー技術課の山岸直樹さんに、最新のスティッククリーナー「iNSTICK ZUBAQ」に搭載されている新技術やエコにつながる使い方などをお聞きしました。

コンパクトで強い吸引力を実現するために開発した新モーターを搭載

ZUBAQは、他社製品と比べて小さくて軽いのに吸引力がとても強いことが特長ですよね。モーターが違うのではないかと思いますが、そのあたりについて教えてください。

山岸さん:キャニスタータイプ(従来型掃除機)のモーターはコンセントからのAC電源で動きますが、コードレスで動くスティッククリーナーのZUBAQでは、バッテリーのDC電源で動くJCモーター(DCブラシレスモーター)を採用していることが最大の違いです。キャニスタータイプでは本体が大きいのでモーターの回転数が少なくてもある程度の風量が確保できますが、スティッククリーナーは小型軽量化がトレンドで、風量を稼ぐには高回転で回す必要があります。ZUBAQでは最大1分間に12万5,000回転するJCモーターを採用しています。

山岸さんが持っているものが最新のスティッククリーナー「iNSTICK ZUBAQ」(写真中央)のモーター部。キャニスター式と比べるとZUBAQのコンパクトさが伝わってくる
山岸さんが持っているものが最新のスティッククリーナー「iNSTICK ZUBAQ」(写真中央)のモーター部。キャニスター式と比べるとZUBAQのコンパクトさが伝わってくる
手前が新開発のJCモーター。1分間に最大12万5,000回転という高速回転を実現
手前が新開発のJCモーター。1分間に最大12万5,000回転という高速回転を実現

1分間に12万5,000回転というのは、どこの部分の回転数ですか?

山岸さん:羽根の部分が1分間に最大12万5,000回転で回っています。それから、吸い込みのところでは、従来のキャニスタータイプに比べてパワーブラシと床面との密閉度を高めて真空度を向上させ、ゴミを吸い上げる力を高めています。

試行錯誤により生み出されたハンディクリーナーとスティッククリーナーの使い分け機構

質量が軽いことも魅力ですが、材質にも秘密があるのでしょうか?

山岸さん:はい。最近は他社さんも含めて炭素繊維入りポリプロピレンを使うところが増えています。強度を確保しつつ薄肉化が可能になり、軽量化を実現できます。

山岸さんが指さしている部分に炭素繊維入りポリプロピレンが使われている
山岸さんが指さしている部分に炭素繊維入りポリプロピレンが使われている

炭素繊維入りポリプロピレンはどこに使われているのでしょうか?

山岸さん:ハンディ部分ではハンドルの茶色い部分と、それと吸口のパイプ部分と延長管の茶色い部分に使われています。

実際に使ってみると吸引力が強く、キャニスタータイプと比べても遜色がないと思いましたが、その秘密を教えていただけますか?

山岸さん:ポイントとしては最大毎分12万5,000回転する新開発のJCモーターを搭載している点と、大容量バッテリーを使っているという点、床ブラシが電動で回るパワーブラシという点。それから、サイクロンボックスもキャニスタータイプで使われていた風神サイクロンテクノロジーという遠心分離集塵方式を採用しています。その4点が組み合わさって、キャニスタータイプに負けない高吸引力を実現しています。

「JCモーター」を動画でご覧になれます
コンパクトで高性能な新開発のJCモーターを搭載
コンパクトで高性能な新開発のJCモーターを搭載

吸引力が高いだけでなく、使い勝手も優れています。特に苦労した点はなんでしょうか?

山岸さん:従来のiNSTICKをより進化させるため、フルモデルチェンジ製品として開発しました。従来のスティッククリーナーの不満点を調べ、どこを改善すればより使いやすくなるかということに注力しました。ZUBAQでは、充電台から真上に持ち上げるとハンディクリーナーに切替えられ、手前に引くとスティッククリーナーとして使えるという機構を採用していますが、その仕組みを本体の設計担当者と充電台の設計担当者がアイデアを持ち寄り、試行錯誤しながら実現しました。そこが一番苦労した点ですね。また、ハンドルの形状も従来のiNSTICKはストレートだったのですが、ラウンド形状にして部品のレイアウトを見直したことで手にかかる負荷を低減しています。

真上に持ち上げると上半分が分離し、ハンディクリーナーとして利用できる
真上に持ち上げると上半分が分離し、ハンディクリーナーとして利用できる
手前に引くとスティッククリーナーとして利用できる
手前に引くとスティッククリーナーとして利用できる

90分間の急速充電を実現した充電台

ZUBAQは全体的に小さく、バッテリーもかなりコンパクトだと思いますが、充電時間も90分とかなり短いですよね。90分充電で標準モードなら40分間も使えるということですが、そのあたりも工夫されているのでしょうか?

山岸さん:一般的なスティッククリーナーでは本体に電源ジャックの穴が開いていて、ACアダプターの電源プラグを差し込む方式が主流ですが、それだと流せる電流が限られてしまいます。この製品では充電台がありますので、充電台に搭載されている基板で大電流を作り、それを供給できるので、大容量バッテリーでも90分という急速充電を実現できています。

手前が充電台の中にある基板。この基板も三菱電機が独自に設計している
手前が充電台の中にある基板。この基板も三菱電機が独自に設計している

バッテリーは繰り返し充電しているうちに、だんだん持たなくなってきますよね。でも、このバッテリーは、1,000回以上繰り返し充電できますよね。

山岸さん:1,500回の繰り返し充電が可能な電池を採用しています。当社が採用している電池は、空の状態から満充電という繰り返し充電試験を1,500回しても、初期の60パーセント以上の容量を確保しています。

例えば、3分くらいでさっと掃除して終えてから充電したというのも1回としてカウントされるのですか?

山岸さん:リチウムイオン電池にはメモリ効果はないので、3分だけ動かした後にまた充電して100パーセントにするというのは、1回のカウントよりは少なくなります。

バッテリーも小さくて軽いと思うのですが、バッテリーも独自で開発されているのですか?

山岸さん:そうですね。この電池のレイアウトも当社で決めています。他社さんはバッテリーを取り外しができるように掃除機の外側に電池パックが装着されていますが、当社の製品ではバッテリー感を出さないデザインにもこだわっていまして、このダクトの部分に収まるような電池の配列を考えて、今回はこの三角形状を2列並べています。掃除機の中に電池が埋め込まれていて、外観上はわからないように工夫されています。

通常の掃除なら標準モードで十分、さらにエコな節電モードも

主婦としては、エコにつながる使い方を教えていただきたいです。

山岸さん:フローリングや畳なら高吸引力で運転させなくても、十分床からゴミをピックアップできるので標準モードにてお掃除いただき、毛足の長い絨毯などは奥深くまでゴミが入っているので強モードの大風量でゴミを吸い上げるという使い方をしてもらえばいいと思います。さらに当社の製品は節電モードを搭載しております。掃除を一時中断する場合は感振センサーにより掃除の中断を検知してパワーダウンし、また掃除が開始されるとパワーアップするというモードもあります。

キャニスタータイプと今のZUBAQ。キャニスタータイプの風神は吸引力がとても強いと思いますが、どのくらい差があるのでしょうか?

山岸さん:実際に掃除機に延長管と床ブラシをつなげた状態で試験をすると、さほど変わりはないです。当社は全体的なバランスが良くなるように床ブラシの設計や本体のゴミを吸い込む風の量を調整しているので、特段キャニスタータイプのほうがいい、スティックタイプのほうがいいというところはないです。特にこのZUBAQはキャニスタータイプ並み、それ以上の吸引性能があるという試験結果もあります。

昔のスティックというか、コードレスクリーナーは吸引力が弱かったですよね。そこから飛躍的に吸引力が強くなった理由はなんでしょうか?

山岸さん:やはり、電池の進化が一番大きなポイントだと思います。大容量電池が作れるようになったことでモーターに大電流を流せるようになり、風量を増やすことができるようになりました。昔のコードレスクリーナーはニッケル水素電池を使っていたので、あまり大きな電流を流せませんでした。最近は電池も進化し、それに対応した小型の高回転モーターの開発に成功したことが重なって、吸引力が大きく向上したと思います。

その中でも、このZUBAQはクリーナーの中でシェアが大きく向上しているというお話を聞いたのですが、その理由はなんだと思われますか?

山岸さん:本体重量が1.8kgと軽いにもかかわらず、吸引力が強いところだと思います。やはり掃除機の本質は、ゴミを吸引することにあると思います。電源コードが必要な掃除機ですと部屋を移動するたびにコードを抜いて挿す必要があるので、コードレスクリーナーを選ぶお客様が増えています。当社のZUBAQは軽くて掃除がしやすい、さらに吸引力も強いというところがシェアアップにつながっていると思っています。

広いリビングも、手軽にらくらくお掃除
広いリビングも、手軽にらくらくお掃除

クリーナーは昔からある家電ですよね。紙パック式からサイクロン式へとか、そういう進化はありましたが、消費電力はそう変わっていないと思います。逆に、昔は500Wくらいが主流でしたが、最近は吸引力の向上に伴って800Wとか1000Wとか、むしろ増えています。今後は吸引力を保ったまま省エネを実現する技術も出てくるのでしょうか?

山岸さん:最近の掃除機はもう十分な吸引力を確保できています。だから、センサーを使って自動的に床面とかゴミの量を検知し、掃除機が自分で判断してパワーをコントロールすることで、コードレスタイプなら電池の無駄遣いを防ぎ、コード付きのキャニスタータイプなら電気代を節約するということに関しては、まだまだ進化の余地はあると思っています。

本体にリサイクル素材も採用

リサイクル素材が使われているのは、どのようなところでしょうか?

山岸さん:この緑色が電池のセルと呼ばれますが、セルを保持しているホルダー部品。この黒い部品です。手前側と後ろ側のこの2つの部品がリサイクルのポリプロピレンを使っております。また、外からは見えないのですが、掃除機本体の中にも同じようにリサイクルのポリプロピレンの部品が1つ使われています。

山岸さんが指さしている黒い部品にリサイクルのポリプロピレンが使われている
山岸さんが指さしている黒い部品にリサイクルのポリプロピレンが使われている

色がついている部品は基本的にリサイクルできないものなのですか?

山岸さん:そうですね。リサイクル品の樹脂としてはやはり黒色系が多いです。リサイクルをすると黒点が出たり、異物がちょっと入ったりしてしまうんです。真っ白のリサイクル樹脂ではその黒点が目立つので、リサイクル樹脂は黒色系が中心となっています。

それは黒点が気になるから使えないということですか?

山岸さん:はい、外観ですと異物が入っていると思われることもあるので、内蔵部品に多く使われています。

強度などに差はないということでしょうか。

山岸さん:リサイクル材料の物性は材料メーカーから、例えば、強度ならいくつからいくつという範囲を提示してもらっており、該当部品にかかる力が物性データと比較して問題ないか検証して採用しています。

それなら消費者の理解が進めば、もっといろいろなところに使えるということですよね。強度は変わらないけど、ちょっとポツポツが見えるくらいというのが周知されれば。トイレットペーパーでも、リサイクル品は真っ白ではないですが、それを納得して買っているので、いずれ家電もそういうふうになるといいですよね。

山岸さん:そうですね。最初から黒色のデザインで開発すれば、外観でもリサイクル樹脂を使えると思います。

他にエコを意識して開発された点はありますか?

山岸さん:最近、開発で自ずとエコにつながっているのは、掃除機が小さく軽くなったことです。昔の掃除機と比べて使っている樹脂の量も減っていますので、樹脂を作る段階や廃棄の時も発生する二酸化炭素は減っているというところはあります。昔に比べてリサイクル素材も採用できる部分は採用しようという動きになっています。あとは梱包もなるべく梱包材を減らしたいと思っていますので、そういう部分も環境を意識した設計にしています。

10年前に比べて掃除機の重量は約半分に

昔の掃除機は確かに大きくて重かったです。技術力が向上して、部品の数も減ってきたということでしょうか?

山岸さん:部品点数の削減もありますし、過剰品質の適正化もあります。パソコンで構造解析をして、どのくらいの力がかかるからどのくらいの厚みなら大丈夫かという解析をおこない、樹脂の厚みを過剰に厚くせずに適正化して薄くするということも軽量化に貢献しています。

例えば10年くらい前の掃除機と今の掃除機を比べると、どれくらい軽くなっているのですか?

山岸さん:10年くらい前の掃除機では、本体重量が5kgくらいありましたが、最近の掃除機は強度を保ったまま2.5kgとか2kgくらいになっていますので、約半分です。

そんなに軽くなったのですね。ZUBAQに搭載されている最新技術やエコへの取り組みがよくわかりました。掃除機の今後の進化が楽しみです。本日はありがとうございました。

これまで掃除に関して「エコ」について考えたことはありませんでしたが、山岸さんの話を聞いて、まだまだ進化の余地があることを知りました。10年前と比較して本体自体の軽量化も進んでおり、リサイクルされる部品も増えているのですね。日常で欠かすことができない掃除機。コードレスで使えるスティッククリーナーが人気となり、今後もまだまだ新しい掃除機が生まれそうなので、ワクワクしています。