2026年7月8日
若手のひらめきが、独自AI技術をサービスに変えた 重複会話を分離する音声分離サービス「waketekoo」
「waketekoo(ワケテコー)」は、 対話中の重複音声を話者ごとに分離する音声分離サービスです。当時入社1年目の社員が音声分離技術のデモからひらめきを得て、先輩エンジニアの協力を得ながら具現化しました。そして機能強化を進め、2025年に当時入社2年目と1年目の社員が、手軽な導入を目指してSaaS型を開発しました。若手の発想を起点に、研究所の独自技術、開発部門の実装力、営業部門の顧客理解を掛け合わせながら、実用的なサービスへと育ててきたwaketekoo。こうした取り組みが、日本音響学会が音響工学技術の音響分野における優れた技術開発とその実用化に貢献した成果に対して贈られる「技術開発賞(2026年度)」受賞につながり、独自技術の実用化事例として評価されています。
通話録音システムの開発部門が音声分離技術に着目してサービス化
音声分離サービス「waketekoo」は、1本のマイクで録音したモノラル音声から、発話が重複している部分も含めて話者ごとに音声を分離するサービスです。近年、対面会議の議事録作成や、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策など、音声データを活用するシーンは増えているものの、モノラル録音の条件下では、2人の同時発話時の話者分離やテキスト化が難しいという課題がありました。そこで、重複した音声を適切に分離し、文字起こしの精度を高めるために開発されたのがwaketekooです。waketekooは、同時に発言した2人の音声を分離するもので、会議や通話の全体の参加人数には制限はありません。これには、三菱電機独自のコンパクト化したAI技術の「Maisart(マイサート)」を活用しています。高価なGPUなどでなく、汎用的なCPUで動作するため、コストパフォーマンスに優れています。
waketekooの開発は、入社1年目の社員が2022年に三菱電機 情報技術総合研究所(以下、情報総研)が実施した音声分離技術のデモを見たことがきっかけでした。その発案者である金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課の羅玉ていさんは次のように語ります。
「複数の人が同時に話している音声を、リアルタイムかつ正確に分離するデモを見て驚き、音声分離技術に興味を抱きました。この技術はビジネスに活用できると考え、上司に企画化のアイデアを提案したところ、前向きに考えようという回答がありました。そこで、事業展開に向けたユースケースを検討した結果、証券会社向けの通話録音システムに適用できると考えました」
営業の側面でも、音声分離技術を利用したwaketekooは、顧客ニーズに合致するものでした。金融事業本部 金融事業統括部 金融営業部 第五課の大森正弘さんは「waketekooは、技術主導で事業化につながった珍しいケースです。証券会社向けの通話録音システムを提供していた私たちは、その膨大な通話データをうまく活用できないかと考えていました。そうした中で、音声分離技術が顧客のビジネスにうまく結び付けられました」と語ります。
ちょうどその頃、社内制度を利用してwaketekooの開発チームに異動し、エンジニアとしてプロジェクトをリードしたのが金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課の西健太朗さんです。西さんは「もともとは、通話録音システムの開発に長く携わってきましたが、音声データを活用した新たな領域に挑戦したいという思いが強くなり、サービス開発部門に異動しました。そのタイミングでwaketekooの開発が立ち上がりプロジェクトに加わりました」と話します。
音声分離の再構成など様々な技術課題を克服
waketekooでは、三菱電機のAI技術ブランド「Maisart」のもとで培われた音声分離技術を活用しています。その中核となるのが、独自のAI技術「ディープクラスタリング」です。ディープクラスタリングとは、ディープラーニング(深層学習)を用いて、話者を分類する変換処理を学習し、入力音声に適用して音声成分を分離する技術です。一般的な音声分離では、話者が切り替わるタイミングを検知して音声を分離するため、発話重複部分は音声分離に対応できないことがあります。ディープクラスタリングを用いることで、重複部分を正しく認識し、複数話者が同時に発話していても音声分離が可能になります。
waketekooの開発時は、情報総研の担当者とも密にコミュニケーションを取り、長時間の録音データを処理するための仕様調整や、処理スピードの向上など、サービス化に必要な課題を一つひとつ着実に解決していきました。その中でも大きなハードルとなったのが、重複音声を分離した後の再構成でした。
「話者Aと話者Bの重複音声を分離した後、話者Bの音声をどこに配置するのかというところに難しさがありました。話者Aの発言がすべて終わった場所に置くか、無音が続いた後に置くかといった選択肢がある中で、どう組み合わせれば正確性が保てるかについて、情報総研と調整を重ねて解決しました」(西さん)
サービスリリース後は、音声認識の精度を高めることが課題になりました。2024年入社で、2025年からサービス開発課に配属となった金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課の植西陽太さんは次のように語ります。
「音声認識の精度は、学習データの量に大きく左右されます。しかし、金融系の業務を主要ターゲットとしているwaketekooの場合、お客様のデータを学習に利用できないことがほとんどです。それを解消するため、2025年度は情報総研と打ち合わせを重ね、実際の対話に近い擬似データを生成し、それを使って学習することで、精度の向上を実現しました」
顧客の声をフィードバックし手軽に使える「SaaS型」を開発
現在、waketekooの提供形態は、録音システムに組み込む「モジュール提供型」と、APIを通じて利用する「クラウドAPI型」、Webブラウザーから音声分離・話者分離・文字起こしが利用可能な「SaaS型」の3タイプを提供しています。初期リリース時は、モジュール提供型とクラウドAPI型の2タイプでしたが、2025年からSaaS型の開発に着手し、2026年より提供を開始しました。SaaS型は、PCの内蔵マイクで直接録音した音声や、スマートフォンやレコーダーから取り込んだ音声ファイルに対して、テキスト化だけでなく要約までを一気通貫で行うことができます。
「従来の提供形態は、カスタマイズ性が高い反面、すぐに使えないという弱点もありました。そこで、手軽に試せるサービスとしてSaaS型をリリースしました」(植西さん)
SaaS型の開発にメインで取り組んだのが2025年当時入社2年目の植西さんと、入社1年目の金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課の大垣亘由さんです。大垣さんは展示会などに説明員として参加して顧客のニーズを探りながら、要望を開発チームにフィードバックしました。また、自身もアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に各種機能を実装していく開発業務を担当しました。
「新入社員として配属直後で、システム開発も初めての経験でしたが、先輩に教えていただいたり、自分で仕様書などを読み込んだりしながら知識やスキルを習得しました。AIを活用してコーディングを進める中、サービスの骨格となる仕様の作成や更新に細心の注意を払いながら取り組みました」(大垣さん)
若手エンジニアが緊密に連携しながら新たな技術にチャレンジする風土
waketekooの開発チームは、羅さんをはじめ、植西さん、大垣さんと若手社員が活躍しています。植西さんは「オフィスでは席が近いこともあり、気軽に聞くことができます。重要な仕事を任されることも多く、常にやりがいを持って働くことができます」と語ります。大垣さんも「年齢が近いこともあり、コミュニケーションが取りやすいと感じます。先輩方は技術レベルが高く、常に刺激を受けています」と語ります。西さんは「新しいことにチャレンジする若手がいることは、私たちにとっても刺激になり、チーム全体で前向きに取り組む文化が自然と醸成されていきます」と話します。
専門性を高めるため、社内研修以外でも自己研鑽を積むメンバーも多く、IT関連の資格を積極的に取得しているメンバーもいます。羅さんは「個人的には、AWSやデータ分析、AIに関する資格を取得しました。若手だけでなく、30代、40代になっても自己研鑽に取り組むのが会社としての文化となっています。プライベートの時間を使って勉強するメンバーも多く、それが技術力の底上げにつながっていると思います」と語ります。
日本音響学会の技術開発賞を受賞 外部からも注目を集める独自技術
waketekooの開発は、2026年度の日本音響学会 技術開発賞を情報総研とともに受賞しました。技術開発賞は、音響に関する工学技術の進歩発展に特に貢献した賛助会員に贈られるもので、今回の受賞は音声分離技術をサービスとして実用化した点が高く評価されました。受賞について西さんは「外部機関からの客観的な評価を受け、私たちが取り組んだ音声分離技術が、最先端で独自性の強い技術であることを改めて認識しました」と語ります。
情報総研と取り組んだwaketekooの開発を通して、開発チームの中には意識の変化も生まれています。西さんは「金融機関向けの音声分離サービスを開発する過程で、三菱電機グループ内にもコールセンター業務の改善といった同様の課題があることに気付きました。三菱電機グループに目を向けることで、新たな発見もあり、結果として活用領域が広がっていることを実感しています」と語ります。
今後に向けては引き続き情報総研と連携しながら、音声認識精度の向上と、新たな機能の強化に取り組む方針です。
「すでに実現している音声分離に加え、誰がいつ発話したかを特定する話者ダイアライゼーションにもチャレンジし、音声分離との組み合わせでより高い利便性を実現しながら、多くのお客様に利用いただけるサービスに育てていきたいと思います」(植西さん)
若手の発想から始まり、研究所の独自技術、開発部門の実装力、営業部門の顧客理解が結びついて生まれたwaketekoo。三菱電機デジタルイノベーションは、これからも音声データの可能性に向き合い、現場で役立つサービスへと磨き続けていきます。
この記事のポイント
- 若手エンジニアのひらめきによって独自AI技術をサービス
- 顧客の声を反映し、手軽に使える「SaaS型」を開発・提供
- 若手エンジニアが働きやすく、チーム全体で前向きに取り組む文化を醸成
- 音声分離技術をサービス化したことが評価され、日本音響学会技術開発賞を受賞
三菱電機デジタルイノベーション株式会社
金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課
2015年入社。音声系サービスの開発の取りまとめを担当。
三菱電機デジタルイノベーション株式会社
金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課
2022年入社。音声分離サービスwaketekooを立ち上げ。
三菱電機デジタルイノベーション株式会社
金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課
2024年入社。音声分離サービスwaketekooのプロモ・開発・運用を担当。
三菱電機デジタルイノベーション株式会社
金融事業本部 サービス企画部 サービス開発課
2025年入社。音声分離サービスwaketekooのプロモ・開発・運用を担当。
三菱電機デジタルイノベーション株式会社
金融事業本部 金融事業統括部 金融営業部 第五課
2008年中途入社。2018年より金融業種の様々なお客様を担当。音声ソリューションを取り扱う中で音声分離サービスの販売に携わる。