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くらしのエコテクノロジー くらしのエコテクノロジー
vol.10
水環境を整えるシステムに技術の力を活かしたい
神戸製作所 社会システム第一部 計画第一課 与田 真樹子
人物編

水環境を整えるシステムに技術の力を活かしたい

2019.07.12

三菱電機神戸製作所は、三菱電機発祥の地にあります。その歴史は古く99年前の創業時は船で使うモーターを製作していたこともあり、その地は神戸港に近く、屋上からは明石海峡大橋や淡路島も見えます。神戸製作所では与田さんが関わる水環境分野だけでなく、鉄道・道路関連システムなど多岐にわたるインフラを開発し、国内外に提供しています。三菱電機の歴史を刻んできたこの地で水のインフラシステムに長年関わってきた与田さんはどのようなキャリアを積んできたのでしょうか。環境の変化がもたらすお仕事への影響などもお聞きしました。

きれいな水を作って配るシステムを国内外に提案

与田さんは水処理システムに関わってきた長いキャリアがありますが、これまでどのようなお仕事をしてきたのでしょうか。

与田さん:入社して最初の10年間くらいは国内向けの上下水道向け水処理プラントの監視制御システム設計に関わりました。そのあと10年ぐらいは、主に北米向けにオゾンを活用した水処理システムの設計に関わっておりました。これはプロジェクトマネージメント的な業務も含まれています。

「システムがきちんと現場で動いているのを見る時に達成感を感じます」と話す与田さん
「システムがきちんと現場で動いているのを見る時に達成感を感じます」と話す与田さん

今年4月からは新たな部署に異動されたとお聞きしました。これまでのキャリアを活かしたお仕事になるのでしょうか。

与田さん:はい、東京本社で水処理の監視制御システムを海外に提案していくという部署に移りました。国内向けの監視制御システムと、海外向けのオゾンを活用した水処理システムを設計した両方の経験が活かせる場ではないかと思います。

具体的にはどのようなプロジェクトを手掛けるのでしょうか。

与田さん:東南アジアを中心に水処理監視制御システムの提案をしています。これらのエリアでは、最近は市街地には水道が整備されているところもありますが、今もなお遠くまで水を汲みに行っている地域もあります。いつ停電するかわからないという電力事情もあり、水のインフラが日本のようにシステムとしてきちんと動いていないという現実があります。それをODAなどによってインフラとして一から作っていく仕事です。

与田さんは学生時代にそういった専門の勉強をなさったのでしょうか。

与田さん:大学では情報工学を専攻しました。水処理について特に専門に学んだわけではないのですが、水処理監視制御システムには多くの情報通信システムや情報処理などの技術を使いますので、大学で学んだことが役に立っていると思います。

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神戸製作所では上下水道向けなどの水処理プラントの監視制御システムを構築、提案している

与田さんが関わっていらした水処理プラントの監視制御システムというのは、一般の方にはすぐには想像できないかもしれません。どのようなシステムを言うのでしょうか。

与田さん:たとえば飲み水を作る場合では、湖や川から運んできた水を飲み水に適したものになるように浄水場内で汚れや有害物質を取り除くなどの処理をします。監視制御システムのモニターにその処理過程を表示して、各設備がきちんと稼働しているかどうかを監視します。またバルブの開閉やポンプの起動・停止による水量の制御を画面上で行うなど、水処理プラント全体を管理します。

私たちが使っている水道もそういうシステムで管理されているのですね。このシステムを導入する大きな利点は何でしょう。

与田さん:現場に人が直接行かなくてもポンプを起動・停止できますし、故障などの状態を把握して知らせる仕組みもあるので、すぐに対応できます。今後は故障した際の対応をマニュアルとして画面上に表示するなどの仕組みも考えています。最近では、役所などでも地域内に点在する各プラントや現場の監視画面を見たいという要望があり、それぞれの拠点を結んで広域監視できるシステムを構築することもあります。

世界の水不足を水リサイクル技術で支援

水はライフラインのひとつとして大変重要なものですが、世界で水処理の需要がある地域や場所というのは主にどのようなところなのでしょうか。

与田さん:下水を再利用できるように高度に処理された水に戻すことを「水リサイクル技術」と言いますが、これは水が不足している地域ではどこでも需要があると思います。特にニーズがあるのは人口が密集していて水不足に悩んでいるエリアですね。

具体的にはどのようなプロジェクトがあるのでしょうか。

与田さん:水資源の問題を抱えるシンガポールでは、下水を再生するシステムがあります。これは「ニューウォーター」と呼ばれていて、通常の下水処理水を高度処理して飲める状態にまでリサイクルしています。当社もこのような下水や工場排水のリサイクルニーズに応えるために、オゾン水洗浄式・浸漬型膜分離バイオリアクター(EcoMBR®)というシステムをシンガポールで実証中です。これは、下水や工場排水をろ過する装置ですが、オゾン水でろ過膜を洗浄することによって高速ろ過ができ、処理水も再利用できます。シンガポールは琵琶湖ほどの土地に500万人もの人たちが生活していますが、水源が少なく水を自給することが難しいため、水再生ビジネスが活発なのです。

シンガポールの再生水への取り組みについて学べる施設「ニューウォーター・ビジター・センター」(PUB SINGAPORE’S NATIONAL WATER AGENCYより)
シンガポールの再生水への取り組みについて学べる施設「ニューウォーター・ビジター・センター」(PUB SINGAPORE’S NATIONAL WATER AGENCYより)

他にはどのようなプロジェクトがありますか。

与田さん:中国・北京では下水を処理してオリンピック施設での噴水に使いました。実現には臭い等の課題がありましたが、その解決には当社のオゾン発生器「オゾナイザ」が貢献しています。

どちらのケースも水を循環させて使っているということですね。

与田さん:はい、下水から取った水を浄化して再利用し、それをまた集めて下水処理をして川に流すという大きな意味での循環があります。

気候変動がもたらす水環境の変化

このところ世界中で気候変動によって台風が巨大化したり、洪水が起きる一方、干ばつで深刻な水不足に悩む地域もあるなど水に関わる災害が増えているように思いますが、こういった環境の変化がお仕事にも影響を与えていると感じることはありますか。

与田さん:台風などで大雨が降ると下水処理場に流れ込む水の量が多くなるので、流れてくる水の量の予測を求められることが増えています。また河川の氾濫リスクが高まるため、水面の画像だけで河川の水位がわかるようなシステムも提供しています。台風の時などは実際に河川の状況を見に行くのも危険ですので。

水の問題はSDGs(国連が定めた持続可能な開発目標)でも「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」ことが定められており、環境問題としても大きなトピックです。アフリカやアジアを中心に、世界で約12億人が安全な水を飲むことができないと言われていますが、御社の技術や商品はそれに対してどのような貢献ができると考えますか。

与田さん:当社は電機メーカーですので、水を作るプロセス自体や配管の敷設などは行わないのですが、多くの人に水を行き渡らせる配水の管理システムによって貢献できるのではと思います。配水は電力も使いますので、需要に合う水を効率的に送るシステムは省エネという意味でも重要です。また、せっかく作った水を無駄にしないために漏水検知システムも持続可能性に貢献すると思います。

SDGs6は「全ての人に持続可能な水の使用と衛生設備(トイレ、下水道など)を保障する」が持続可能な開発目標として設定されている。(OXGENより)
SDGs6は「全ての人に持続可能な水の使用と衛生設備(トイレ、下水道など)を保障する」が持続可能な開発目標として設定されている。(OXGENより)
神戸製作所内にある「オゾナイザ」の模型を使って説明する与田さん
神戸製作所内にある「オゾナイザ」の模型を使って説明する与田さん

オゾンで水をきれいにするシステムにも関わっていらっしゃいましたが、これは水を作るプロセスとしても使われているのでしょうか。

与田さん:オゾンを活用した水処理システムを使った浄水場は全国にたくさんあります。もちろん海外にも。以前は消毒も塩素で行っていましたが、今はオゾンが消毒、脱臭、脱色など水をきれいにして安全に飲めるための手助けをしています。当社は約45年間にわたり、国内外の上下水道に1,700台以上のオゾン発生装置「オゾナイザ」を納入してきました。オゾンを使った大規模な水処理システムを提供できるのは三菱電機を含めて世界に数社ほどです。

ところで、水に関わるお仕事をしている与田さんが水に関して日常的に気を使っていることはありますか。

与田さん:油を下水に流すと処理も大変になることを実感していますので、洗い物をするときに油は流さないように気をつけています。

地球環境も変化し、温暖化が進み、海外では100ヵ国以上の子供や若者たち100万人以上が自ら気候変動のデモに参加するなど次世代への影響が注目されています。こうした大きな変化の中で、持続可能な社会のために、私たちができることは何だと考えますか。今後取り組みたいことなどがあれば教えてください。

与田さん:電機メーカーなので電力の使用を削減するということは今後もさまざまな場面で提案できると思います。特に水処理システムは社会インフラとして導入する場合は大きな電力を使いますので。もちろんオゾンを作る際にも多くの電力を使います。また監視制御システムを動かす電力も技術的なことで少しずつ抑えていければと思います。個人的には、電気や水を使いすぎないよう、無理なくできることを続けていきたいですね。

神戸製作所のあるエリアは、三菱重工、三菱電機が立ち並ぶ、日本の重工業を担ってきた三菱の歴史を感じる場所です。その地で水のインフラシステムという大きなお仕事に女性の技術者がどのように関わっているのか、大変興味深くお話を聞かせていただきました。関わるお仕事は世界を舞台に大規模なものが多いですが、与田さんは気負うことなくクールにお仕事をされているように思えました。海外では英語で提案する場合も多いと思いますが、「言葉はツールです」とあくまで技術や提案が主役と話されたのが印象的。日本の先進的な水技術が与田さんのようなキャリアのある女性技術者によって推進されていることに同じ女性として励まされました。