このページの本文へ

ここから本文

エレベーターの写真 エレベーターの写真
くらしのエコテクノロジー くらしのエコテクノロジー
vol.6
資源を循環させるサイクルを「知らせる」ことで環境に貢献したい
ハイパーサイクルシステムズ 管理部 総務課 石井 葵
人物編

資源を循環させるサイクルを「知らせる」ことで環境に貢献したい

2019.03.11

数多くの家電を製造する三菱電機では、廃棄された家電のリサイクルする仕組みを自社で持っています。その事業を行う「株式会社ハイパーサイクルシステムズ(以下HCS)」は、自社の家電だけでなく他社の廃家電も受け入れ、高度な分解、選別技術により、廃棄家電から純度の高い再生素材を生み出し、「ゆりかごからゆりかごへ」※1と呼ばれる循環型のものづくりをしっかり支えています。欧米でも今大きく注目される「サーキュラー・エコノミー」※2を担うHCSで工場を一般の方に紹介している石井さんは実際にその現場をどのようにとらえているのでしょうか。一般消費者の立場からリサイクルの現場で働く当事者になってからの気持ちの変化などを中心にお聞きしました。

  • ※1 「ゆりかごからゆりかごへ」(Cradle to Cradle):モノの「廃棄」という概念をなくし、原材料から作られたモノを再び原材料として戻す、地球環境と生物多様性に配慮したモノづくりを意味する。
  • ※2 サーキュラー・エコノミー:「循環型経済」のこと。資源循環の効率化だけでなく、資源の無駄や捨てられている素材、まだ使用できるにもかかわらず破棄されている製品などを活用し、利益を生み出すことを目指す考え方。EUでは経済成長戦略の一つとして位置づけている。

「リサイクル」の実際の工程を体験することでわかること

HCSは廃家電を分解し、素材として再生できるようにする工場ですがその中で石井さんはこのHCSでどのようなお仕事をしているのでしょうか。

石井さん:業務は主に3つありまして、1つは社長のスケジュール管理、2つ目が事務所内の事務仕事、庶務など、そして3つめがお客様にリサイクルを知っていただくために工場の見学の受付、視察説明を行っております。

工場見学の写真
工場見学ではわかりやすい説明を心がけているという石井さん

工場見学は年間どれくらいの方が来られるのでしょうか。

石井さん:年間1000名くらいのお客様が来訪し見学をされます。リサイクルに興味のある自治体や団体の方などが多く、私自身は学生さんの見学を主に担当しています。今後は就学生対象の見学も増やしていきたいと思っています。

廃家電のリサイクルはさまざまな工程がありますが、工場見学に来られた方が一番興味をもたれるところはどんなところですか?

石井さん:そうですね、やはりダイナミックに破砕(はさい)をする部分でしょうか。冷蔵庫など大きな廃家電が機械の中に入って粉々になる現場を実際に見るとびっくりする方が多いですね。みなさん「凄い」とその迫力に驚かれるようです。

私も御社のwebサイトの映像などで御社の廃家電のリサイクル過程は拝見しましたが、やはり実際に見るのと違うのでしょうか。

石井さん:言葉として「リサイクル」と聞くことはよくありますし、リサイクルの映像を見ることもできるのですが、それと実際に現場を見ることは違う体験になると思います。

確かに言葉や映像だけでなく、現場の音や人やモノの動きと一緒にリサイクルの現場を体感するのでは理解の深さが違うかもしれませんね。

石井さん:私自身がそうだったのですが、「家電リサイクル」という言葉を聞いた時に、入社するまでは「なぜリサイクル料金まで払わなければいけないのだろう」と考えていました。「リサイクル」という言葉は知っていても実際の内容は知らなかったのです。でも、この仕事を通じて、実際に廃家電が手解体、選別された後に、また新たに素材として商品に再利用されていることが目に見えてわかりました。ですので、工場に来た方にも、私自身と同様に実際に自分の目で見て、理解して、納得するということを体験してほしいと思っています。

地元千葉の海に潜って感じた温暖化の影響

石井さんの写真

石井さんはもともと環境のことに興味があったのでしょうか。入社を決めたきっかけというのはありますか?

石井さん:私が育った地域は千葉の山間部なのですが、家電や大きな家具などの不法投棄が多い場所でした。たぶん処理にお金がかかるものが捨てられているのだと思います。そういった不法投棄がなくなればいいなとずっと思っていましたので、会社の情報を見た時に大変興味がわきました。それも入社のきっかけの一つだと思います。

現在は環境に関わるお仕事をしているわけですが、ご自身が環境について興味をもっていることはありますか?

石井さん:やはり、今お話ししたように不法投棄による環境の悪化には問題意識を持っています。またCO2排出による温暖化については、日ごろニュースなどでも報道されることが多いので関心のあるテーマです。直接的に自分にもかかわってくる部分ですし。

実際に地球温暖化というのを感じる時はありますか。

石井さん:夏に千葉の館山の沖ノ島というところにシュノーケリングによく行くのですが、最近は以前にはいなかった色鮮やかな魚が群れで泳いでいるのを見られたり、時にはウミガメも近くで見ることができます。それはとても楽しい体験ですが、以前にはなかったことで、これも海水温の上昇、つまり温暖化の影響なのではないかと思います。

関東の南の海域平均海面水温(年平均)
関東の南の海域平均海面水温(年平均)※気象庁調べ
海水温の1℃上昇は地上の大気の1℃上昇に比べて3000倍以上の熱を蓄えることになる

お仕事ではそういった気候変動の影響や変化を感じることはありますか。

石井さん:やはり夏の気温が高くなってきて、エアコンを買い替える方が多いので、廃棄されたエアコンの入荷率が夏の時期はいつもの1.2倍ほどになります。また、工場内の気温も高くなりますので、作業する人の健康面での配慮も必要になります。

プラスチックも正しく処理をすれば資源に

お仕事でも日常の生活の中でも温暖化を感じているのですね。ご自身が環境のために実践されていることはありますか?

石井さん:ありきたりかもしれませんが、家では空調や照明など、つけっぱなしはしないように気を付けたり、コンセントも必要な時以外は抜くようにしています。また、今は一人暮らしをしているのですが、調理する時に電子レンジをうまく使うと省エネになると聞いて、料理の下ごしらえなどに電子レンジを先に使ってコンロの使用時間を減らすようにしています。料理も前はあまりしなかったのですが、健康のためもありますし、コンビニやスーパーでお弁当やお惣菜などを買うと包装ごみがたくさん出るので、なるべく野菜などを買って、できる限り自分で料理をしようと心がけています。

石井さんの写真
図
2050年には海洋プラスチックゴミは魚の量を上回り、消費する原油の20%がプラスチック生産に使用されると予測されている(World Economic Forum2016より)

包装ごみは確かに多いですね。今、世界的にもプラスチックゴミが問題になっていますし、海のマイクロプラスチックの問題なども大きく注目されていますが、そういうことにも関心はありますか?

石井さん:はい、先ほどお話したように休日には海に潜ることがありますので、そういう時にもビニールゴミが浮遊していたり、身体にまとわりついたりとプラスチックゴミを目にすることが多いです。また、そういうものを魚やウミガメなどの海洋生物が食べてしまうという問題も指摘されています。ですから、なるべく自分でも包装ごみを減らしたいと思いますし、実践もしています。

このHCSでは廃棄された家電品からプラスチックを選別し、再び製品に利用できるようにしていますね。

石井さん:そうなんです。本来であれは正しく処理をすると循環されるものであっても、正しく処理をされないで投棄されると地球や環境に悪い影響を与えます。でも、できる限り正しい処理をしてもらえれば、それは資源になりますし、プラスのサイクルが生まれます。

リサイクルの現場を実際に見てもらうことが変化を生む

この工場には大容量の太陽光パネルも設置されていますが、工場の中で省エネなど環境を考えた活動があれば教えてください。

石井さん:まず、太陽光発電についてですが、全体で430kwhの発電容量があり、工場全体で消費するエネルギーの10~15%をまかなっています。工場内でも照明を順次LEDに変えたり、高効率なモーターを使ったりと省エネにも配慮しています。何より、業務自体が循環型のリサイクルをする事業ですので、環境に貢献する仕事だと思います。

石井さんの写真
HCSの写真
2009年には皇太子様(当時)が家電リサイクルの現場を見るためHCSに視察に訪れた

最後になりますが、地球環境も変化し、温暖化が進んだり、資源の枯渇なども言われるようになりました。こうした大きな変化の中で、未来の子供たちにつないでいく持続可能な社会のために、今後取り組みたいことなどがあれば教えてください。

石井さん:私自身、小学生を含む学生さんに工場の視察案内を担当していますが、リサイクルという言葉だけでなく、リサイクルの現場が実際にこうなっているんだということを皆さんに少しでも「知っていただく」のがとても大事なのかなと思っています。知った上でどう行動するかはみなさん自身の判断ですが、知るという機会がなかった方や、次の一歩を踏み出せていない方に、“リサイクルの現場を知る”機会をつくっていけるように仕事上でも貢献していきたいと思っています。

石井さんの写真 石井さんの写真

男性の多いハードな業務の続く工場内で明るい笑顔で応対する石井さんは、みんなを和ませる “職場の花”なのではとお見受けしました。実際にお話をしてみると、質問に対して丁寧に言葉を選んでお答えいただき、自分の考えをしっかり持っている方だとわかりました。環境のことも素通りせず、自分が体験したことを元に考えて行動し、仕事でも「知らせる」ことの大事さを感じている石井さんは、リサイクルの現場を一般の方に紹介し、知らせる適役なのではないでしょうか。