給湯のエネルギーを大幅に減らすヒートポンプ給湯機「エコキュート」を製造する群馬製作所は、平成24年度省エネ大賞で「資源エネルギー庁長官賞(節電賞)」を受賞するなどエネルギー効率化に先んじて取り組む製作所です。製造過程で使うエネルギーの見える化に取り組むほか、社員の節電意識を高めるキャンペーンなども積極的に取り入れています。一方で、旧中島飛行機時代に作られた築80年の木造建築が本館事務棟として使われるなど、歴史のある建物も多く、メンテナンスも重要課題。これらの課題に日々取り組む原さんに、環境分野での関心事やどんな想いで仕事をなさっているのかお聞きしました。
進化するエコファクトリーで
エネルギーを管理
2020.02.14
工場のエネルギー効率を高めることを仕事に
群馬製作所はエコキュートを中心とした電気給湯機の製造をしているとお聞きしましたが、どのような製品を開発、生産しているのでしょうか。全体の概要を教えてください。
原さん:私たちが開発、製造しているのは、お風呂など家庭で使用するお湯を沸かす電気給湯機です。主力製品は、2001年から販売している高効率のヒートポンプ給湯機「エコキュート」です。これは外気から熱を集め、その熱を水に伝えてお湯にする給湯機で、従来の電気温水器に比べて消費電力が約1/3以上と省エネ性能に優れています。2016年には累計生産で500万台を達成しました。
現在のお仕事における原さんの担当業務はどのようなものですか?
原さん:私の担当業務は、工場が正常に効率的に稼働できるように電気や水などの動力インフラや建物、構造物を維持、管理することです。具体的には、工場のリレイアウトの際に電気系統やボイラーなど、どういう動力設備を入れるかを決定したり、照明やエアコン、トランス(変圧器)を選定することも行います。また建物や動力設備に不具合が生じた場合の修理対応や定期点検も行います。
そういった業務に元々興味があったのでしょうか。
原さん:はい、工業高校時代から電気関係の仕事に就きたいと思っていました。中でも設備のメンテナンスには興味がありました。
建物の修理対応も行うのですね。
原さん:群馬製作所は1959年に家庭用電器工場として創業して以来60年になりますので、古い建物も多く、修理やメンテナンスも重要です。
原さんのお仕事はどのような形で群馬製作所内の環境保全や省エネに関係するのでしょうか。
原さん:動力インフラを更新する際に、省エネに配慮した機器及び設備を選定して導入します。また、LED照明や高効率エアコンなどの消費電力が少ない機器を積極的に導入することで省エネにつなげています。
たとえば照明の選定はどのような基準でするのでしょうか。
原さん:精密作業をするところ、事務所、工場など、場所によって必要な照度が異なるので照度計算をして必要十分な照明を考えます。過度な照明を使っていないか定期的に見回ったり、チェックもします。
建物のエネルギー効率アップということではどうでしょうか。
原さん:古い建物では断熱材が不十分なところもあるので、それを追加したり、高効率のエアコンに入れかえることなどもします。もちろんエコキュートも場所によっては使っています。
お仕事をする上で一番苦心することはどのようなことでしょうか。また、原さんがお仕事上で課題としていることはありますか。
原さん:動力インフラを導入する際に、省エネを意識した設備の選定だけでなく、費用対効果や、メンテナンス性など、さまざまな面をトータルで評価し、最善の仕様を選定することに苦心しています。今は上司や先輩社員の方々からご指導を受けながら進めていますが、今後は一人で企画から導入までを取りまとめられるように、「エネルギー管理士」の資格取得に向けて勉強中です。
ピーク電力3割カットで「節電賞」を受賞した工場の省エネ手法は?
御社の工場は、2011年度に「ピーク電力30%削減、生産は30%増産」を達成し、平成24年度省エネ大賞で「資源エネルギー庁長官賞(節電賞)」を受賞したとお聞きしましたが、どのような形でそれを実現したのでしょうか。
原さん:当時私は在籍していませんでしたが、上司や先輩社員から聞いたところ、①デマンド監視体制を構築して「電力の見える化」を行ったこと、②太陽光発電や高効率エアコンなどの省エネ機器の導入、③全員参加の節電キャンペーンやJIT改善活動を群馬製作所の全社員が取り組むことなどで実現しました。この手法で年間95万kWhもの使用電力を削減しています。
その後、「電力の見える化」では、2011年から進化している部分はありますか。
原さん:すでに取り組んでいる電力の監視制御システム「MELSAS」を活用した電力の見える化に加え、使用電力がわかるビル管理システム「Facima」を導入しました。工場内の各インフラ設備を遠隔で監視・制御することで、エネルギーのムダやピーク電力削減に取り組んでいます。たとえば、「Facima」は30分ごとに使用量を表示するので、昼間の電力消費のピーク時に電力を使いすぎていることがわかれば自動で空調を制御することなども可能です。
太陽光発電はどれくらい導入しているのでしょうか。
原さん:現在、群馬製作所の建屋6棟の屋上に合計3,203枚の太陽光パネルを設置し、年間発電に200万kWhを発電しています。平日は工場で使用する電力として使いますが、休日は余剰分を売電しています。
3つめの「JIT改善活動」とはどのようなものでしょうか。
原さん:JITはJust In Timeの略で、「必要なものを、必要なだけ、必要なときに」をテーマに、製造現場で業務のムダを徹底的に排除して生産性向上を図る活動のことで、2003年度から全社的に取り組んでいます。
全員参加の節電キャンペーンというのは具体的にはどんなことをするのでしょうか。
原さん:「省エネ標語コンテスト」、「省エネアイデアコンテスト」、「電力削減コンテスト」などの省エネキャンペーンによって社員の省エネに対する意識付けを行っています。また、空調の温度設定や不在時の照明消灯、アイドリングストップなどの呼びかけと、これらの活動を定着させるために、各部門の省エネやごみの分別など環境を管理する担当者と連携し、定期的に巡視を実施しています。
「省エネアイデアコンテスト」では具体的にどんなアイデアが出ましたか。
原さん:担当ではなかったので、詳しくないのですが、応募のあったアイデアの中から「離席時の消灯」や「パソコンのスタンバイモード利用」、「自動販売機運転の40%停止」などが実施されたということです。
他の部門と連携してお仕事を行うことはありますか。他部門のニーズをどのように工場のインフラ整備や保守に取り入れていますか。
原さん:はい、私の業務は他部門との連携が欠かせません。たとえば、照明や設備の位置を変えてほしいという要望があれば、現場と打ち合わせしながら決めます。省エネについての活動を行う際も、各部門にいる省エネやごみの分別など環境を管理する担当者と月1度程度会議を行って、連携して進めています。
グレタ・トゥーンベリさんの言葉に刺激を受ける
昨今は台風が大型化したり、豪雨や竜巻など日本でも自然災害が増えていますが、お仕事でもご自身の生活でも環境の変化を感じる時はありますか。
原さん:最近の環境変化は仕事をする上でも感じています。特に大雨や暴風による雨漏りなど建物のメンテナンス業務が年々増加していますので、今後の自然災害に対応できるように建物の見直しが必要だと感じています。また気候変動で暑さが厳しくなり、業務でも自宅でもエアコンを使う時期が早まり、使う頻度も高まっていることを感じます。
原さんは21歳と若い世代ですが、国内外で若い世代の温暖化の進行に対する危機意識が大きく高まっています。何か環境のことで関心のある事はありますか。
原さん:最近ニュースで国連の気候変動サミットでのグレタ・トゥーンベリさんの演説※1を見て、地球温暖化について興味を持ちました。グレタさんの発言を聞いて私も将来の環境について考えさせられ、今から活動して省エネ活動を加速させることで、自分の子や孫など次の世代につなげられるように環境に配慮した生活をしていきたいと思いました。
- ※1:2019年、国連の地球温暖化サミットで16歳のスウェーデンの活動家、グレタ・トゥーンベリさんが科学的な数値を交えながら、各国代表へ「気候変動への取り組み」を力強く要請した演説
グレタさんの発言のどの部分に一番影響を受けましたか。
原さん:何より自分の意見を素直に言えるのはすごいなと驚きました。反対意見を言う人もいますが、グレタさんの想いは大事だと思います。
生活の中で環境を意識した取り組みをしていることはありますか。
原さん:省エネでは、空調機の設定温度やタイマー機能の使用、待機電力を減らすために家電製品を使用しない時はコンセントを抜いたり、エコタップを使ってスイッチを切っています。ごみを出さないようにするために、洗剤、シャンプーなどはなるべく詰め替え用を購入しています。また、運転している車は「エコモード」があり、急発進をするとランプがつくので気を付けています。小さいことですが、これらが積み重なって大きな効果になると思います。
省エネ以外にも何か環境を意識した行動をしたことはありますか。
原さん:地元の館林で、地域の活動としてグループでゴミ拾いをしています。また、実家では畑で季節の野菜をつくったり、庭でブルーベリーや柿、さくらんぼなどの果樹を育てているので、その手伝いもしています。
それはいいですね。海外では自宅の周りに食べられる果樹や作物を植えることは「エディブルランドスケープ」(食べられる景観)と言って、自給率を高め、生態系や環境保全のためにも国内外で注目されている手法です。
持続可能な社会のために、私たちができることは何だと考えますか。お仕事でもご自身の生活でも今後取り組みたいことなどがあれば教えてください。
原さん:持続可能な社会のために私たちが取り組めることは沢山あると思います。創エネや省エネ、植林や生物多様性の保全、ゴミ拾いや分別などいろいろあると思いますが、それを持続させるために自分自身ができることは他人や他の生物を思い、それらのことを一つでも多く実行することです。それが身近な家族や仲間、後輩や子供に伝われば、連鎖的に広がって暮らしやすい社会になると私は信じています。
地元、群馬製作所で工場のエネルギー管理の仕事をする原さん。グレタさんのスピーチに刺激を受け「他人や他の生物のことを想って、一つでも多く自分でできることをしたい」と話す姿にグレタさんと同じ思いを感じました。気候変動は今や「気候危機」と呼ばれ、熱中症や大型の台風、洪水など、現実に私たちの生活を脅かすまでになっています。原さんのように考える若者が増え、未来を持続可能な方向に変えていってほしいと願います。