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くらしのエコテクノロジー くらしのエコテクノロジー
vol.8
軽やかで省資源なクリーナーへ、設計のヒントは家庭にも社会にも
三菱電機ホーム機器 家電製品技術部 クリーナー技術課 山岸 直樹
人物編

軽やかで省資源なクリーナーへ、設計のヒントは家庭にも社会にも

2019.05.14

三菱電機ホーム機器は、クリーナーをはじめ炊飯器やIHクッキングヒーター、除湿器など、私たちの生活に身近な生活家電やキッチン家電、空調家電を製造しています。埼玉県北部の深谷市を拠点とし、豊かな自然も残るこの場所に約900人の社員が働き、一貫して製品の製造・開発・提供を行っています。ここは三菱電機ならではの技術を生かして「小型・軽量」、「高性能」で「省資源」、「省エネルギー」に配慮した家電製品を開発する現場ですが、山岸さんはクリーナー分野でそれを先頭で行っている技術者です。ご自身の環境への想いや暮らしがどのように製品開発につながっているのでしょうか。ニーズが大きく変化するクリーナー市場での製品開発への取り組みについてお聞きしました。

製造ラインからの意見もフィードバックして開発

クリーナーの製造開発に携わって8年ぐらいということですが、現在山岸さんは具体的にどのようなお仕事をなさっているのでしょうか。

山岸さん:クリーナーの開発設計は大きく分けると構造と制御チームに分かれるのですが、私は製品の見える部分、つまり構造の設計をしています。今はスティッククリーナー「iNSTICK ZUBAQ」の構造設計に関わっています。

山岸さん
「開発段階から量産に入った製品を実際にすぐに見られるのはやりがいにつながる」と話す山岸さん
iNSTICK ZUBAQ
山岸さんが開発にかかわるスティッククリーナー「iNSTICK ZUBAQ」

具体的にはクリーナーのどんな部分を設計しているのでしょうか。

山岸さん:スティッククリーナーの本体部分と集塵部分、延長管などの部分です。モーター部分はモーター技術課が開発していますが、どうすればモーター部分がうまく収まるかなど、部門を超えて話し合って調整することもあります。

お仕事で一番やりがいを感じることはどんなことでしょうか。

山岸さん:やはり、量販店に並んでいるたくさんのクリーナーの中から実際にお客様がうちの製品を選んで使ってくれることでしょうか。また、弊社は設計部隊だけでなく、実際に製品を製造する工場がありますので、実際に作る過程も見られます。自分が作ったものが形になって見ることができるのも、やりがいにつながります。他のメーカーさんでは設計は国内でも、生産は中国など海外で行われるところが多いですから。

なるほど、家電品の開発から製造、管理、営業まですべて同じ場所で一貫して行われるというのは製品への信頼性につながりますね。製造ラインから製品についての意見を直接もらうこともありますか。

山岸さん:もちろんあります。開発の段階で工作ラインの作業者に実際に製品を組んでもらうこともありますし、そういう場合は「ここを改善すれば組み立てやすく、時間も短縮できる」という形状への具体的な意見をもらうことも多いです。また、「社内モニター制度」というのもあり、社内の会議室などで開発中の製品を実際に使ってみてもらい、意見を聞くこともあります。

そういった製造のしやすさというのも設計上重要なポイントなのでしょうか。

山岸さん:はい。組み立てやすいのはもちろんですが、分解しやすいというのも重要な部分です。三菱電機は修理センターを持っており、故障の際に分解・組立がしやすければ短時間で修理も可能ですし、なるべく部品交換が最小限で済むようなことも考えながら設計を行っております。

暮らしの中にこそ開発のヒントが見つかる

ゴミ捨てのしやすさの追求など、ユーザー目線の使いやすさには家族の意見もヒントに
ゴミ捨てのしやすさの追求など、ユーザー目線の使いやすさには家族の意見もヒントに

家庭用クリーナーの分野ではお客様のニーズはどのように変化していると感じていらっしゃいますか。

山岸さん:最近ではコードレスクリーナーが従来のコード付きのキャニスタータイプ(従来型掃除機)を逆転する勢いで伸びています。

それはどうしてでしょうか。

山岸さん:以前、コードレスタイプはキャニスタータイプに比べて吸引力が劣ってしまうという課題がありましたが、吸引力も遜色ないようになってきました。もちろんコードがないので使い勝手がよく、手軽にすぐに掃除できるという点が消費者に評価されているのだと思います。

コードレスで小型・軽量化したことで、階段などの上下移動しながらの掃除も負担がない
コードレスで小型・軽量化したことで、階段などの上下移動しながらの掃除も負担がない
サイクロンボックス(集塵部)もスモーク加工を施すなど、クリーナーに見えないようなスタイリッシュなデザインを意識して開発
サイクロンボックス(集塵部)もスモーク加工を施すなど、クリーナーに見えないようなスタイリッシュなデザインを意識して開発

コードレスタイプのクリーナーの開発でこだわった部分はどのような部分でしょうか。

山岸さん:キャニスタータイプは集塵部やモーターや電源コードが掃除機本体に収納されていますが、床面を移動するので手に重さの負荷があまりかかりません。一方、コードレススティックは手元にモーターと電池があるので、重さが直にかかってしまいます。ですから、より軽量化しないといけないという課題があります。また、ZUBAQは「リビングに出しておけてさっと使える」をコンセプトにしているので、あえてクリーナーっぽく見せないというところを意識して、デザイナーとデザインを考えました。

なるほど、使い勝手、手軽さ、デザイン力で差別化しているのですね。環境や省エネという部分でのクリーナーに対してのお客様のニーズというのも変化していますか。

山岸さん:冷蔵庫やエアコンのように長時間使うものではないので、クリーナーそのものへの省エネの意識はそれほど高くないように思います。でもコードレスタイプは電池の運転時間が限られてしまうので、電池切れをする前に掃除を終わりたい、無駄な電力は抑えつつ掃除したいというニーズは確実にあります。そのためZUBAQには節電モードを搭載しています。これは手元の動きを検知し、掃除を中断・再開したときなどに自動的にパワーをコントロールするという機能です。

ご家庭でも御社の製品を使っているとお聞きしましたが、それがお仕事に役立つこともありますか。

山岸さん:自社製品を家で使うと、「ここを改善しないといけないな」と自分で使ってみて肌でわかることがあります。また家族の意見も重要ですね。自分は毎日クリーナーと向き合って開発しているので頭が固まってしまうところがあるのですが、自然に使ってもらえる人の意見は重要だと思います。

持ちやすく、手元の負担を軽くなるように工夫したラウンド形状のハンディ部分
持ちやすく、手元の負担を軽くなるように工夫したラウンド形状のハンディ部分

たとえば、どんなことに気づいたりしましたか?

山岸さん:そうですね、部品のセットのしやすさだったり、こうした方が手首の負担が少ない、にぎりやすいなとか。また家族からは、「ゴミが捨てにくい」という意見が出たこともありました。そういった意見も、いち早く製品改良に役立てています。

クリーナー以外の家電なども参考にすることはあるのでしょうか。

山岸さん:クリーナーだけでなく自社の炊飯器や除湿器を使っているのですが、ボタンのところや部品と部品をどのようにくっつけているのかとか、除湿器のタンクはプラスチック製ですが、そのプラスチックが反らないようにどんな工夫があるのかなど、構造上気になる部分は参考にしています。

クリーナーの小型化で資源量は半分に

御社のかかげる環境のスローガン、エコチェンジでも「低炭素社会」や「循環型社会」についてお仕事で取り組まれていることはありますか。

山岸さん:先ほどお話ししたように、クリーナーの小型、軽量化傾向が強まっているのに合わせて、使う資源の量が減ってきています。たとえば、クリーナーはプラスチックの使用量が多いのですが、2年前のクリーナーと比べると質量が約半分ぐらいになってきています。

小型・軽量化しながらも吸引力には遜色がない製品づくりを課題に研究開発
小型・軽量化しながらも吸引力には遜色がない製品づくりを課題に研究開発

先日、この「くらしのエコテクノロジー」の取材で千葉のハイパーサイクルシステムズ に伺って様々な家電品のリサイクルの現場を見てきたのですが、クリーナーにもリサイクルされたプラスチックは使われていますか。

山岸さん:はい、リサイクル樹脂のペレットを購入して、それを成型部品にしています。ZUBAQにも内部ですが3部品でリサイクル部品を使っています。

プラスチック以外にも資源を減らしているものはありますか。

山岸さん:モーターや基板部分も小型化されていますので、リード線などそれを構成する資源は全体的に省資源化されていると思います。

電池についてはどうでしょうか。

山岸さん:今回の製品の電池は従来の製品より大容量にしていますが軽量化も併せて考えています。充電性能についても電池が空の状態から満充電までを1500回テストして、初期の60パーセント以上の容量を確保しています。これは他社に比べるといい電池を使っている、というか「いい制御をしている」と言えると思います。

掃除途中で充電しなければならないのはストレスになりますね。

山岸さん:うちは2階建てですが、標準モードなら40分連続運転が可能ですので、1階から2階まで続けて掃除しても電池切れをしたことはありません。省資源、軽量化は実現しながらも吸引力や電池の使用時間などは妥協しないことを目指しました。

環境のためにひとりひとりができることを積み重ねる

山岸さん
「夏はより暑く、冬は寒くなり、気候変動を肌で感じることもある」と山岸さん

環境のことで興味や関心をもっていることがあれば教えてください。

山岸さん:環境問題ではプラスチックごみによる海洋汚染に関心を持っています。インターネットで海外の海がプラスチックごみで埋め尽くされている写真を見て衝撃を受けました。家電製品にも多く使用されているプラスチックが細分化されたマイクロプラスチックを魚がエサと勘違いして食べてしまい、発育不全になってしまったり、生態系が崩れてしまったり、最終的には食物連鎖で私たちまで口にする可能性があるということで、個人的にも大きな問題だと認識しています。

本当にプラスチックゴミの問題は世界的に注目を集めていますね。そういった危機感からご自身が環境のために実践していることはありますか。

山岸さん:実践していることは、まずはスーパーで袋をもらわない、ペットボトルではなく水筒にするとか、できるところからやっています。それと、入浴する時はなるべく時間を空けないで入るとか、洗濯にお風呂の残り湯を使うことも。普段の生活では車を毎日のように使うので、余計な荷物を載せないことや、空気圧をきちんと調整する、なるべく急発進しないことなどを気にかけています。ガソリンも限りある資源のひとつなので、少しでも使用量を減らしたいと考えています。

お仕事する時に何か気を付けていることはありますか。

山岸さん:クリーナー技術課が主催する会議では、なるべくペーパーレス会議にしています。会社としても会議室にプロジェクター、ディスプレイを設置してもらっていますし、会社全体でもペーパーレス化は浸透しつつあるのではと思います。それと離席する時は必ずディスプレイの電源を切るようにしています。

確かに小さなことでも皆がやれば大きな効果につながりますね。持続可能な社会のために、ご自身の生活でも今後取り組みたいことなどがあれば教えてください。

山岸さん:まずは一人一人が地球の環境問題を意識することが大事だと思います。環境の問題というのは可視化しにくいものなので、意識しにくい問題なのではないかなと思います。やらなくてもあまり自分の生活に支障がないので。ですから個人でも社会全体でも今まで以上に地球環境問題に対して意識を高め、その中で先ほどお話ししたような小さなことでも1人1人が行なうようにしていくべきだと思います。

お仕事ではどうでしょうか。環境課題に対して今後取り組みたい、重視したいことはありますか。

山岸さん:仕事では廃棄物の分別を材料ごとにしっかり取り組みたいと考えています。今でも10種類以上に分別していますが、資源は資源として使える形で循環させるということをさらに徹底させていきたいです。

設計者ならではの視点とアンテナを常に持ち続けている山岸さん。家庭でも社外でも家電製品の構造のことがつい気になってしまうようで、その視点が次の商品設計に良い形で生かされているということがお話を聞いていてよくわかりました。環境に対してできることを積み重ねる姿勢は見習うこともたくさん。これまでの小さな積み重ねが今になって大きな環境の変化を生んでいるため、これからは山岸さんのように環境問題を自分事としてとらえ、小さなことを少しでも積み重ねていくことが大事なのではと思いました。