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vol.25
直流配電が切り拓くエネルギーインフラで脱炭素化を推進
三菱電機 受配電システム製作所 DCエネルギー課 技術士(電気電子部門)  植主 雅史
技術編

直流配電が切り拓くエネルギーインフラで脱炭素化を推進​

2021.09.27

受配電システム製作所は、1979年以来、長年にわたって培われた高い技術で、ブレーカーや配電盤といった社会を支える電力インフラの安定供給に貢献しています。従来の交流電気に加え、最近では世界的な脱炭素の流れをとらえ、再生可能エネルギーや蓄電技術を活かす直流電気に着目した事業にも力を入れています。直流電力による配電システムとは、どんな特徴やメリットがあるのでしょうか。また、直流の市場を拡大するための課題とは。直流の配電システムや、EV(電気自動車)の充放電システムなどを実証する新事業に技術者として取り組む植主さんにお話をお聞きしました。

受配電システムに関わった長年の経験を活かして

植主さんは入社されて四半世紀以上の豊富な経験をお持ちですが、これまでの職歴をざっくり教えてください。

植主さん:1985年に入社してから約20年間は、受配電システムを構成する開閉装置※1の開発を手掛けました。その後、約8年間、受配電システムのSE(システムエンジニア)として経験を積み、さらに本社での電力本技術行政に関わる仕事を経験したのち、2021年4月からは再び受配電システム製作所に戻り、新事業であるDCエネルギーシステムの研究開発を行っています。

※1 開閉装置:電気回路を開閉するための機器の総称。家庭で言うとブレーカーの入っている配電盤の役割を担う。変電所に接続される送配電線の出入口や、工場、大きな施設などの受電場所に設置され、電力の配電、事故電流の遮断などの目的に使用される。

植主さんの写真

現在、植主さんはDCエネルギーシステム課に勤務されていますが、ここでのお仕事内容について教えてください。

植主さん:当製作所は84kV以下の開閉装置の専門工場で、ほとんどが交流で使う製品を生産しています。最近では、配電効率の良さから直流が見直され、受配電システム製作所では約5年前から直流配電ネットワークシステム(商品名:D-SMiree※2)の構築に取り組んでいます。DCエネルギーシステム課はこの「D-SMiree」を推進する精鋭の技術部隊であり、その推進役を仰せつかっています。

※2 D-SMiree:Diamond-Smart Medium voltage direct current distribution network system
innovative(革新性) reliability(信頼性) economy(経済性) ecology(環境性)

基本的なことですが、DCとはどういう意味でしょうか。

植主さん:DCとはDirect Currentの略で直流のことです。これに対して私たちの家庭に送られてくる電気はAC(交流Alternating Current)です。乾電池と豆電球を思い出すといいのですが、直流は極性※3が一定で変化しない電気です。交流は極性が周期的に変化する電気で、1秒間に極性が変わる回数を周波数と呼んでいます。家庭に送られてくる電気は交流ですが、乾電池やバッテリー、スマートフォン、パソコン、LED照明で消費される電気は直流です。エアコン、洗濯機などは温度や速度調整を連続して行うために「インバータ制御」によって交流を直流に置きなおして、さらにまた別の交流に変更してモータを動かしています。

※3 極性:プラス極とマイナス極

交流配電と直流配電の比較の写真 交流配電と直流配電の比較の写真

ということは私たちの生活では交流(AC)と直流(DC)の両方を使っているということですね。

植主さん:はい、エネルギーをたくさん送るためには電圧を上げないといけないので、そのためにはこれまでの技術ですと、変圧器で電圧を上げ下げしやすい交流(AC)が重宝されてきました。そもそも電気のエネルギーは「電圧×電流」で決まります。電圧が低いと電流をたくさん流さないといけなくなりますが、そうすると電線に抵抗があるので電気を流すだけでロスがでます。この電力ロスを少なくするために電圧を上げ、電流を下げてエネルギーを効率よく送れるようにしたのです。しかし、最近では先ほどお話したように直流(DC)で動く家電品や太陽光発電、バッテリーなどが増え、直流(DC)配電が見直されるようになってきています。

省エネ、再エネとの親和性、信頼性に優れる直流配電

直流が見直されるようになってきた理由はどのようなことでしょうか。

植主さん:3つ理由があります。まず、先ほどお話したように昨今、LED照明は直流で発光し、冷蔵庫、洗濯機など負荷機器のほとんどにインバータが搭載されており、一旦、交流が直流に変換されていますので、直流で直接配電する方が、変換ロスがなく、省エネになります。次に、太陽光発電は直流で発電していますので、直流の配電システムは親和性が高いと言えます。3つ目は、直流は周波数などを気にしなくても良いことから、EVを含む直流で充放電するバッテリーとの組み合わせも良好です。そのため、災害時に停電になった時などでも、家庭内の給電を継続しやすいことがあげられます。

植主さんの写真

海外では、たとえば大規模な洋上風力や太陽光発電で発電した電気を直流送電するといったことが行われていると聞きますが、国内でも直流送電は行われているのでしょうか。

植主さん:はい、国内でも行われております。本州紀伊半島から四国の間で直流送電が既に行われています。また、本州と北海道の間でも直流送電が行われています。また、直流送電とは言い難いですが、周波数の異なる西日本と東日本では、この地域の電力融通のための周波数変換装置も一旦、直流に変換されて違う周波数にしているので、直流が使われていることになります。

今年は火力発電の停止の影響などから電力が足りなくなるかもしれないというニュースも聞かれますが、電力融通も今後、重要な技術になってくるのではないでしょうか。

植主さん:このところ国内では電力が逼迫したり、逆に太陽光発電を出力抑制している例などもあり、日本全国で電力融通をすることは重要なテーマになっています。直流送電などによって電力融通をしやすくすることは、再エネを有効活用することにつながります。ただ、受配電システム製作所が手掛けるのは、今お話した高圧の直流送電ではなく、中低電圧の直流配電の部分です。

中低電圧の直流配電の事業分野というのは具体的にはどのようなことでしょうか。

植主さん:高圧の直流送電というのは、たとえば国や地域をまたいで遠くまで電気を送ることに使われますが、中低電圧の直流配電というのは、需要家もしくは需要家内に電気を配ることに使われます。主なお客様としては、電力会社の施設、大規模なビルや商業施設、工場や社会インフラ施設、鉄道会社の施設などを考えております。

新規事業である直流配電ネットワークシステム「D-SMiree」(ディースマイリー)の開発、構築を行っているということですが、まず「D-SMiree」とはどういうものか教えてください。

植主さん:先ほどの説明でも触れましたが、生活の中には直流と交流が混在しています。家電品の中でも直流→交流、交流→直流の変換が繰り返されており、そのたびに変換損失の電力ロスが発生しています。そういった変換の回数を減らし、直流電力をそのまま供給することで系統電力の消費電力を削減するための「中低圧直流配電ネットワークシステム」が「D-SMiree」です。

直流システム実証棟の写真 植主直流システム実証棟さんの写真
直流システム実証棟では、「D-SMiree」に関するさまざまな実証実験を行う。特に家電から再生可能エネルギーまで、負荷機器との組み合わせを確認することは重要な課題。

「D-SMiree」の中心になるのはどのような製品やシステムでしょうか。

植主さん:高機能型の直流分電盤や、負荷機器に給電するための変換器などの製品に加え、 EMS(エネルギーマネージメントシステム)などの直流電流をうまく活用するためのシステムで構成されています。たとえば、EMSは気象予測によって次の日の太陽光の発電量が少ないようであれば蓄電をしておくなど、需給調整により効率良く再エネを使うことができます。

電力需給計画制御機能図 電力需給計画制御機能図
EMSによって気象情報や発電実績から再生可能エネルギーの発電量を予測し、過去の電力使用実績を分析して、蓄電池を組合せた需給計画を立て、制御までを行う。

直流で動く機器を増やし、直流配電を広げたい

受配電システム製作所の「直流配電システム実証棟」では現在どのような実証実験を行っているのでしょうか。課題としてはどのようなことがありますか。

植主さん:直流配電システムは新しい取り組みですので、さまざまな再エネ機器や負荷機器との組み合わせや相性確認を行っています。ショートなどの故障が起きた時の保護や、電圧が異なることでのマイグレーション方法※4のあり方、また、モータの回生電力※5の有効活用など最適なEMSのあり方などを実証し、技術構築を行っています。

※4 マイグレーション:移行という意味。ここでは直流配電電圧を負荷機器に必要な直流電圧(交流電圧の場合もあり)への移行の意味。

※5 回生電力:モータの特性を利用して減速時の運動エネルギーを回収し、変換された電力。

植主さんの写真
直流配電システム実証棟では、壁面に7.7kWの建材一体型太陽光パネルが設置されている。太陽光セルが強化ガラスに内蔵され、採光もとれる。
受配電システム製作所内にある「直流配電システム実証棟」
受配電システム製作所内にある「直流配電システム実証棟」

2016年に「直流配電システム実証棟」ができてから1万人を超えるお客様が見学に来ているということですが、それだけ関心を集める理由はどんなところにあるのでしょう。

植主さん:社会的には環境問題や資源、エネルギー問題への関心の高まり、大規模自然災害対策などBCP※6に対する認識の高まりが背景にあると考えます。直流配電は、そういった問題に対して、省エネ、電源の高信頼化といった部分で市場の要求に対応する配電方式として注目されてきています。昨年度、政府によるカーボンニュートラル政策が発表されてから、さらに引き合いが多くなっています。

※6 BCP:災害などの緊急事態における企業などの事業継続計画(Business Continuity Planning)のこと。

直流配電事業を進める上での課題としてはどのようなことがありますか。

植主さん:課題としてはまず、直流で動作する負荷機器がまだまだ少ないことです。実証棟の家電も実証用に改造を施しているものがあり、LED照明以外、製品としての保証がまだありません。また、規格の標準化もまだまだです。今は直流の仲間を増やしながら規格の標準化も併せて進めている状況です。直流配電を広げていく、それに伴って負荷機器も増える、そして増えたことによってまた直流配電が増えるという好循環をどうやって作っていけるかが課題ですね。

直流配電の特性を活かしたEV充電システムを実証

直流配電システムは蓄電池を最適に制御し、蓄電エネルギーを有効活用することにも役立つとお聞きしています。植主さんは「EVスマートチャージングシステム」の実証にも関わっているということですが、その仕組みの概要について教えてください。

植主さん:EV(電気自動車)の導入拡大に伴い、EVに搭載されている蓄電池を効率よく充電することで、EV充電時の配電系統の安定化や充電コスト削減をはかるというシステムです。EVに搭載されている蓄電池を効率よく充電することで電力需要のピークシフトや、蓄電池を発電機代わりにすることで電力のピークカットが可能です。これを実現するのが、「EVスマートチャージングシステム」です。

植主さんの写真
太陽光パネルで発電した電気を蓄電池に貯め、それをEVに給電するという一連の流れはすべて直流配電で行うことができる。
「大容量EVスマートチャージングシステム」の概要
「大容量EVスマートチャージングシステム」の概要

具体的にはどのような運用が考えられますか。

植主さん:たとえばあるバス会社が複数台のEVバスを持っていたとします。バスを効率よく充電するために、バスの運行システムに合わせて充電の順番を管理し、電力使用のピーク時の充電を避けることができます。また、EVで貯めた電気を供給することによってピークカットにもなります。システム全体での最大電力使用量を抑え、配電系統への負荷を減らすことを想定しています。

脱炭素化を進めるエネルギーインフラでSDGsにも貢献

受配電システム製作所は受配電分野において大きな競争力を持つとされていますが、その強みについて教えてください。

植主さん:84kV以下の開閉装置の専門工場として、業界をリードするさまざまな製品を作ってきました。たとえば、国内トップシェアをいただいている「真空遮断器」※7や、地球温暖化係数の高い「SF6ガス」※8の代わりにドライエアを使った「キュービクル形ガス絶縁スイッチギヤ」※9や、モータ診断機能付き「マルチモータコントローラ」※10などもその一つです。今後はハードだけでなく、EMSのようにソフトウエアやシステムの開発も強化していきたいと考えています。

※7 真空遮断器:スイッチ部を真空にすることで比較的大きな電気を遮断するブレーカーのこと。

※8 SF6ガス:六フッ化硫黄ガス。絶縁材などとして広く使用されているが、地球温暖化係数が非常に高いため、排出抑制対象ガスの1つとされている。

※9 キュービクル形ガス絶縁スイッチギヤ:1つの密閉矩形容器に遮断器、断路器、接地装置などを収納し、小型で耐環境性に優れた開閉装置。

※10 マルチモータコントローラ:工場の機械設備の動力を担うモータの運転・停止、保護、監視を集中管理する低圧モータコントロールセンタ用マルチモータコントローラ。

植主さんの写真
直流配電盤は、中低圧直流配電システム「D-SMiree」の心臓部を担う。
国内トップシェアを占める「真空遮断器」
国内トップシェアを占める「真空遮断器」
脱SF6ガス化を実現した「キュービクル形ガス絶縁スイッチギヤ」
脱SF6ガス化を実現した「キュービクル形ガス絶縁スイッチギヤ」
負荷機器のモータの劣化なども一目でわかり、省エネに加えて省力化にも寄与する「マルチモータコントローラ」 負荷機器のモータの劣化なども一目でわかり、省エネに加えて省力化にも寄与する「マルチモータコントローラ」
負荷機器のモータの劣化なども一目でわかり、省エネに加えて省力化にも寄与する「マルチモータコントローラ」

仕事をする上で社外団体と連携して進めることはありますか。

植主さん:直流配電を拡大するためには、直流で動作する負荷機器を増やすための連携が社内外を含めて必要です。国への法整備の働きかけや産官学による規格整備も必要ですので、現在、NEDO、各学会、大学、工業会などを通じてネットワーク作りも行っています。

三菱電機グループは持続可能な社会の実現に向け、事業を通じて取り組んでいますが、配電システムの技術を通じ、どのように貢献することができるのでしょうか。

植主さん:先ほどの直流のメリットの説明でも触れましたが、省エネを推進し、再エネとの親和性が高い直流配電システムは、脱炭素化に大いに貢献します。また、EVのバッテリーなど直流で充放電する蓄電池との組み合わせにより、災害時など停電が起きた際にも、電力供給ができるため防災やBCPにも役立ちます。なお、既存の交流配電システムであっても、エネルギーマネージングシステム(EMS)の適用により、脱炭素化に貢献することができると考えています。
このようなことから、SDGsの17の目標では「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」、「13.気候変動に具体的な対策を」に貢献できると確信しております。

「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「13.気候変動に具体的な対策を」