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くらしのエコテクノロジー くらしのエコテクノロジー
vol.4
ひとりひとりが未来の地球を背負う当事者になるように行動し、周りに広げていく
稲沢製作所 生産性推進部 環境工務課 澤原 隆紘
人物編

ひとりひとりが未来の地球を背負う当事者になるように行動し、周りに広げていく

2019.01.21

三菱電機稲沢製作所は、1964年にエレベーター・エスカレーターの専門工場として設立され、「三菱昇降機のマザー工場」として、国内だけではなく90ヵ国を超える国々に三菱の昇降機を送り出しています。国内におけるトップシェアを維持し、海外でも高品質なブランド力を誇る同社の昇降機を製造する稲沢製作所は、省エネや省資源など環境負荷を抑える生産にも積極的に取り組んでいます。同製作所で環境保全に携わる澤原隆紘さんは、どんな想いでこの仕事に関わっているのでしょうか。名古屋から電車で程近い、かつて尾張国の政治・文化の中心地だった愛知県稲沢市にある稲沢製作所でお話をお聞きしました。

大学で環境工学を学び、昇降機の一生を環境面でサポートする仕事につく

澤原さんの現在のお仕事は主にどのようなものですか?

澤原さん:一言で言うと、稲沢製作所(以下通称:稲電)のすべての部門での環境管理、つまり全ての部門の業務を環境面でサポートする環境の事務局、とりまとめ役をしています。設計から使用、廃棄されるまでの製品のあらゆる段階における環境負荷を抑えることを目指しています。

澤原さんの写真

具体的にはどんな業務でしょうか?

澤原さん:稲電は昇降機を作る生産現場ですから、当然、廃棄物や環境汚染物質なども出てきます。そういった汚染物質を大気、水、土壌になるべく排出しないように、また国や自治体が出している環境基準を守るために、生産現場と連携をとりながら管理運営していくという仕事を主にしています。特に、排水処理施設に関しては直接担当しています。また製品について言うと、省エネ性能を高めたり、環境負荷の高い物質が部品に使われないようにするために開発部門などとコミュニケーションをとることもミッションの1つです。

環境保全ということでは大事なお仕事ですね。具体的な目標値のようなものはあるのでしょうか?

澤原さん:「ISO14001」という環境保全を目的とした国際規格をご存知でしょうか。大気汚染やCO2排出などの環境問題に対して、企業が自主的にその行動を起こし、継続的に改善させていくための環境管理システムのことです。当社ではこの「ISO14001」の認証を取得し、継続させています。環境負荷について毎年改善させていくことが求められるため、全ての項目で前年度以上の目標値を掲げて活動します。前年度頑張ったら、次の年はそれを更に上回る努力が必要になるため、毎年改善を続けるというのは実はとても大変なことなんです。

澤原さんは環境工務課に所属されていますが、もともと環境に関心があったのでしょうか。

澤原さん:そうですね、大学や大学院でも環境工学を専攻していました。生活の快適性を保ちながら、多様な環境問題を解決するにはどうすればよいのかという技術や知識を学びました。大学院の研究室では環境汚染物質が人間の体にどう影響を与えるかということを研究していました。培養した細胞にその物質を加えて定性的・定量的に評価を行うという、実験的なアプローチも試みましたよ。

地元広島が豪雨被害を受け、気候変動の脅威を身近に感じるように

日本でもここのところ異常気象が続いていますが、気候変動がご自身の生活に影響を与えていると感じることはありますか。

澤原さん:影響は大きいと思います。地元が広島なのですが、今年は豪雨で大きな災害がありましたし、2014年にも土砂崩れによる災害がありました。今年のお盆に帰省した際には、祖母の家に行く道路が遮断されて通れなかったほどです。自分の育った土地で異常気象による大規模な災害が続いていますので、環境破壊の脅威を身近に感じます。また、気象に関しては「〇年ぶり」とか「記録的」という言葉を毎日のようにニュースで耳にします。まだ28年の人生ですが、ここ5年ぐらいの気候の変化は今まで体験していないもののように感じます。

澤原さんの写真

確かにそうですね。このような異常気象はお仕事にも何か影響を与えていますか。

澤原さん:今年は猛暑だったのでエアコンの使用電力が増えて、例年に比べて稲電全体の電力消費量が上がりました。でも三菱電機グループでは毎年電力使用量の目標値を決めていますし、電力会社との契約で使える電力の上限値が決まっているので、従業員全員で節電に取り組みました。

どんな方法で節電をしたのですか?

澤原さん:稲電では以前より、オフィスや工場設備の使用電力を見える化した上で、長年ムダな電力削減に取り組んできていましたので、それに上乗せする節電方法を短期間で計画するのは困難でした。そこで全ての部門に再度、節電の徹底と、再点検によるムダな電力消費の削減をお願いしました。具体的には照明の間引きや不要時の設備電源遮断、空調の適正運転管理など、従来からの活動を再度徹底してもらった上で、PCディスプレイを2つ使っている人は1つに減らしたり、トイレのジェットタオルを止めたりと、更に細かい努力を積み重ねました。

働き方改革から環境教育まで、環境への意識づけをサポート

稲電では工場の屋上緑化などもしていますが、節電以外で環境保全につながる活動は社内でしていますか。

澤原さん:グループ全体でも取り組んでいる“働き方改革”も実は環境保全につながる部分があると思います。稲電でも様々な施策を実施していますが、例えば総務部では“INAPPY”という電子申請システムを取り入れました。これにより紙の削減だけでなく、総務部の労働時間も削減され、その結果、電力の削減にもつながります。

稲沢製作所内の工場の屋上緑化の写真 稲沢製作所内の工場の屋上緑化の写真
稲沢製作所内の工場の屋上緑化。植物による遮熱と蒸散作用で、工場の温度上昇を和らげ、夏季の冷房費節約に役立つ

なるほど、働き方改革は環境負荷の削減にもつながるのですね。生産の過程ではどうでしょうか。

澤原さん:梱包木材の削減でも資源の削減を進めています。エレベーターは各部品を梱包して現地へ輸送し、据付現場で組み上げることで納入されますが、物件によってサイズなどの仕様がさまざまなので、これまで大きさの調節しやすい木材を梱包に使用してきました。つまりエレベーターの輸送には、大量の木材が必要となります。そこで稲電では、梱包材料として大きさを変化させることができて、繰り返し利用できるリターナブル容器の導入を進めていて、17年度だけでも100t以上の梱包用の木材使用量を削減しています。

環境管理のお仕事は生産工程すべてにかかわるのですね。従業員の方のみなさんにこういった環境負荷を抑える活動を積極的にやってもらうために重要なことは何でしょうか。

澤原さん:そこはとても難しい部分ですね。工場で働いている人は生産が第一です。廃棄物や節電は大事なことですが、皆が積極的に興味を持ってくれるとは限りません。環境は、泥臭い努力を地道に積み上げていくことが大切です。それを我々のような事務局だけでやってもダメで、それぞれが意識を持ってやってこそ意味があります。工場で働く人がなぜみんなで環境活動をしなければならないか、それを伝えるのは難しいことですが、とても大切なことでもあります。

伝えるために具体的にやっていることはありますか。

澤原さん:従業員向けの環境教育をしています。PCを持っている方にはパソコン上で学べる「eラーニング形式」で、それ以外の方には年1回、集まってもらって講義形式で伝えています。また、部門ごとに配置した環境のキーマンを集めて会議を開催し、周知が必要な事項を紹介しています。さらにそのキーマンから各部門内にその内容を展開してもらうことで、従業員全体に対するコミュニケーションをとっています。

実際の現場を見ることで環境保全への意識が変わった

澤原さんの写真
ペットボトル、蛍光灯 鉄くず、紙・プラスチックなどの廃棄物処理工場を視察したと話す澤原さん

お仕事では環境管理のまとめ役ですが、ご自身が実際に環境のために実践していることはありますか。

澤原さん:日常生活ではゴミの3R(Reduce、Reuse、Recycle)を心がけています。不要なものは買わないようにすること(Reduce)、資源を有効活用するために分別を徹底する(Recycle)ことは特に気を付けています。これは今の仕事を始めてから意識が変わったことのひとつです。というのも、仕事柄、廃棄物の処理業者を訪ね、処理過程を見学することが頻繁にあります。作業をする人が苦労して分別しているのを見て、ごみの捨て方も以前より意識するようになりましたね。

稲電では工場の屋上を緑化するなど周りの環境にも配慮していますが、近隣の住民の方との交流などもあるのでしょうか。

澤原さん:年に1回開催している夏祭りで稲電構内を開放し、多くの近隣住民の方に来ていただいています。製作所内に立つ高い試験塔「SOLAÉ」(ソラエ)は並ばないと見学していただけないくらいの人気です。今や周りが住宅地となった稲電では、近隣の方との交流は弊社への理解を深めていただくためにも大事なことだと思います。

カルガモの親子の写真
稲電の工場の屋上では、カルガモがやってきてヒナが生まれることも。地域のテレビに取り上げられるなど話題に

最後に、三菱電機グループでは環境ステートメントとして「エコチェンジ」をテーマとしていますが、持続可能な未来に向けて私たちができることは何でしょうか。

澤原さん:当グループは高度な技術と幅広い事業をもっています。それだけに社会からの認知度も高く、与える影響も大きいと考えています。メーカーとして省エネ性能の高い製品や環境保全に寄与する製品を提供することはもちろん、従業員ひとりひとりが未来の地球を背負う当時者として環境に関わり、それを周りに広げていくことで未来へ貢献ができるのではないでしょうか。

「SOLAÉ」(ソラエ)の写真 「SOLAÉ」(ソラエ)の写真
製作所内に立つ試験塔「SOLAÉ」(ソラエ)は高さ173m。稲沢地域のシンボルタワーにもなっている

入社して4年目のフレッシュな澤原さん。入社以来ずっと環境畑ですが、環境対策を進めるためにも生産の現場をもっと知りたいと意欲的です。また、廃棄物処理の現場などを見ることで意識が変わったと話すなど、理論だけでなく現場発の環境保全を考える方のように思えました。環境管理は確かに理論だけで終わらず、面倒だったり我慢が必要だったり、澤原さんが言うようにある意味 “泥臭い”業務ですが、澤原さんならこれから先、理論と現場の両面で考えて効果をあげていってくれそうです。