2026年10月30日
お客様の困りごとに耳を傾け、営業とエンジニアが一体となって磨き続ける3次元計測アプリ「Rulerless」
工場に設置する設備のサイズを測りたい、オフィスに導入する什器の搬入経路を測りたいといったニーズは多く存在します。しかし、従来はメジャーや写真での計測が中心で、計測漏れや撮り忘れなどが発生していました。この課題を解決するソリューションとして開発・リリースしたのが「Rulerless(ルーラレス)」です。Rulerlessは、損害保険会社が行う浸水被害状況調査を効率化したいというニーズから生まれたもので、スマホで周囲の空間を3次元(3D)モデル化し、指定した2点間の長さを手軽に計測できるアプリです。リリース後も営業部門がお客様の声を直接取り入れながら機能強化を続けてきました。現在はユースケースも拡大し、製造業、建設業、物流業、流通業など幅広い業界で採用が進んでいます。様々な業界の課題解決に向けて、Rulerlessは進化を続けています。
損害保険会社の浸水被害状況調査を効率化するためにサービスを企画
3次元計測アプリ「Rulerless」は、iPhone/iPad※のLiDAR(ライダー)スキャナーを活用し、3D空間を手軽にモデル化できるアプリ。iPhoneで動画を撮るようにスキャンするだけで3Dモデルが自動生成され、測定したい2点をタップすると空間の幅や物体の大きさ、距離などを計測できる。
Rulerlessで生成した現場や設備の3Dモデルは、クラウドにアップロードすることでPCのブラウザーからも確認でき、社内外でのスムーズな情報共有が可能になる。また、3Dモデルは、様々な3Dソフトウェアで利用できるOBJ形式での出力も可能だ。3Dモデリングソフトなどに取り込むことで、設計検討やプレゼンテーション資料の作成にも活用できる。
金融営業部の甲斐は、入社以来、金融業界のアカウント営業として損害保険会社のお客様と接してきた。その中で、現地被害調査に関するニーズを聞き、浸水被害調査を効率化できないかと考えたことが、Rulerless開発のきっかけとなったという。
「損害保険会社では、水災に対する保険金を算定するため、調査員が現地に出向いて建物のどの高さまで浸水したかを一軒ずつメジャーで計測・記録します。しかし、現場の状況や浸水高によっては計測が難しいケースもあります。調査員の数が限られる中、1日に調査できる件数は決して多くありません。以前から、この業務を効率化したいというお話を伺っていました」(甲斐)
甲斐がエンジニアチームに現場の課題を相談したところ、開発チームはスマートフォンなどに搭載されたLiDARスキャナーを活用して計測をデジタル化するというアイデアにたどり着いた。「LiDAR」は、レーザー光の反射を利用して対象物までの距離や空間の形状を高精度に把握するセンシング技術である。従来のLiDAR計測器は高価で扱いが難しい専門機材だったが、スマートフォンへのLiDARスキャナー搭載により、低コストかつ手軽に計測できるようになった。
「開発のきっかけは、浸水高の計測を実現する技術を探す中で、三菱電機 情報技術総合研究所(以下、情報総研)が持つ『3次元形状再構築技術』を見つけたことでした。この技術は、LiDARで取得した点群データに面情報を付与することで対象物全体の3Dモデルを生成し、壁面や床面などの平面を検出するものです。検討開始時に、iPhoneにLiDARスキャナーが搭載されたというニュースを目にし、これなら実現できると考えました」(甲斐)
- 対応機種はiPhone 12 Pro/Pro Max、13 Pro/Pro Max、14 Pro/Pro Max、15 Pro/Pro Max、16 Pro/Pro Max、17 Pro/Pro Max、iPad Pro 11インチ(M5、M4、第4/3/2世代)、iPad Pro 12.9インチ(第6/5/4世代)、iPad Pro 13インチ(M5、M4)(2026年8月時点)
アプリの画面作成や3Dモデルをクラウド上で共有する領域で技術力を発揮
Rulerlessの開発は、情報総研と三菱電機デジタルイノベーションが共同で進めた。3Dモデルを生成する技術領域は情報総研が担当し、アプリの操作画面や3Dモデルをクラウドで共有する領域は三菱電機デジタルイノベーションが担当した。スマートフォンアプリの開発について、金融サービス開発課の平田は次のように説明する。
「LiDARスキャナーで取得したデータを点群化する領域では、自己位置推定と環境地図の作成を同時に行うSLAM技術のライブラリーとしてRTAB-Mapを採用しました。点群データとカメラ画像を組み合わせてスマートフォン画面に表示する際は、ユーザビリティを考慮し、データサイズやファイルの出力形式を最適化しました。クライアントサーバー型システムやWebシステムの開発を得意とする開発チームにとって、スマートフォンアプリの開発はほぼ初めての挑戦でした。そこで、iPhoneアプリ開発に用いるプログラミング言語、Swiftを学びながら、ノウハウを蓄積していきました」
開発では、技術的な実現性だけでなく、実際の現場での使いやすさを重視した。営業担当から共有された利用場面をもとに、スキャンのしやすさや3Dモデルの見やすさ、データ共有の操作性を検討し、試作と改善を重ねていった。「新しい技術を使うこと自体が目的ではありません。お客様が現場で迷わず使え、取得したデータを次の判断に役立てられることが大切です」(平田)
iPhone内に生成した3Dモデルをクラウドで共有する機能には、三菱電機デジタルイノベーションのノウハウが存分に生かされている。平田は次のように語る。「Webシステムの開発では、標準的な技術の採用を心がけています。今回はクラウドとしてアマゾン ウェブ サービス(AWS※)を採用し、一般的なHTMLやJavaScriptを用いて構築しました。セキュリティーを考慮して2要素認証を実装しましたが、これもAWSの標準ライブラリーを用いて組み込んでいます。要素技術は、お客様の要望に合わせて幅広く検討し、最適なものを選択することが開発チームのポリシーです」
- AWSはAmazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
営業がお客様の課題を捉え、開発チームと共有しながら機能を強化
2024年5月に正式リリースして以降も、開発チームは継続的に新機能を開発し、3Dモデルの部分抽出機能、複数3Dモデル合成、コメント付与機能、写真データ添付機能などを順次追加してきた。これらの機能は、営業担当者がお客様の要望を直接ヒアリングし、エンジニアへ直接フィードバックすることで生まれたものがほとんどで、現場で得た気づきが新たな機能のアイデアにつながっている。
お客様の要望を探るため、甲斐は日本全国のお客様先を訪問しながら、新たに実現できる機能がないかを常に考えているという。開発チームとは週3回の定例ミーティングで意見交換を行っている。定例ミーティングでは、お客様の要望の背景にある業務上の課題を確認し、機能の優先順位や実装方法を検討している。例えば、部分抽出機能は、必要な箇所だけを共有し、関係者間の確認を円滑にしたいという要望から生まれた。
「お客様の要望をそのまま機能にするのではなく、その背景にある業務や困りごとまで理解して、開発チームに伝えることを意識しています。営業だけでは解決方法を考えきれない課題もありますが、エンジニアと一緒に議論することで、別の解決策が見えてくることがあります」(甲斐)
「実際に使ってみないとイメージしにくいというお客様も多いことから、デモ機の貸し出しやPoC(概念実証)を積極的に実施しています。私たち自身もできる限り現場へ足を運び、使い方を具体的にイメージしていただけるよう心がけています。とはいえ、すべての要望を取り入れるには開発リソースにも限界があるため、市場のニーズを見極めた上で、優先順位に基づき機能強化に取り組んでいます」(甲斐)
機能の追加や改善は、2024年のリリースから2026年7月までに8回実施した。平田は「機能追加のような大きなものから、ボタン配置などのUI改善といった細かなものまで様々です。年4回という限られたリリース機会の中で、どの機能を優先し、いかに間に合わせるかを常に考えながらプロジェクトをマネジメントしています」と語る。
開発マネージャーを務める平田にとって、自社サービスの開発に携われることは、エンジニアとして大きなやりがいにつながっているという。平田は2003年に営業職としてキャリアをスタートし、2016年にSE部門へ異動。インフラ・ネットワークエンジニアや業務システムの開発エンジニアを経て、2026年よりRulerlessの開発マネージャーを務めている。決められた要件に従って開発する従来型のスタイルとの違いを意識しながら、新たなことに挑戦できる喜びを感じている。
「決まった要件がない中で、お客様のニーズをもとに自分たちで要件を掘り下げ、実装方法を考えるやり方は初めての経験であり、とてもやりがいを感じています。一方で、要望どおりに作って終わりではなく、多くの企業に使っていただくところまで考える必要があり、責任の大きさを感じることもあります」(平田)
積極的に情報発信を行いながら活用事例を拡大
Rulerlessは、設備点検・設備設置時の現地調査、工場やプラントにおける設備搬入シミュレーション、建築物・土木構造物の点検、不動産管理、店舗レイアウトの検討など、幅広い業務で活用されている。空間を手軽に3Dデータ化できる特長が評価され、導入実績も着実に増えた。
営業部門ではRulerlessをより多くのお客様に利用していただくために、展示会への出展やウェビナーの開催などを通じて積極的に情報発信している。金融業界のアカウント営業を経て、2025年9月からRulerlessチームに加わった金融事業統括部 金融営業部 第一課の岡崎は、展示会やウェビナーで説明担当を務め、Rulerlessの魅力を伝えている。
「これまで某大手リース会社を中心に、人事領域のシステム営業を担当してきた私にとって、Rulerlessは初めて担当するソリューションでした。これまでアカウント営業で培ってきた課題を深掘りする力やヒアリング力を生かし、お客様の声にしっかり耳を傾けることを大切にしています。お客様の課題やニーズを踏まえてRulerlessの活用方法を考え、一社一社に合わせた提案を行っています。 展示会やウェビナーでは、お客様からいただくさまざまなご質問に一つひとつ向き合い、必要に応じてエンジニアにも確認しながら、丁寧な回答を心がけています。 また、自分自身の知識を深めるために、先輩の商談に同席したり、想定問答集を自ら改善したりしながら、日々学びを重ねています」(岡崎)
Rulerlessを導入したお客様からは、「操作がシンプルで分かりやすい」「現地を再訪問する必要がなくなった」「3Dモデルによって社内説明が分かりやすくなった」といった好意的な声が寄せられている。岡崎は「私が商談を担当し、デモを実施した上で導入いただいた製造業のお客様では、工場への大型機械の搬入経路の確認に活用いただいています。お客様からは、従来のメジャーを使った計測・記録作業の負担を軽減し、業務を効率化できたことや、取得した3Dモデルの範囲であれば、後からPC上で別の箇所も確認・計測できること、遠方の工場まで足を運ばなくても現地担当者へ計測を任せられるようになり、移動を大幅に削減できたことなど、高く評価いただいています」と話す。
物流現場の課題から「積載率計測サービスRulerless Truck」を開発
設備搬入や現地調査で培ってきた空間計測技術は、物流分野にも展開されている。物流現場では、輸送効率の向上に向けて、トラックの積載状況を把握・可視化することが重要だ。こうした課題を受け、Rulerlessの技術を活用した新サービス「積載率計測サービスRulerless Truck」の提供を2026年10月に開始する。
Rulerless Truckは、LiDARスキャナーを搭載したiPhoneでトラックの荷台と積荷をスキャンし、3Dモデル化するサービス。計測データをもとに積載率を算出し、結果をクラウド上で共有できる。荷主と物流事業者が同じデータを確認しながら、輸送効率化に向けた検討を進められる点が特長だ。
Rulerlessで生成した3Dモデルを解析し、積載率の算出や積載状況の可視化を支援する。
「Rulerlessを特定の業界だけのサービスに限定せず、空間を計測・共有する技術を、様々な現場の課題に役立てたいと考えています。お客様との会話から新たな活用方法を見つけ、技術を進化させていくことが、私たちの役割です」(平田)
お客様の声を起点に様々な業界・業務で活用してもらえるサービスへ
今後も営業とエンジニアが連携し、機能や活用方法を磨きながら、様々な業界・業務で活用されるサービスへと進化させていく方針だ。さらに、三菱電機グループが持つ技術やサービスとの連携を通じて、Rulerlessの活用領域を広げていく。
「三菱電機グループは、仮想空間上に工場や生産ラインを3Dで再現し、設備導入や動作を事前に検証できる3Dシミュレーター『MELSOFT Gemini』を提供しています。工場の生産工程を自動化するFA(Factory Automation)領域において、MELSOFT GeminiとRulerlessを連携させることで、機械を設置する現場を3Dモデル化し、デジタル空間上でシミュレーションすることが可能になります。これにより、工場内への生産ライン設置作業の効率化が期待できます。グループ各社の技術やサービスとの連携を通じて、Rulerlessの活用領域をさらに広げ、より大きな価値を提供していきたいと考えています」(甲斐)
お客様の声を起点にサービスを進化させ、現場の負担を減らし、離れた場所にいる人同士が同じ情報を共有しながら判断できる環境を広げる。「3D計測ならRulerless」と認知される存在を目指していく。
この記事のポイント
- 損保会社の浸水調査効率化のニーズからサービス開発がスタート
- LiDAR搭載iPhoneで空間を3Dモデル化し、誤差数cm程度の高精度計測を実現
- 三菱電機 情報総研と三菱電機デジタルイノベーションが技術領域を分担
- 営業と開発が連携し、顧客の声を反映した機能強化を継続して実施
- 製造業や建設業など幅広い業界へ展開し、新サービスとの連携も推進
平田 智一
三菱電機デジタルイノベーション
金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課
プロジェクトリーダーとしてプロジェクトマネジメントとシステム設計を担当。
甲斐 博将
三菱電機デジタルイノベーション
金融事業本部 金融営業部第一課 兼 サービス企画部事業企画・推進課
Rulerlessの立ち上げと、お客様とのコミュニケーションや拡販を担当。
岡崎 愛
三菱電機デジタルイノベーション
金融事業統括部 金融営業部 第一課
Rulerlessのプロモーションやお客様とのコミュニケーション、拡販を担当。