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vol.12
開発から取説、リサイクルまで、ショーケースのライフサイクル全体を考えて設計したい
三菱電機冷熱応用システム株式会社 ショーケース製造部 技術課 保坂 恵子
人物編

開発から取説、リサイクルまで、ショーケースのライフサイクル全体を考えて設計したい

2019.08.29

世界遺産の熊野古道や高野山をはじめ、自然豊かな海と山に恵まれた和歌山県。この豊かな自然に囲まれた和歌山市に位置する三菱電機冷熱応用システム株式会社は、三菱電機冷熱事業のグループ企業として、冷熱システム製作所と連携しながら冷熱応用製品を開発・製造しています。その主力商品が、保坂さんが設計する冷凍・冷蔵ショーケース。身近でありながらどのような仕組みで作られているのかなかなか知る機会のないショーケースですが、そこにはさまざまな冷熱技術や環境技術が使われていました。製造部で設計を全面的に担う技術者、保坂さんに設計する上での想いを環境への視点も併せてお聞きしました。

冷熱技術を結集したショーケースを開発

保坂さんが勤務する三菱電機冷熱応用システム株式会社ではどのような製品を開発、製造しているのでしょうか。

保坂さん:大きく分けて3つの事業があります。1つは私自身が関わっている冷凍・冷蔵ショーケースを開発し製造する事業です。2つめは冷熱技術を使って主に業務用の空調や食品の保冷庫など、幅広く冷熱を応用した製品を開発、製造する事業です。3つめが冷熱システム製作所からの依頼で電子基板や配管など製品やパーツの生産を請負う部門です。

「冷熱」とはその名の通り冷たくしたり熱を作ったりする技術を言うのですね。その中で保坂さんは主力事業でもある冷凍・冷蔵ショーケースの開発にかかわっているとお聞きしました。

保坂さん:はい、現在は内蔵形冷凍・冷蔵ショーケースの製品開発を担当しています。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどにある食品を販売するショーケースの構造や機能を設計する仕事です。

ショーケースの省エネ技術は冷熱をいかに効率よく作るか、利用するかが決め手。保坂さんが指さす部分には冷却器やファンに霜がつくのを防ぐ技術がある。
ショーケースの省エネ技術は冷熱をいかに効率よく作るか、利用するかが決め手。保坂さんが指さす部分には冷却器やファンに霜がつくのを防ぐ技術がある。

実際にはどんな作業をするのでしょうか。

保坂さん:CADを使って構造の設計図を書いたり、性能の計算をしたりします。またその性能を出すための部品などの仕様も決め、実際に試作が上がってきた時に課題点を修正するなど、1つの製品の設計から量産化されて製造されるまで一貫して担当します。

内蔵形ショーケースの開発・設計にはどれくらいの期間携わっているのでしょうか。

保坂さん:千葉にあった当社の部署で3年間、別置(べっち)形ショーケースの設計に関わり、その後和歌山に移り8年間、内蔵形ショーケースの開発をしています。

内蔵形ショーケースと別置形ショーケースというのはどのような違いがあるのですか。

保坂さん:「別置形」というのは商品を陳列するショーケースと冷却するための熱源ユニットを別々に設置します。そのため冷媒配管工事が必要で、設置後は配置を変えずに常設します。こちらはスーパーマーケットなどで使われることが多いですね。一方の「内蔵形」は熱源ユニットを搭載した一体型で、コンセントにプラグを挿せばすぐに使えるタイプです。季節や催事内容によって、レイアウトを変える際にも便利なので、個人商店や産直市場、物産展、展示会などで使われることも多いです。

それぞれに開発する上での課題の違いなどはありますか。

保坂さん:別置形ショーケースは店舗に合わせた豊富なラインアップやオプション仕様が求められます。内蔵形ショーケースは熱源ユニットを搭載しているので、省エネ性能や音、排熱対策なども必要になります。どちらも環境への負荷を抑えた冷媒を使うことが求められています。

冷媒の環境に対する負荷というのはどのようなことを言うのでしょうか。

保坂さん:ショーケースを冷やしたり温めたりする時には熱エネルギーを交換するための冷媒が必要になりますが、冷媒が大気中にもれると、オゾン層の破壊、地球温暖化への影響が問題となります。当社では、オゾン層を破壊せず、地球温暖化係数が小さい冷媒を使うようにしています。地球温暖化係数とは少し専門的ですが、GWP(Global Warming Potential)と言いまして、二酸化炭素を基準にして他の温室効果ガスがどれだけ温暖化させる性質をもっているかを表した数字のことです。モントリオール議定書※1などのグローバルな環境規制でも温暖化の原因となるフロンなどを用いた冷媒利用の規制が決められています。

  • ※1 モントリオール議定書:オゾン層保護の観点からオゾン層を破壊する物質の廃絶に向けた規制措置を実施する国際的な取り決め。1989年に発効。

省エネ性能、使いやすさなど進化するショーケース

毎日のようにスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで目にしているショーケースですが、こんなに種類があり、さまざまな技術が使われていることは知りませんでした。最近のショーケースが以前に比べて進化している点や開発が進んでいる点は主にどんなところでしょうか。

保坂さん:やはり省エネに関する進化が目覚ましいと思います。2年前に国が定める「省エネトップランナー制度」※2に内蔵形ショーケースが追加されたこともあって、省エネ基準が定められました。

  • ※2 トップランナー制度:製造事業者等に省エネ型の製品を製造するよう基準値を設け、クリアするように課した省エネ法に含まれる制度

どのような方法で省エネ性能を高めているのでしょうか。

保坂さん:詳しくは技術編のところで説明しますが、内蔵形ショーケースのS(スポット形)シリーズでは約7割の機種でインバータ圧縮機(コンプレッサー)を搭載しています。先ほどお話したように冷媒も環境への負荷が少ないものへ変わりつつあります。インバータ制御は省エネだけでなく、陳列している商品温度のキープにも役立っています。

冷凍・冷蔵ショーケースに対するお客様のニーズは変化がありますか。

保坂さん:内蔵形ショーケースをご使用になる店舗では、イベント催事などでレイアウト変更が容易にできることや、100Vの電源であること、冷凍と冷蔵の切り替えができるかなど、使いやすさや可動性へのニーズが高まっていると感じています。

保坂さんの設計する内蔵形ショーケースにはインバータ制御の圧縮機の導入が進む
保坂さんの設計する内蔵形ショーケースにはインバータ制御の圧縮機の導入が進む

内蔵形ショーケースの販売や営業はどのような形で行われているのでしょうか。

保坂さん:営業や販売については三菱電機株式会社冷熱システム製作所が担当をしています。同じ建屋内にありますし、営業の意見なども聞いて開発を進めるなど、相互に連携してビジネスを進めています。

開発期間はどれくらいでしょうか。

保坂さん:開発機種にもよりますが、内蔵形ショーケースは8~12カ月くらいで開発着手から量産まで行っています。お中元やお歳暮、ホット飲料販売など、季節によって求められるショーケースが異なるので、発売時期を意識して開発しております。

家電の取説ノウハウを取り入れ、使う人に優しいマニュアルへ

入社当時は家電製品の設計もしていたとお聞きしましたが、その経験は今のお仕事にも役立っていますか。

保坂さん:入社から12年ほどは洗濯機の設計に携わり、洗濯機の脱水槽や防振部分を担当していました。今の仕事に役立っていることでは、取扱説明書の作成があるかと思います。

ショーケースの取扱説明書も作っていらっしゃるのですか。

保坂さん:はい。洗濯機の設計の時に取扱説明書を担当したわけではないのですが、査読といった形で携わり、制作過程も見ておりました。ご存知のように家電のマニュアルは一般の消費者に対してわかりやすくイラストなども豊富に使って表現しています。ショーケースのマニュアルもそういったノウハウを活かしたいと考えて制作しています。

「CADの画像などを使ってマニュアル用のビジュアルを作成することもある」と話す保坂さん
「CADの画像などを使ってマニュアル用のビジュアルを作成することもある」と話す保坂さん

上手く製品を使いこなすには取扱説明書の役割は大事ですね。具体的にはどんな点に気を使っていますか。

保坂さん:店舗の店員さんが見てもすぐにわかるように、イラストを豊富に使って使い方や困った時の対応などもわかりやすくしています。文字の大きさや文章を簡略化することにも気を使いますね。また、製品を使っている方からの問い合わせを受ける「冷熱相談センター」の情報も半年に1度入手して、説明が不足している部分は次の取説に入れ込みます。

なるほど、製品の開発をする方がマニュアルの作成に携わると、わかりやすさや精度が上がりますね。

脱プラスチック、食品ロスの削減など幅広い環境問題に関心

保坂さん

このところ世界中で気候変動による自然災害が起きることが増えていますが、環境の変化がご自身の生活に影響を与えていると感じることはありますか。

保坂さん:昨年は台風も多く、近畿地方を中心に大きな被害を出した台風21号では停電も経験しました。ここ和歌山でも2日間ぐらい電気が止まったところもありました。数十年に1度の大型台風と言っていましたが、もしかしたら毎年こういう規模の台風が来るかもしれません。頻度も増えて、大型化していることを考えると、環境の変化をひしひしと感じますね。

昨年の台風の時には、お仕事にも何か影響はありましたか。

保坂さん:はい、工場は台風が直撃した日は休業になりました。また、台風による高潮によって沿岸部にある取引先が浸水して部品の供給がストップするなどの被害もありました。

ショーケースが置かれているスーパーマーケットなどの商業施設でも省エネや使い捨てプラスチックの削減、食品ロスの低減などさまざまな課題に対する取り組みがなされていますが、保坂さんご自身が気になること、関心のあることがあれば教えてください。

保坂さん:食品ロスの問題では2月の恵方巻の大量廃棄の問題が気になります。食品を廃棄するにはそれだけエネルギーも使いますので、食品とエネルギーの両面で「もったいない」と感じます。賞味期限についてもいろいろ議論がされていますが、食品ロスの問題と関わるので関心がありますね。

最近は食品ロスを解決しようと流通側でも賞味期限間近の商品を購入するとポイントがついたり、安く一般消費者に販売するなどさまざまな解決策が模索されているようです。

保坂さん:そうですね、テレビでの報道で見ました。また、プラスチックゴミの問題も大変気がかりです。海外に輸出していた国内のプラスチックゴミに対する受け入れが拒否されて、国内ではそれらを処理しきれないという報道もあります。

プラスチック汚染は海洋生物への影響も甚大です。

保坂さん:海に漂うビニール袋をウミガメが誤って食べてしまい命を落とすなど、人間の利便性のために作られたものによって他の生物が被害を受けるということがあってはならないと思います。マイクロプラスチックなどの有害物質を食べた魚を通じて人体に取り込まれる可能性などを考えても、プラスチックの3R(リデュース・リユース・リサイクル)を進めることが必要だと思います。

商業施設に関わらず、環境のことで興味や関心をもっていることがあれば教えてください。

保坂さん:ハワイではサンゴ礁保護のため、特定の化学物質が含まれる日焼け止めの販売が禁止される※3ことを聞き、関心をもっています。有害物質によって水温が低くてもサンゴが白化して死滅する影響があるそうです。サンゴ礁は海洋生物の住処にもなっているので漁業などにも影響が出るのではと心配です。

  • ※3 ハワイの日焼け止め規制法:紫外線カット成分のオキシベンゾンとオクチノキサートが含まれる市販の日焼け止めの販売や流通を禁止した法律。2021年から施行される。パラオでも同様の法律を制定している。

グリーンなビルで持続可能な未来を作る仕事に取り組む

保坂さんの職場である「技術棟」は太陽光集光システムや自動開閉する換気の窓など、空調だけでなくビル全体での温熱環境を整える工夫がたくさんありますが、実際にこのビルで仕事をしていて快適ですか。

保坂さん:大変快適です。太陽光の集光器があるので吹き抜けから自然採光がとれますし、温度や湿度を測るセンサーによって自動的に窓が開閉する自然換気の仕組みもあって快適に過ごせます。最初は自動的に窓が開くのに驚きましたが、今は慣れました。暖房の補助として地中熱なども使われていて、省エネ性能も高いビルなんです。

このビルは実証実験としても使われているということですが・・。

保坂さん:各フロアで三菱電機の異なる空調機器を設置して、空調機器の実証実験の場としての役割も持ち合わせています。室温や電力使用量などの数値もきちんと記録して新たな製品開発などに役立てていると聞いております。

太陽光の集光システム
太陽光の集光システムによって吹き抜けは明るい陽光がさんさんと差し込み、緑が生い茂る
三菱電機株式会社製単結晶シリコンセルの太陽電池
技術棟屋上には高出力の三菱電機株式会社製単結晶シリコンセルの太陽電池が設置されている。屋上にはさまざまな種類の室外機も並ぶ

最後に持続可能な社会のために、私たちができることは何だと考えますか。普段の暮らしの中ではどうでしょう。

保坂さん:特別なことはしていないのですが、プラスチックゴミの問題もあるのでペットボトルのリサイクルやエコバッグの活用などはきちんと意識をもって継続的に取り組みたいと思います。また、自宅の冷蔵庫も10年くらい使っているので、省エネ性能の高いものに買い替えることを検討したいと思います。冷蔵庫は常に動いているものなので、影響は大きいかと思います。

お仕事で今後取り組みたいことなどがあれば教えてください。

保坂さん:仕事では製品の省エネ性能の向上と、フロン冷媒を温暖化係数の低いグリーン冷媒へ変更することを進めたいと考えています。先ほどお話したモントリオール議定書や、2016年に追加されたキガリ改正※4といったフロン規制の国際的な法律もありますので。また、ショーケースのリサイクル性やフロン冷媒の回収性を高めることも進めていきたいです。

  • ※4 キガリ改正:代替フロンを新たに議定書の規制対象とする改正法
城下町である和歌山市内を望む場所に立地する三菱電機冷熱応用システム株式会社 城下町である和歌山市内を望む場所に立地する三菱電機冷熱応用システム株式会社
城下町である和歌山市内を望む場所に立地する三菱電機冷熱応用システム株式会社

一つ一つの質問に丁寧にお答えくださった保坂さん。ショーケースの開発・設計だけでなく取扱説明書の作成にも自ら携わり、開発からユーザーが製品を使うところまできめ細かく配慮をするというところに、女性らしい心配りと技術者としての骨太の技量を感じました。環境問題についても海洋プラスチックの問題から食品ロスまで本当に幅広い関心をお持ちで、そういった意識が製品開発にもしっかり活かされているように思います。保坂さんのお話を伺って、毎日のようにお店で目にしているショーケースを別の視点から眺められるようになりました。